奥多摩:ピドニア登山

2007.June.19

梅雨入り発表の後、ずっと中休み状態が続く今日この頃。圃場実験・negative研究室事情・野外調査・公務員試験という激動の一週間を終えた翌週、たった1日だけですが、奥多摩に復帰するチャンスが巡ってきました。

今年は巷でクロサワヘリグロハナカミキリが流行しているようですが、私にとっては既採集種であり、追加を狙うと大抵失敗します。それに林道沿いで採れる種類なので、わざわざ今行く必要はなし。

「体力全盛期でないと到達できない場所に行くべき」

私の長期採集計画の柱のひとつに従い、英語の輪読が終わった後、食料を調達して電車に乗り込みました。


21時、2ヶ月ぶりに奥多摩駅に降り立つ。駅の明かりには鱗翅目が多数飛来しており、夏の到来を感じます。翌朝、日の出とともに登山を開始したいのでできるだけ登山口に近づいておきたいところですが、この時間にバスが動いているはずもない。ということで、バスで30分の距離を歩くことに。

22時40分、バスの終点に到着。野外調査よりも軽装備であり、なにより純粋に昆虫採集のために行くので、精神的にも比較にならないほど楽でした。途中の灯火では採集は1回だけにして、運を消耗しないように我慢しました。

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アトモンマルケシカミキリ

実は、東京都では初採集だったりします。

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アトグロアミメエダシャク

これは撮影のみ。

寝袋を広げて、夜明けまで仮眠を取ります。

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翌朝、4時起床。野外調査で夜明け少し前に目覚める習性がついています。朝食をとり、出発準備を整えます。この時点での天気は、「雨に近い曇り」つまりピドニア日和(ピドニアとは、ヒメハナカミキリの仲間を指します)。

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5時、明るくなってきたので登山開始。まず舗装道路を歩いていくと、駐在所の扉の下に虫がいるのに目が留まりました。

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オオゾウムシ

かつては日本第1位、現在2位の体長を誇るゾウムシです。

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キイロトラカミキリ

実は、これも東京都初採集だったりします。思わぬところで、奥多摩自己採集種1種増加。

登山口の看板を目印にして小道に入り、植林の中を下っていって、橋を渡ります。

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ひんやりと冷たい風が吹いてきます。

橋を渡ると、ここからひたすら登山です。

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薄暗くて、不気味なくらい下草が生えていない林を歩きます。ニホンジカの影響はすさまじいようです。

「奥多摩一の急登」と称されるルートですが、いつも行っている場所に比べればそこまで急ではないです。でも、平坦な場所はほとんどない上に、ある程度の急勾配が非常に長く続くので奥多摩一とされるのでしょう。

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しばらく登ると、スズタケが生えている場所に出ました。ただし、いつもの場所と同様、枯れているものばかりです。この頃には天気は「晴れに近い曇り」に変わっており、日差しも出てきました。

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立ち枯れもさまざまな腐朽度のものがあちこちにあります。スズタケのおかげか、いつもの場所より湿気が多く感じられます。セダカコブヤハズカミキリがいそうですが、追加狙いのジンクスを考えてなるべく狙わないようにします。日光浴していたハナアブを数匹採集したのみに留め、先を急ぎます。

しばらくすると、緑の葉をつけたスズタケ群落に出会いました。しかし、ちょっと様子が変です。

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花や蕾が、至るところで見られます。ササの開花は、枯死の前兆。この群落も、近いうちに消滅してしまうのでしょうか。

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薄暗い林の中には目につく花がなく、花びらが落ちていても樹冠部分に咲いているものでとても届かず。唯一、ガマズミの仲間が1株あるだけでした。7時22分、いわゆる黄金時間帯にはだいぶ早いですが、こんな時間でも訪花するカミキリはいるものです。

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フタオビヒメハナカミキリ

たった2匹だけでしたが網に入りました。こんなところで粘っても仕方ないので、先を急ぎます。

そして、7時43分、ついに光が見えました。

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橋からの標高差約1180mを経て、山頂に到着。

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イネ科草本の草原に、ヤマツツジの赤が映えます。

見事な景色を撮影していると、無数の虫が私に集まってくるのがわかりました。ブユの熱烈な歓迎を受けてしまったようです。リュックを置いて私の分身としてブユを半分移して、早速採集開始です。

まず草地を見て回ると、素早く飛び回る虫が目につきます。葉に不器用に着陸したところを見ると、甲虫のようです。

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キスジコガネ♂

一瞬、ヒゲブトハナムグリかと思いました。

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里山の虫というイメージがありましたが、こんな高地にもいるんですね。あちこちで♀を求めて飛び回っていました。

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防火帯の縁には、アオダモの仲間の花があります。天気は、このように曇っていて、ちょうど良さそうです。6.3mの長竿+60cm口径の網で、良さそうな場所から掬っていきます。

ひととおり掬った後、ブユを避けるために網に頭をスッポリ入れて中身を確認します。無数のクビナガムシ、ケシキスイ?、ハエなどに混じって、ピドニアがそこそこ入っています。

ピドニアの仲間は良く似た種類が多いことに加え、同一種でも地域変異・個体変異があり、同定は難しいというイメージが一般的です。でも、カミキリ屋としては避けて通れない道。壁を打ち破るためには「とにかくたくさん採って、比較すること」これが王道とされています。なので、網に入った個体はすべて採集していきます。

ピドニア以外のカミキリはどうかというと、

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テツイロハナカミキリ

これも実は、奥多摩自己初採集。これに非常に良く似たジョウカイボンの仲間がいますが、カミキリムシであることは「雰囲気」ですぐ見分けられます。

他には、チビハナカミキリ、カラカネハナカミキリ、シロトラカミキリなど。チビハナカミキリは花上にいるのを目視で発見。地上2mほどだったので撮影も考えましたが、光量不足でまともには撮れないと判断、採集してしまいました。

これ以降、採集モードになってしまったため、残念ながら写真はほとんど残っていません。

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アオダモ類の花を求め、尾根沿いを移動しながら掬った記憶があります。

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草原の真ん中に孤立するアオダモ類。これは期待が持てそうですが、近づいてみるとまだ時間が早すぎることもあり、あまり虫は集まっていません。

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キベリクロヒメハナカミキリ♀

林道沿いでも採集できますが個体数は少なめです。

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ニトベナガハナアブ

ハチっぽいけど動きが違うと判断して掬ったら、案の定ハナアブでした。

ピドニアは林道で掬った時よりは少なめで、この時間ではまだ虫の活動が本格化していないように思えましたが、このまま黄金時間帯(午前11時前後)を迎えればきっとすごいことになるはず。でも、現実はそう甘くはありませんでした。

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だんだん、霧が出てきて、気温が急激に低下。同じ花を時間を置いて掬っても虫がほとんど入らなくなりました。虫の活動が鈍って、訪花数が減少しているようです。

こうなると、まだ掬っていない花を求めて道をちょっと外れて掬ったりします。

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ホソガタヒメハナ♀

この時間帯になってから採れたのが、これです。このような特徴的な模様だと、すぐに絞り込めます。ニッコウヒメハナ、シナノヒメハナなどが似ていますが、よく見れば区別できます。

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採集したピドニアは、このようにチャック付き袋に入れて室内撮影用に生かして持ち帰ります。アゴが弱い種類なら食い破られることはなさそうです。ただし、全部こうしていては膨大な数になるので途中からは明らかに模様が異なる個体だけパックして、あとは亜硫酸ガス毒瓶に入れます。

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そして、ついに山頂が雲の中に入ってしまったようで視界が極めて悪くなりました。10時42分と黄金時間帯ではあるのですが気温はかなり低く、少々怖くなってきたので、下山することに。

帰りに美麗カメムシを狙って怖い思いをして寄り道したものの、ホストおよび後食植物を発見したのみで虫自体は発見できませんでした。


昨年より2週間ほど早く6月のうちに奥多摩復帰を果たし、未踏の地を訪れて下界とは違った虫を採ることができたわけですが、この虫湧く季節に採集に行けない事がどんなにもったいないことか改めて思い知りました。

「少年老い易く、・・(以下略)」

有名採集地を車で巡るのは就職してからでもできます。でも、夜明けとともに原生林内の斜面を駆け上がり、朝からずっと長竿を振りまくることは今しかできない。どうがんばっても悔いは残るでしょうけど、学生時代最後のシーズンで、できる限りのことをやりたいです(体力次第では来週に続きます)。

追記
マダニって怖いものなんですね・・・。

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