奥多摩:秋の気配

2006.Sep.10

9月に入り虫の音もあちこちで聞かれるようになり、 本町水田のイネも黄金色に近づき、 いよいよ秋の気配が感じられます。

今回の狙いは秋のカミキリムシの代表、 コブヤハズカミキリの仲間です。奥多摩では2種が分布しています。

セダカコブヤハズカミキリ(7月に採集済み)

フジコブヤハズカミキリ(ここでは未採集)

記録を見る限りこの2種は奥多摩に広く分布しているはずなのですが、 生息密度がかなり低いらしい。 しかも、近年増殖しているシカの摂食活動により林内の下草は食べ尽くされ、乾燥した場所が増えている印象を受けます。

WEB上に公開されている登山記録で生息地を絞り込んでいくと、 枯れた笹が密生する某尾根に目が留まりました。 笹に引っかかっている枯葉に潜む個体を採集するのはコブヤハズカミキリの採集状況としてよくあることです。 ポイントまでの距離もいつもよりは長いですが、 いかにも生息していそうな感じなので行ってみました。


早朝、国分寺駅を出発。 奥多摩駅について、始発のバスに乗ります。 空は快晴、気温も上がりそうです。

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谷の景色

葉が色づいている木も見られます。 バス停を降りて、ポイントへ向ってひたすら歩きます。

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ムラサキトビケラ

途中、舗装道路に落ちていました。 世界でも最大のトビケラといわれているそうです。

途中、岩場でイネ科植物が生えている場所に出ました。

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カミキリムシ採集だと見向きもしない場所です。 そのまま素通りしようとしたら、足元からチョウが飛び立ちました。

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ツマジロウラジャノメ

ここでは初めて見るので、慎重にネットインしました。

岩場はすぐ終わり、ミズナラ主体の原生林をひたすら歩きます。 この地域の特徴は、なんといっても下草の少なさです。 林内はあちこちに木漏れ日が差し込むのですが、 目につくのは木の幹と倒木と落ち葉くらいです。 風通しも良く乾燥していて山歩きには快適なのですが、 コブヤハズにはちょっと厳しいかもしれません。

尾根道をひたすら進むと、前方で大きな物体が動きました。 それも、ひとつやふたつではないです。

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ニホンザル

10頭未満の群れでした。 野生動物の縄張りに入ってきていることを改めて実感しました。

標高をどんどん上げて、やっと目的地に到着。

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目の前に、突如出現した枯死スズタケ群落。 登山道の両側に生えています

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たまに青々とした株も見られます。 枯れてから何年か経っているそうで密度はかなり低くなっています。

ポイントについたので、探索開始です。 ところが、ビーティングを試みようとするものの、 枯葉が極端に少ない

冷静に考えればまだ落葉には早いですね。 しかも、枯れたスズタケが行く手を阻み、 ビーティングネットが枯葉まで届かない。 かろうじて叩ける枯葉を叩いていきますが、おなじみのクモ・コアリガタハネカクシ・アリのみ。

何十回ほど叩いた頃、網に大きな虫が落ちました。

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こ、これはもしかして・・・。

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オオゾウムシ

まだ生き残っていたとは。

その後、叩き続けるも、コブヤハズは落ちず。 こんなはずでは・・・・。

しばらく進むと、前方が急に明るくなりました。

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画像ではまったくわかりませんが、クマイチゴ畑出現。 棘を嫌ってシカが食べ残しているのでしょう。 8月に来ていれば、間違いなくセスジスカシバが採れる環境です。

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スカシバガは採れないかわりに オオセンチコガネが飛んできたので着陸点に向かい採集。 50mくらい、この状態が続きました。

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そしてまた、原生林に逆戻り。 スズタケも復活です。今度は、さっきより密度が高い。 コブヤハズの気配を感じて、探索にも熱が入ります。

これだけスズタケの密度が高いとビーティングはもはや不可能。 目視探索に切り替えます。

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ササの中に埋もれる倒木

夏なら、セダカコブヤハズカミキリが静止しているはず。 一応、近寄ってみると、枯葉が何枚かひっかかっていました。

じっくり見ても、何もいない。 念のため、握ってみても、何もいない。

別の場所に移動しようと思った時、左側の周辺視野に枯葉が写る。 さっきまで気づかなかった枯葉です。 顔を向けるより前に、何かが潜んでいるのを周辺視野で感じ取りました。

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顔を向けて、近づいて、ピントを合わせて、もう一度

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長い触角、とがった上翅末端、そして上翅の白紋。 間違いないです

フジコブヤハズカミキリ♂

震える手で何度も写真撮影して、 落とさないように慎重に手を回して採集しました。

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彼がつかんでいた枯葉。ギザギザの食痕があることから、この葉を食べていたようです。

あまりにうれしかったのでセダカコブヤハズカミキリのことは忘れて、 これでもう下山してしまおうかとも思いましたが、 まだ昼前です。

もう少し上まで行ってみることにしました。もちろん、目視探索は継続です。

第一発見場所から距離にして30m、時間にして10分ほどの場所

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乾燥していておいしくなさそうなイヌブナの枯葉つき枯枝が引っかかっています。

が、よく見ると、色が違う物体が乗っかっています。

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また見つけてしまった。 フジコブヤハズカミキリ♀

これで、1ペア揃いました。

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発見場所は黄色い円内。登山道のすぐ脇です。

もう、これで下山してもいいでしょう。 でも、この先どこまでもスズタケは枯れたままなのか気になったのでさらに先へ。

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途中、倒木はたくさんあり、

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太い立ち枯れもあり、夏にはセダカコブヤハズが集まりそうな場所です。

そのまま標高1600mを超えてもまだ枯れたままだったので引き返すことに。

途中、道を外れて別の尾根を下りそうになりましたが、引き返して正しいルートに復帰。

その後、晴れて気温も高くなってきたので、 モミ・ツガが多いエリアに行って幹を眺めてみたのですが、何も飛ばず。

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朽木のまわりを飛ぶシロスジナガハナアブを撮影したり、

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同じ個体が葉に止まったのを撮影したりしたくらいでした。

下山して、アカジマトラカミキリを期待して土場を見に行きました。 でも、キスジトラカミキリしかいませんでした。 こんな時期にもまだ生き残っているんですね。


採集例があまり多くない奥多摩のフジコブヤハズカミキリ。 今回は自分なりに情報を集めて、イメージしていた生息環境まで歩いて、 イメージ通りの状況で採集できました。

今回採集したのと同様の環境は奥多摩の他の場所にもきっとあるはずです。 >登山記録が掲載されたサイトを有効活用して独自のポイントを開拓してみてはいかがでしょうか。

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