奥多摩:梅雨明け当日

2006.July.30

西日本を中心に大きな被害をもたらした梅雨前線も、 例年ならそろそろ天気図で上の方に追いやられる頃。 週明けの天気予報では今週末は雨でした。 でも、だんだん好転していって、 前々日あたりで曇り時々晴れになりました。

この時期、奥多摩ではリョウブの花が咲きます。 しかし前回見た限りでは原生林のリョウブにはつぼみがなく、 とても花は期待できる状況ではありません。開花するならば、昨年のようにクロサワヘリグロハナカミキリが採れるのですが...。

そこで、林道沿いに生えているリョウブを狙おうというわけです。 今日行く林道は昨年までよく通った場所です。 比較的大きな木が5本くらい並んでいる場所があり、 リョウブ御神木 と名づけていました。その先に、なかなか集虫力の高いノリウツギもあるので、 それら2つを目当てに土曜日夜から行ってきました。


土曜日、農薬分析を終えて奥多摩行きの電車へ。 終バスに乗って、いつもの場所へ。 夏至を過ぎてだいぶ日が経ったので 日暮れが徐々に早くなってきます。

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着いた頃にはかなり暗くなってました。 灯火の前で張り込んで、時々訪れるクワガタ採りの一行とお話しながら甲虫を待ちます。 が、今夜はなかなか飛来しない。 おかしいと思っていたら、22時頃いきなり雨。しかも結構強い。 明日までに晴れることを期待しつつ就寝。

日付が変わる頃、寒さで目覚める(今回は寝袋なしです)。 雨は止んでいて、ノコギリカミキリやホソカミキリなんかが電柱にくっついていました。 これは期待できそうです。

翌朝

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まだ雲が残っていますが、天気は確実に晴れへ向っています。 朝食を済ませ、灯火を見ながら林道を目指します。

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灯火に来ていたオオムラサキ♂

そういえば昨年も灯火で採りました。

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林道を登る頃には日差しも強くなって、 かといってカンカン照りではない、 なかなか良い気象条件です。 林道脇に至る所に見られる伐採枝に気を採られつつも、 少しずつ登っていきます。

リョウブもありますが、株が小さいからかつぼみはありません。 「御神木くらい大きくならないと花は咲かないのだろう」と思って気にせずどんどん進みます。

しかし実は、この時点でおかしいと気づくべきでした。

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林道脇に生えるヤマグワ。 奥多摩でヤマグワといえばイッシキキモンカミキリ。 こんな感じで掬いやすい木を覚えておくと採集に役立ちます。 (この木で2年前に採集したことがあります)

一応、葉を眺めてみると下の方の葉になにやら細長い影が・・・。 これって、もしかして、当地で1例だけ記録があるギガンテア(オニホソコバネカミキリ)?

はやる心を押さえつつ、 気づかれないように慎重に網を伸ばし、葉から落とす。 そして網の中を覗く、緊張の一瞬。

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ホソツツリンゴカミキリ♀

しかもなかなか大きい。 やっぱりそう簡単には採れないか。 採れるとしたらこの先のリョウブ御神木くらいかな。

気を取り直してリョウブ御神木目指して歩みを進めます。

ところが、一向に着きません。 ついに昨年キタスカシバを採集したあたりまで来てしまいました。 ひょっとして見落としたのか?

すぐ近くに生えている例のノリウツギはというと

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やや日陰ながらも見事に咲いています。 それにしても、御神木以外のリョウブもまったく花が咲いていません。 近くのリョウブを見てもつぼみが出ずに新枝が伸びています。 今年の梅雨の日照不足の影響でしょうか?

ノリウツギは後にも先にもこの1本だけ。 こうなったら、ここで粘るしかないです。

背丈は私の身長くらいしかないので、すべての花がすぐ近くで見られます。 見た感じでは虫の数もなかなか多くそれなりに楽しめそうです。

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ミヤマホソハナカミキリ

前胸中央に黄色い縦筋が入っているのでホソハナ系ではすぐに見分けられます。

朝の早い時間はミヤマホソハナ、ニンフハナ、トゲヒゲトラが圧倒的に多かったのですが、 やがてミヤマホソハナがいなくなり、ジャコウホソハナ、ヒゲジロハナ、エグリトラ、ホソトラなどが少数ながらも出現。 時間の経過に伴うカミキリ相の変化が観察できました。

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キアゲハ

昼になるとチョウも飛んできます。

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イチモンジセセリ

かなり素早いです。

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アオジョウカイ

捕まったのはニンフハナカミキリ。 花の上は食事場兼♂♀出会いの場ですが、常に危険と隣り合わせのようです。

「良い花を見つけたらひたすら待てばきっとよい虫が飛んでくる」

移動に時間をかけるよりはずっと待っていた方がいいみたいです。 何名かの先輩が同じことを言ってました。確かに、待っているだけで次々と虫が飛来して、なかなか面白いです。

とはいっても、ずっと花ばかり眺めていても飽きるので、 たまに周辺の伐採木を見たりします。

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ヌルデのひこばえ。よく見ると、何かが止まっています。近づいて見ると、

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ヨツキボシカミキリ

葉裏を見たら食痕だらけでした。こんな低い位置にも来るんですね。

昼過ぎ、ノリウツギにスズメバチみたいな虫が飛来。 なんとなく動きが変だと思って、よく見ると複眼が違う。

ハナアブです。

慎重に間合いを詰めて網を振ろうとしますが、 花を散らしてしまいそうでなかなか振りぬけません。 そうこうしているうちにハナアブは飛び立ち、ものすごい速さで視界から消えました。

あれは今まで見たハナアブとは別次元の擬態です。頭の中には、この名が浮かびました。

オオナガハナアブ

ただし採集できなかった以上、確証は持てません。 一期一会なのか、50年ぶりの再発見となるのか、それとも・・・。

その後さらに粘りますが再び飛来することはありませんでした。 そろそろバスも来そうなので少し早足で林道を下ることに。

しばらく歩いた後、周辺視野右側に飛行物体を捉えました。 黄色と黒の虫のようで、ハチ擬態昆虫かなと判断。 葉に止まったのでよく見ると、長い触角。 カミキリムシのようです。網で掬ってみると、

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イッシキキモンカミキリ

もう発生しているんですね。今まで採れなかった大型♀です。 付近にヤマグワは見当たらないので偶然飛んできたのでしょう。

さらに歩みを進め、リョウブ御神木があった位置に来ました。 カーブを曲がって、いよいよ御神木とご対面。



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なんだ、ちゃんとあるではないですか。 こんなわかりやすい木をなんで見逃したんだろう

さて、ちょっと時間は遅いけど早速掬ってみますか・・・。

一掬いめでいきなりヤツボシハナカミキリがここのはかなり黒化するんですよね・・・・



と、なるはずでした。というより、そうなって欲しかった。

今のは昨年の同じ時期の写真です。現実は、なんと、木がない

そんなバカな・・・

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変わり果てた姿のリョウブ御神木たち。 その近くの林道脇には、

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リョウブ御神木の残骸

これを楽しみに登ってきたのに・・・。 ギガンテアが採れるならこの花だろうと夢見ていたのに・・・

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この工事で何がやりたかったのか理解できません。

がっかりしながら林道をさらに下る。 倒木の陰をふと見ると

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ルリボシカミキリ

伐採の恩恵を受けているようですね。 これはそのままにしておきました。

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ヤマグワの梢に見えるイッシキキモンカミキリの後食痕。 葉脈に沿って線状の食痕を残します。もう発生しているとは予想外でした。

そして、林道起点付近

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アワブキの葉に止まるスミナガシ終齢幼虫。個人的に好きなチョウで、 かなり大きかったので思わず採集してしまいました。 (8/2に無事蛹になりましたが、残念ながら羽化せず。)


梅雨明け当日という絶好の条件の中、 例のノリウツギでかなり楽しめました。なかなか良い条件で採集ができました。 リョウブ御神木は残念でしたが、 またそのうち新しい御神木が育つことでしょう。

この地域が今ひとつ人気がないのは夏に掬える花が少ないことが大きいのかもしれません。 特に、車で採集に行くことが当たり前となった現在、 林道をわざわざ1時間も歩いて1株だけ咲いているノリウツギを掬うよりは、 車でビューンと行ってたくさんあるノリウツギを掬う方が魅力的でしょう。

でも、たとえ1株だけでも十分楽しめることもある。 そんなことが今回の採集でよくわかりました。

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