2006.Oct.14
10月も半ばに入り、そろそろ野外でのカミキリムシ採集も終了の時期。 フジコブヤハズカミキリもこの前採ってしまったので、コブ叩きも終了。 でも、もうひとつだけ、重要なカミキリが残っていました。
ケブカマルクビカミキリ Atimia okayamensis (通称 アティミア(アテミア))
中国地方などではわりと採集されているものの、 奥多摩では1952年7月の1例のみ。 それ以来、誰の目にも触れることなく54年が経過しました。 50年以上記録がなければ、普通なら「絶滅」扱いです。 でも、私はだいぶ前から 「誰も挑戦しないから採れないだけではないか」 と思っていました。
そして今日、昔から目をつけていた険しい場所へ。 54年の空白を埋めるべく、Tokiくんと一緒に行ってきました。
この前と同じく奥多摩駅で待ち合わせ。 改札を出ると、予想以上に寒い。
曇ってて、霧雨まで降ってます。 同じ電車で来たTokiくんと2ヶ月ぶりに再会。 トイレや食料調達を済ませても、まだバス発車まで相当な時間が。
私「キボシ、見に行く?」
Toki「うん」
このまま寒い中待っているよりは、 この夏にキボシが採れた木がある場所へ。
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(中略)
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キボシカミキリとシギゾウムシsp.が採れました。 寒いので動きが鈍かったです。
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戻ってきてバスに乗って、目的地へ。
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バスを降り、虫の話をしながら目的地まで進みます。 途中から激しい登りとなり、会話は途切れ、 息を切らして汗びっしょりになりながら なんとか目的の場所へ到着。
ネズミサシの木
アティミアはこの木に依存して生活しています。 荷物を安全な場所に置いて、探索開始です。
Tokiくんは長竿と叩き棒で高所を攻める作戦、 私はビーティングネットで低所を叩きまくる作戦です。 しかし、こんな寒い中、本当に採れるのだろうか・・・。
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叩いても叩いても、
落ちて来るのは①ハサミムシ ③ハエ、ハチ、トビムシ、ムカデ。
アティミアはちっとも落ちてきません。 54年前の唯一の採集者であるT.Fujimura氏は 一体どうやって採ったんだろう・・・。
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1時間ほど探してもかすりもせず。 ここでふと、事前に頂いていた生態情報を思い出す。 それは、幼虫が穿孔する材に関してのもの。 今まで叩いていた木の根元に目を移すと、 まさに条件に合う枯枝が・・・。 その周囲を探すと、いくつか同じような枝がありました。
樹皮をはがしてみると、 食痕がたくさん走っています。 これは、もしかして・・・・。
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何やら黒い物体が出現。 カミキリの蛹のようでもあり、ハチの蛹のようでもあり。 でも、死んでいることだけは間違いない。
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明らかにカミキリムシの幼虫。 これって、もしや・・・・・。
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さらに、樹皮をはがしていくと、
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「いた」
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間違いない、ケブカマルクビカミキリです。
以下、心の声
『54年の時を越えて、再び私の前に姿を現してくれた!』
『こんな厳しい条件でも今まで生き残っていてくれたか。』
『でも、まさか発見できるとは。やっぱり妙な力が私に働いているな・・・。』
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「まじで? 見せて」
私の大声を聞きつけたTokiくんが急いでやってきました。
私「これ」
Toki「ほんとだ。でもこれ死んでない?」
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よく見ると、蛹室から出したのにピクリとも動かない。 息を吹きかけても同じ。 寄生蜂から逃れて(この材では結構寄生されていました)、 もう少しで野外に出られたのに・・・。
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さらに
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もう1匹、しかしまたも死骸。
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でも、死骸でもいい。 54年前、T.Fujimura氏の前に現れて以降、 ホストがほとんどない厳しい環境の中で脈々と子孫をつなぎ、 こうして再び私の前に姿を現してくれたのだから。
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天気も悪いのでネズミサシ掬い&叩きから 枯枝探しに変更。 しかし、その後追加は得られず。 Tokiくんも良い材を見つけたものの、 食痕をたどると寄生されていることが判明。
Toki「朝のキボシで運を使い果たしたかも・・・」
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昼まで探索しても採れないので、場所を大きく移動。
油断しても命を落とす場所ではないので安心して歩きます。 原生林の中はだいぶ落ち葉が積もっていました。
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第2ポイントへ着いて、別の虫を探索。 3月にすでに採集しているビャクシンカミキリです。
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しかし、ここでデジカメの電池が切れる。 以後、内容を大幅に省略。
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しばらくして、私は無事に採集。 この時期にはすでに材内で羽化していることがわかりました。 今年も無事見つかってよかった・・・。
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しかし、Tokiくんはかなり苦戦。 暗くなるまで4時間くらい粘って、ようやく1♀採集。
Toki「死ぬ思いした」
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バスの時間が迫っていたので、 山道を転げるように降りてバス停までランニング。 なんとか出発2分前くらいに到着して奥多摩駅へ。
今回、54年ぶりに姿を見せてくれたケブカマルクビカミキリ。 最初の採集者T.Fujimura氏は、実は東京農工大学の関係者(昆虫学研究室の先生?)。 昆研の部室や応用昆虫学研究室の部屋にも氏の標本がありました。 これも何かの縁なのでしょう。
厳しい生息環境の中で人知れず生き延びてきた本種に限らず、 時間に追われる研究室生活を越えて、時に険しい条件に耐えて採集に行く度に、 すてきな虫たちとめぐり合わせてくれる、この奥多摩の自然はすばらしい!
生態情報をくださったムシムシQさん、どうもありがとうございました。 同行してくれたTokiくん、お疲れ様でした。 また今度一緒にどこかへ採集に行きましょう。
これでひとまず、今季のカミキリムシ探索は終了します。 来年もきっとまたすてきなカミキリたちに会いに来ます。
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アティミアを含めて、これまで奥多摩で出会ったカミキリムシ120種あまりの記録は 近いうちに正式に発表して、記録を後世に残す予定です。