2007.Sep.15
件名:アカガネカミキリ
本文:採ったことある?
今回の旅の始まりは、約2週間前に私が突然Toki氏に送ったこのメール。 その後のやりとりで、すぐに採集に行くことが決定。 日程調整、車の手配、道路状況確認、ポイント選定など、 お互い研究生活の合間を縫って準備を進めてきました。 天気予報も週明けからどんどん変わっていき、 前日の段階ではさわやかに晴れる見込み。 研究室での作業をなんとか片付けて、 昨年11月の奥多摩以来の二人旅へ出発しました。
北海道や東北地方など、北へ行くほど簡単に採れると言われるアカガネカミキリですが、 時間と費用と体力的余裕を総合して、今回は北関東へ。 待ち合わせ場所は宇都宮駅近くのレンタカー屋。
学生の格安採集の定番である軽自動車は満車だったので、 山道での走り心地が段違いに良い普通自動車を借ります。 閉店時間ギリギリに到着し、手続きをして夜の道を走ります。
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今回の行き先についてですが、 当初は、昔からの有名産地を目指すつもりでした。 しかし、Toki氏とのやりとりをするうちに、
サンプル採集としてなら確実性を重視して有名産地に行くけど、 趣味としての昆虫採集で行くなら、新規開拓路線で行こうよ
ということになり、地図や過去の記録を参考にして Toki氏が提案した無名な某山を選択。 ここでダメだったら、有名産地へ行こうという作戦にしました。
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2時間半ほど夜道を運転して、宿泊地に到着。 せっかくなので就寝前にピットフォールトラップを設置。 私は夜の森は怖いので自動車周辺に設置しましたが Toki氏はどこか遠くへ行ってしまいました。 これが翌朝の結果を左右することに・・・。
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翌朝、6時起床。 トラップを見たら、期待していたオサムシはクロナガオサムシのみ。 アカガネオオゴミムシが入っていたのは縁起がいいところです。
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身支度を整えて、無名の某山を目指して出発します。
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初めは美しいミズナラ林の中を進みます。 Toki氏は昨夜ここにトラップを設置していて、 縁起の良い虫としてアカガネオオゴミムシの他に ホソアカガネオサムシも入っていました。
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途中、Toki氏が突然道を外れて林内に進んでいきました。
木の根元にあった枯葉つきの枝が気になったようです。 なにやら写真を撮って戻ってくると、
「コブが葉の上に乗っていた」
毎回のことながら、良い感覚を持っていることに驚くばかりです。
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やがてミズナラ林はカラマツの植林へ。
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さらに進むと林道に出ます。 普段ならここまで車で来てから登山できるのですが、 今月上陸した台風により崩落箇所があり通行止めになっています。
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道路脇には初めて見るヤハズハンノキが生えています。 Toki氏いわく、この木と某カミキリには深い関係があるとのこと。
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ということで、道端に落ちている枯葉つきの枝を拾って 叩き網の上で叩いてみます。
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何本か試してみると、
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ゴマフキマダラカミキリ
(別名フタモンホソヒゲナガカミキリ)
実物は初めて見ました。 発生末期でやや擦れていますが、なかなか良いカミキリです。
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道路をちょっと歩いた後、再び登山道に戻ります。
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今度は、深い笹薮の中にある細い道を登っていきます。 夜露が光るササにより、あっという間にズボンが濡れていきます。
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林内に入るとササの草丈は低くなり歩きやすくなります。 このあたりから、ようやく針葉樹林帯に突入。 アカガネカミキリ採集のポイントとなる ハリブキを探しますが、なぜか1株も見つからず。 標高上げれば出てくるだろうと、ひたすら登り続けていた。
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山頂まであと3分の1くらいというところまで登っても 一向にハリブキは姿を見せません。 これは何か様子がおかしいと、もうひとつの採集方法を試すことに。
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しかし、そう簡単に採れるものではなく、 こんな状況で本当に採れるのか、やはり有名産地じゃないとダメなのかと 思い始めたその時でした。
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Toki「お、きた」
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Genka「え、本当?」
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Toki氏のビーティングネットの上には、 まぎれもないアカガネカミキリの姿がありました。 さっきのコブヤハズといい、恐るべき引きの強さ。
Toki氏は北海道以来の再会だったそうですが、 私はそのあまりの小ささに驚いてしまいました。
アカガネがいたと思われるのは、この針葉樹の生枝。 すぐ隣にはサクラ類が生えており、 枯葉が飾り程度に積もっていました。
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で、私も真似して周辺を叩いてみました。
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すると、
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モリヒラタゴミムシの一種
やはり、引きの強さでは敵わないのか・・・。
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少なくとも、この山にもアカガネは分布していること、 すでに生息エリアに入ったことは明らかになりました。 ハリブキが見つからない以上、ビーティングで探すしかありません。 ということで、二人して登山道の脇を中心に叩きながら登っていきます。
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結局、追加個体は得られぬまま山頂まで来てしまいました。 まあ、虫採りなので採れたり採れなかったりは普通のことです。 有名産地だと採れないことに焦りを感じてしまうところですが、 ここは無名産地なので採れなくても仕方がないところです。
山頂では私たちの他は登山者1名のみ。 ここで、ひとまず休憩することにします。
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山頂付近でも、相変わらず高密度なササ藪が広がっています。 ハリブキはササに覆いつくされて消えてしまったのでしょうか。
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さて、この後どうするか。 地形図を見て、作戦を練ります。
「傾斜が急になる手前まで行って、くじけそうになったら戻ろう」
ということで、山頂を越えてさらに進んでいきます。
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しばらく進むと、ようやくハリブキを発見。
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木の根元のササが低くなったところで かろうじて葉を広げていました。 しかし、まだ青々としています。
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下の方を見ると枯葉がありました。 まさに、事前にイメージしていた通りの状況です。 これで、枯葉を手でそっと握りつぶせば、小石のようなものが入っているに違いない。
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しかし、期待に反して手には何の感触も伝わってきませんでした。
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ハリブキは生えていることがわかったのでその後注意して探してみましたが、 私はこの一株だけ、Toki氏もポツポツ見た程度。 ビーティングをしても、クモ・ハサミムシ・ゴミムシがまばらに落ちてくるだけ。 挙句の果てに針葉樹立ち枯れの樹皮を剥がして ハイイロハナカミキリの死骸を見つけたりする始末。
新規開拓を選択したので採れないのはまあ仕方ないのですが、 あまりに開けすぎて環境が思わしくなく、 もうここではダメだ、ということで先ほど採れた場所まで引き返すことに。
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ビーティングを継続しながら登山道を下り、 先ほど採れた特徴的なサクラの木の根元に到着。 林内に入って地表近くに落ちてる枯葉を握りつぶしてみたり、 周囲をビーティングしたりしますが、追加は得られず。
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でも、ここで1匹採れたのだから、周辺に何個体かいるに違いない。 二人とも自然と歩みを止めて、このあたりを重点的に探すことになりました。
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これまでは登山道脇でしかビーティングをしていなかったものの、 今度は林内にも入っていって、枯葉が積もった針葉樹を叩いていきます。 ビーティングネットの上には相変わらず 大量の針葉樹の生・枯葉、少量の広葉樹の枯葉、 わずかばかりのクモ、ハサミムシ、ゴミムシ。
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ハリブキに潜り込むくらいだから、地表に近い枝がいいだろうと思って 低い位置にある枝のさらに下にビーティングネットを差し込んで 叩いていきますが、状況はかわらず。
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比較的上の方にある枝には、このように枯葉の飾りはほとんどなし。 直射日光が当たっていて乾燥していそうで、 こんなところを叩いても、採れる気がしません。
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下方には枯葉が適度に積もった良さそうな枝があります。 なかなか説明は難しいのですが、周囲の樹木の位置関係からみても 今までにない良さそうな雰囲気が漂っています。
ここに潜んでいなかったらどこにも隠れる場所はないだろうと 叩いてみましたが、結局アカガネは採れず。
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「結局、ここでは無理なのか・・・」
半ばやけくそで、上の方の枝を叩いてみました。
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予想通り、大量の針葉樹枯葉が落ちてきます。 昆虫はどうかというと、ああ、やっぱりいない。
ネットを傾けて、落下物を払おうと思ったその時でした。
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ん、これは?
全然動かなかったので見落としていましたが、 左右対称の物体、すなわち動物である可能性が高い物体、が目に入りました。
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アカガネカミキリ
土下座スタイルで静止する、この可愛らしい姿。 飛行能力を失って、コンパクトにまとまったこの体。 これが見たくて、疲労が蓄積した首・肩・腰と弱ってきた脚に鞭打って ササが深い山を延々と登ってきたのです。 偶然にせよ、私の目の前に現れてくれて、ありがとう。
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写真を撮影している最中にToki氏が通りかかったので、 採れたことを告げて、採集状況を説明。 このエリアで2匹採れたので、さらに周囲を探します。
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しかし、その後は追加個体は得られず、下山することに。
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で、先ほどの林道まで戻って、昼食休憩。 工事関係の車両が何台か通っていきました。
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林道脇には台風で折れた枝が多数落ちています。
コンクリート部分に落ちている枯枝は乾燥しすぎてダメですが、 このようにササに埋もれているのは湿っていて良い感じです。
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拾い上げて叩いてみると、コブヤハズカミキリが落ちてきました。 福島県以来、実に4年ぶりの再会となります。
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林道沿いの方がビーティングできる場所が多いと見込んで、 帰りは車道歩きをすることにしました。
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咲き残りのアザミの花にはイチモンジセセリ。 これを見ると秋を感じます。
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途中、Toki氏は脇道に入って林内ルートで下山し、 私は車道を歩いてコブヤハズを追加しながら下山。
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トラップを回収して車に乗り込み、 有名産地はどんな状況なのか確認しに行くことにしました。
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駐車場に車を停めて、再び登山を始めます。
かなりの急斜面に登山道がつけられており、 梯子を登る箇所まであります。 有名産地とはいえ、手軽に行ける場所ではないことを確認。 このように台風により大規模に崩壊している場所もありました。
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きつい登りを終えると尾根沿いのなだらかな道に出ます。 登山者も結構多く、休憩場所では常に誰かが休んでいる状態です。
この一帯がポイントのようですが、思い描いていた環境とはだいぶ異なります。 日当たりが良い場所は濃いササ薮があり、針葉樹やダケカンバがまばらに生えています。 針葉樹林内ではササが消え、かわりにシャクナゲが大量に生えています。 期待していたハリブキは、まったく見当たりません。
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シャクナゲの枯葉
無数にあるのですが、居心地は悪そうです。
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北側の林内に入って探索しますが、環境は思わしくなく、 アカガネは一向に姿を見せません。
かろうじてToki氏がカエデ類の枯葉に静止していた巨大な個体を発見したのみ。 すでに1個体採集しているので、欲を出してはいけないということでしょうか。
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時間もあまりないので、一度戻って南側に行ってみると、ようやくハリブキを発見。
ビーティングネットを下において、慎重に調べていきます。 しかし、ゴミムシが出てきたのみ。先行者がいたのでしょうか。
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林内に入ってハリブキを探しますが、まったく見つかりません。 しかたないのでビーティングをしていくと、Toki氏がまた1個体を採集。 結構高い位置の広葉樹枯れ木についていたようです。
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私も負けじと、その周辺でビーティングをしていきます。
地表30cmほどの針葉樹の枝。枯葉が適度に積もっています。
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叩くと、ようやくアカガネが落ちてきました。 今度は死んだフリをしてネットの上に転がっています。
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その後、しばらく探索しましたが追加はそれぞれ1個体ずつ。 珍種っぽいムシヒキアブが落ちてきたので、それも確保。 昔とは環境が変わってしまったのでしょうか・・・。
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時間も押してきたので、下山することに。
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疲れた体で急斜面を下っていると、ハリブキを発見。 Toki氏は登りで気づいていたようですが私は素通りしてました。
はるか高いところにある葉は、まだ青々としていました。
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その後、沢を挟んで反対側の斜面にも数株のハリブキを発見。 藪こぎしながら斜面を下り沢を登って、なんとか到達します。
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わずかに枯れている部分がありました。 今度こそ、想い描いていたイメージ通りの採集となるかどうか。
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しかし、そこにアカガネの姿はありませんでした。
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環境が昔とだいぶ変わってしまったのか、それとも場所がちょっとずれているのか。 どちらなのかはわかりませんが、ひとまずここでも採集することはできたので、 名残惜しいですが宇都宮目指して帰ることにしました。
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出発準備の最中に駐車場脇のイタドリで採ったハナアブ。 こんな場所でハナアブ採る人なんて滅多にいないことでしょう。
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運転はずっとToki氏に任せていましたが、途中で眠くなったところで交代。 カーナビの奇妙な道案内に惑わされながらも給油を済ませて車を返し、 電車に乗ってのんびりと帰途につきました。
現地では事前のイメージと異なる環境でかなり苦戦を強いられました。 でも、無名産地でも有名産地でもなんとか見つけることができ、 研究生活で忙しい中で遠征を企画した甲斐がありました。 また、機会があれば一緒に採集に行きましょう。
最後になりましたが、事前情報を教えてくださったラスカルさん、どうもありがとうございました。