2007.Feb.17
さとやま、SATOYAMA、里山。
人手が加わることで維持される平地~丘陵地の環境です。 昔はありふれた環境だったのに、 荒廃して消えていく段階になってやっと注目されてきました。
・
里山はさまざまな要素から構成されています。 雑木林、水田、畑、果樹園、草地、植林、・・・・。 多様な環境がその中には混在しており、 いろいろな生き物が生息しています。
・
東京でも年々里山に人手が加わらなくなり、 遷移が進んで環境の多様度が低下したり、 里山そのものが開発で失われたりしています。 その一方で、里山を守っていこうという運動も各地で始まっています。
現時点ではどんな生き物が生き残っているのか?
変わり行く稲城の里山にほぼ3年ぶりに行ってきました。
研究室の追いコンの翌朝、 朝食も取らず虫の世話をした後で 電車に乗って懐かしい稲城の里山へ。
もう梅の花があちこちで咲いています。
雑木林はまだまだ冬模様。 畑には冬物の野菜が育っています。
・
・
・
今日は里山のいろんな環境を見て 状況に応じて狙えそうな虫を採集するという方針です。 一応、オサムシやスズメバチが採れれば満足です。
今回は撮影よりも採集を優先してあちこち歩き回って 探索活動をしていくことになるのですが、 その一部をご紹介します。
・
・
・
・
道端に見られる段差。 やや開けた環境で日当たりもそこそこあります。
・
この状況では、アオオサムシを期待してオサ掘りです。 しかし、私は崖掘りが非常に苦手です(河川敷のマイマイカブリを除く)。 現に、ここに到達するまで5~6ヶ所を掘ってみたのですが、 クモやムカデしか出てきていません。 果たしてここでは出てくるのか・・・。
・
・
・
段差は低いところで30cm、高くて100cm程度。 ササの根が少々絡んでいます。
・
・
・
・
しばらく掘ると、
アオオサムシ
久しぶりに見たのでとても大きく感じられます。
・
・
・
続いて、コマルナハナバチ
・
・
・
コブマルエンマコガネ
農工大でも樹液の下の泥の中で越冬しているのをよく見かけます。
・
・
・
・
エゴシギゾウムシ
・
・
・
この後は、とくに何も出なかったので次の場所へ移動。
・
・
・
・
・
移動中も奥多摩でやっているのと同様に 周りの木々の様子を見ながら行きます。
「これはツルグミ、これはエゴノキ、これはヒノキ、これは・・・」
覚えた木の名前を忘れないように意識して同定しながら歩きます。
・
・
・
・
「これはたしかクスノキ科の、・・・・、イヌガシだったっけ?」
一見、カシ類に見える常緑樹の前で足が止まりました。
・
・
・
・
見上げてみると、不自然に先端がなくなっている枝が見えます。
・
・
・
たぐり寄せてみると、切り口に木屑でフタがされています。 何者かがこの枝に穿孔しているサインです。
・
・
・
・
・
このように生木の細い枝に穿孔するのは、カミキリなら2種類思いつきます。
クスベニカミキリ。
ある程度成長すると枝を切り落とす習性があるのですが、
面白いことに落とす枝の中に自分も入って一緒に落下します。
なので、クスベニの可能性は低いです。
ヒメリンゴカミキリ。
サクラ類につくリンゴカミキリと同じように
枝先を切り落として木の方に留まる習性を持っているとしたら、
こちらの可能性が高いです。
・
さて、どちらでしょうか?
・
・
・
・
・
割っていくと幼虫が姿を現わしました。 写真ではわかりにくいですが、 形態からみてリンゴカミキリ類のようです。 ということで、ヒメリンゴカミキリでした。 クスノキ生枝があれば飼育できると思うので持ち帰ります。
・
・
・
・
次は、ササ藪です。 雑木林の管理が行き届かなくなると 林床は次第にササに覆われていきます。 この状況では、ハイイロヤハズ狙いで枯れたササを割ります。 しかし、ここに到達するまでに3ヶ所ほどで割ってみたのですが、 ことごとくササセマルヒゲナガゾウムシの幼虫しか出てきません。
・
・
・
・
・
1本目、長さ2mほどの立ち枯れを割ってみます。 なんか、今までとは違った感じが・・・。
・
・
・
・
ようやく、お目にかかれました。
・
・
・
・
ハイイロヤハズカミキリ
地上から90cmくらいのところに鎮座していました。 東京都内では初めての採集となります。
・
・
・
・
・
道端にあったスギの倒木。 まだわりと新しそうです。 ちょっとナタで削ってみます。
・
・
・
・
・
トゲヒゲトラカミキリ
カエデやミズキの花が咲くまで材の中で眠っているようです。
・
・
・
・
・
・
次は、雑木林に点在するアカマツの枯れ木です。
至る所に、衰弱木、立ち枯れ、倒木が見られます。 マツノザイセンチュウの仕業とされていますが、 雑木林の管理が行き届かなくなり、本来は裸地などの痩せた土地に生育するアカマツにとって 環境が合わなくなってきたことも関係しているのかもしれません。
・
・
樹皮をはがしたり、柔らかい部分を探してナタで削ります。
・
・
・
コガシラアオゴミムシ
樹皮下に越冬窩(えっとうか)を作っていました。
・
・
・
ムカデの一種
アカマツの朽木でもっとも多く見かけた生き物です。
・
・・
・
倒木に見られた多数の脱出孔。 楕円形で大きいのと小さいのがありました。 それぞれ、ウバタマムシとクロタマムシでしょうか。
・
・
・
・
これは、ちょっと暗い場所にあったアカマツ立ち枯れ。 もうボロボロに朽ちています。
・
・
・
高さ2mほどの所を見ると、くぼみに虫影がありました。
・
・
・
キイロスズメバチ女王
越冬のため潜り込んだものの、 途中で外壁がはがれてしまったのでしょうか。
・
・
・
・
ヤホシゴミムシ
地上50cmほどのところにいました。 実物は青い眼をしていてとてもきれいです。
・
・
・
・
最後に、もう一度、道端の段差を探索です。 最初にアオオサムシが出てきた場所と違って薄暗いです。
・
・
・
・
・
ルイスオオゴミムシ
紫色に輝く前胸が美しいです。
・
・
・
・
オオヒラタシデムシ
土中越冬のようです。
・
・
・
・
そして、アオオサムシも。これが、今日最後の個体。
100円ショップの手鍬の角度がさらに増大するほど掘りましたが、 今回得られたアオオサムシは合計2匹。
今回の採集でも崖掘りは苦手種目のままでした。 オサムシはあまり採れなくても、クモやムカデやダンゴムシに混じって他の虫がいろいろ出てきてそれなりに楽しめました。
多様な環境が混在する場所ではまわりの様子をよく観察して、状況に応じて採集目標を変化させるといろいろな虫に出会えて面白いです。
(目的の種が採れないこともありますが、それはそれで良しとします)