2006.March.19
日本でもっとも研究されているカミキリのひとつ、
スギカミキリ
林業関係者にとっては害虫ですが、花粉症の人にとってはむしろ益虫? 良くも悪くも注目されている種類です。 農学部に在籍しているカミキリ屋さんなら 必ず採集しておかねばならない種類です。
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スギカミキリ採集のために必要な情報を整理すると、
・材内成虫越冬で、春の早い時期に出現すること
・楕円形の羽脱孔を空けること
・昼間はスギなどの樹皮下に潜んでいること
ここまでは知っていて毎年チャレンジしましたが、いまだに採集できていません。
実はもうひとつ、重要な情報があったのです。
・「成虫の羽脱は桜の開花時期にピークとなる」
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今まで見事に時期を外していたことに気づき、 研究計画を練りながら春の足音をうかがう日々。 そして桜開花予想3日前の今日、前夜の気温も良かったので(夜行性種は夜に羽化脱出する)、 自宅から本町水田へ行く途中、通いなれた川崎市のフィールドへ寄り道しました。
昼過ぎにおなじみの現場に到着。 まさに春の嵐、土埃と花粉でかすんでいます。 ここからひたすら歩いてポイントを目指します。
もう道端のキブシも開花しています。でも、虫を待つクモの姿しかありません。
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だいぶ歩いて、以前から目をつけていたスギ並木へ到着。 新しい脱出孔を求めて幹を眺めます。
スギカミキリは樹皮の隙間に産卵し、 孵化した幼虫は樹皮下を食べ始めますが、 ここでスギとカミキリの死闘が始まるのです。
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スギ:大量のヤニを分泌し幼虫を取り囲む
幼虫:ヤニから逃げつつ樹皮下を食べる
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どちらが勝つかはスギの性質・体力次第。 強い品種と弱い品種があるようです。 通常、幼虫の多くは闘いに敗れてしまいます。
闘いを制した幼虫は、樹皮下に大きな食痕を残します。 成熟すると材部に進入し、蛹室を作って羽化します 羽化した成虫はそのまま冬越しして春になると出てきます。
こんな感じの横長の孔を空けて出てきます。 これは昨年のものです。
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かなり探索しましたが、どの木にも新しい孔は見つかりません。
樹皮をめくるとラクダムシ幼虫が出現。 ウスバカゲロウなどと同じ脈翅目で、肉食性だそうです。
いない場所で粘っても仕方がないので、 あきらめて別の場所へ移動することに。
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尾根を超えて移動すると、ヤニがダラダラ流れている木を発見
新しい脱出孔もありました。 この木を中心に探索しますが、カミキリの姿はなし。 この木には洞があるので、その中に潜んでいるのかもしれません。
とりあえず、成虫は出現していることがわかったので、 別の場所を探すことに
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さらに尾根を越えると、伐採木エリアに到着。 昨年の伐採に加え、この春にも伐採が行われたようです。
スギカミキリ成虫は新鮮な伐採木にも集まるので、伐採木も要チェックです。
伐採木で見つけた新鮮な脱出孔。 これは絶対どこかにいるはず。樹皮をめくったり、丸太を持ち上げたり。
でも、結局見つかりませんでした。
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<探索開始から2時間。 発見できた虫は、エサキモンキツノカメムシ、ヤニサシガメ幼虫、クサギカメムシ、ラクダムシ幼虫など。
スギカミキリは未だゼロですが、 もう寄り道のタイムリミットが近づいてきました。
最後の望みをかけて某神社を見てみることにしました。
小規模ですがスギ並木
ヤニもあちこちから出ている
根元を見るとやや古い脱出孔もある。 何気なく、右側の浮いた樹皮を持ち上げてみると
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「あ、やっと見つけたか。」
「とりあえず、カメラ出さなくっちゃ。」
樹皮を静かに戻して、カメラを起動し、 再び樹皮を持ち上げる
スギカミキリ
改めて、写真撮影。結構気温が下がってきたので逃げる気配なし。
成虫のすぐ上には真新しい脱出孔が。 昨晩脱出してきたのかもしれません。
撮影終了後に樹皮をまた戻して、 カメラを収納してから樹皮を持ち上げ、手でつまんでタッパーに確保。
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「とりあえず、出会えてよかった。」
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さらに追加を狙うも、ヤモリの集団越冬とかエサキモンキツノカメムシしか見当たらず。
クロスズメバチ女王
これは採集しておきました。
かなり時間が厳しくなったので、追加をあきらめて本町水田へ向いました。
1匹だけのスギカミキリでしたが、 無理して来た甲斐がありました。 これで関東の「害虫系」カミキリはスギノアカネトラ、シラフヒゲナガ、そしてオオトラを残すのみ。 とりあえず、スギを学部生のうちに採集できてよかったです。