2007.July.21
昨年発見した絶好の位置に生えているノリウツギ。先々週は「また来週来るがよい」と告げられ、先週行ったら台風一過の荒天で追い返されました。2週間も経ってしまい花の状態が気になるところですが、この間の天候不順で開花が遅れているだろうとにらみ、トラップの回収と合わせて再度挑戦することにしました。
今回の狙いのカミキリは、奥多摩でも難関の3種です。
Ng: Necidalis gigantea オニホソコバネカミキリ
No: Necydalis odai ヒゲジロホソコバネカミキリ
P: Pachypidonia bodemeyeri ヒゲブトハナカミキリ
この3種は「樹洞」という特殊な環境を生活場所にしており、普通のカミキリ採集ではなかなか採れません。前2種は花にも稀に訪れるため、このノリウツギで狙います。花でダメなら樹洞の探索で狙う、そんな計画を頭に描きつつ、奥多摩行きの最終バスに乗り込みました。
バスを降りて、ヒグラシの合唱が聞こえる森の中を歩いていきます。灯火ポイントに到着して、荷物を整理して虫の飛来を待ちます。
天気は、雨に近い曇り。ただ、虫は鱗翅目を中心にそこそこ飛来しています。
・
ホソカミキリ
おなじみの種類です。
ニセビロウドカミキリ
ビロウドカミキリと違って上翅の微毛が一様ではなく、暗い影が出来るのが特徴です。
・
気温も低いので甲虫はあまり飛来しないので、早々と寝ることにしました。日付が変わる頃から霧雨が降ってきて寝袋が濡れていきますが、気にしないようにして眠り続けます。
・
・
・
・
翌朝
雨は止んで、再び雨に近い曇りに。朝食を食べて、灯火を見回ります。
・
灯火を見る際、網で掬う前に一度じっくりと周囲の様子を観察します。網で全部の範囲を一度に掬えるわけではないので、優先順位を決めるためです。
甲虫の姿はほとんど見つからないなかで、外灯の下のカラムシに、カミキリムシが静止しているのを発見。セダカコブヤハズカミキリ風なシルエットで一瞬ドキっとしたのですが
・
ヒメヒゲナガカミキリ
奥多摩では2個体目、ビーティングをあまりやらないのでなかなか見つけられない種類です。
・
・
雨に備えて完全装備に身を包んで、外灯に居残る鱗翅目を撮影しつつ、登山口を目指して歩き始めました。
・
5時半現在の気温は約16℃。虫にとってはかなり低めです。
なぜ温度計が毎回出てくるのかというと、ここに設置されているのをチェックしているからです。カメラを地面においてセルフタイマーで撮影。
・
・
・
初めてこの地を訪れた時、最初の登りはとても急に感じられました。通い始めて3年目になる今では、もうすっかり慣れてしまいました。画像の場所まで来ると、傾斜はゆるやかになります。
・
・
そして、完全に平坦な道に出ます。この辺りまでくればポイントはすぐそこなので、余裕が出てきて周辺視野で虫が捕らえられるようになってきます。
タンナサワフタギの葉に静止するビロウドアシナガオトシブミ。食痕はもしかしたら本種によるものかとも思いましたが確認することはできませんでした。
・
・
地面に落ちているナツツバキの花。樹冠部分で咲いているので、開花にはまず気づきません。
・
同じく、クリの花。この標高ではもうそろそろ花も終わるようです。ここでは大木が多く20m長竿でないと掬うことができません。
・
・
・
しばらく進むと、前回と同様に霧が出てきました。
・
霧は次第に濃くなってきます。クマの生息痕跡はいたるところにあり、時折離れた場所でガサガサ音がするので、ヘッドライトをつけっぱなしにして叩き網の枠を鳴らしながら進みます。
・
林内にはタンナサワフタギの立ち枯れは無数にあります。トガリバホソコバネカミキリはもう確認済みですがついつい探してしまいます。この立ち枯れにはトガリバはいませんでしたが、倒木の方には別の虫がいました。
・
マダラクワガタ
朽木の中に潜っていることが多いため、野外で活動中の個体を見つける機会はそう多くはありません。♂と♀が3cmほどの距離をおいて静止していたのも印象的でした。
・
・
・
そうこうしているうちに、いつの間にか霧も晴れて雲間から太陽が姿を現し、林内にも光が差し込んできました。これは花掬いにも期待が持てると、歩みが自然と早くなります。
・
・
・
そして、例のノリウツギに到着。
「蕾の状態から2週間経っているのできっと満開になっているだろう」
・
・
そう期待して、駆け寄ってみると、
・
・
・
・
なんと、まだ蕾のままでした。一部でガクが開いているだけ。天候不順の影響は、ここまで大きいものなのか・・・。
せっかく青空も見えてきたというのに・・・。
・
・
・
・
すっかりアテが外れてしまったのでトラップ回収をすることにします。
・
まずは、林内の平坦な部分に仕掛けた分から。
1つ目は、獣の一撃をくらっていました。矢印部分にクロナガオサムシの胴体だけが転がっています。仕方ないので、空のまま埋めなおします。この分だと、残りも・・・。
・
・
2つ目、これは無事でした。ミミズ、カマドウマ、落ち葉をかきわけて中身を取り出すと
エサキオサムシを中心に、クロナガオサムシやゴミムシが入っていました。
・
残りの3つのトラップも獣の被害はなく、中身も同様なものでした。
・
・
・
・
続いて、薄暗い原生林の中の源流部分に仕掛けた分。両側は急な斜面に挟まれており、水はまったく流れていない枯れ沢で、50mほど歩くと尾根に出ます。谷底には落ち葉が堆積していて草もまばらに生えており、その合間から石が見えるような環境です。
これが3つのうちの最後の1個。ここまで獣の被害はなかったのですが、エサキオサムシとナガゴミムシを少数得たのみ。最後のひとつだけに期待がかかります。
・
中身はカマドウマと枯葉がほとんどで、スジクワガタとオサムシが1個体入っていただけ。しかし、エサキやクロナガとは明らかに違う・・・。
・
「こ、これは、アルマンだ!」
オクタマアルマンオサムシ
(オクタマホソヒメクロオサムシ)
(帰宅後に撮影)
良好な森林環境が残された場所にのみ生息する種類で、オサムシの中ではわりと人気がある種類です。こんな環境に住んでいるのかなと思いつつトラップを仕掛けたのですが、まさか落ちるとは思っておらず、うれしい初採集となりました。
・
・
・
・
トラップ回収を終えて戻ってくると、天気はさらに良くなっていました。
「このままでは終われない、きっと他にも花があるはずだ」
ということで、霧が晴れて見通しが良くなった林内を花を求めてさまよいます。
・
・
・
・
しばらくして、かろうじて掬える高さにノリウツギを発見。しかしこちらも、ガクが展開しているだけのようです。一応、ダメ元で掬ってみると、何やら大きな虫が入ったのが見えました。
・
・
・
アオアシナガハナムグリ
東京都版RDB(東京都の保護上重要な野生生物、1998年版)に掲載されているものの、TKMでは未認定(採集記録が見出せない)という存在です。しかも、野外ではなかなか採れないらしい♀。累代飼育しようと、生かして持ち帰ります。
・・
・
・
しかし、これ以外に花は見つけられません。今日の目標であるNg・Noを狙うには、なんとしても花を見つけなければなりません。
選択肢は2つ。
1.標高を上げる
2.標高を下げる
このエリアでは「クリ→ノリウツギ→リョウブ」の順にカミキリムシ好みの花が咲きます。下に行けばノリウツギの開花には合うかもしれませんが、うっそうとした原生林なので掬える場所に咲いている可能性はまずないし、もし生えているなら今までで気づいているはず。
上に行けば所々に開けた場所があるので、可能性あり。でも、可能性があるクリが低い位置にあるかは未知。
どちらをとってもあまり期待はできないのですが、花が見つからなければ針葉樹林まで行ってみるのも良いかもと思い、1.標高を上げる、を選択しました。
・
・
・
・
・
しばらく歩くと、遠くの開けた空間に何やら黄色いものが見えました。
クリの花です。
・
遠くからでは根元の様子がわからず樹高が判断できないので、音を鳴らしつつ急いで近寄ってみます。
幸い、足元は緩やかな斜面で、長竿で梢付近まで掬える高さ。花はまさに満開で、ハナムグリが飛び回っているのが見えます(矢印部分)。選択肢1.を選んで良かったです。
時間は、9時半。カミキリムシの採集黄金時間にはまだ早いですが、虫が集まりつつある現状では、ここに居座って網を振りつつNg、Noが飛来する時を待つのが得策。荷物を置いて自分の分身としてブユを引き寄せつつ、誰もいない山の中で、思う存分、花掬いを堪能します。
・
花掬いをする時に心がけているのは、灯火採集と同様に、「掬う前によく観察すること」です。一度に全範囲を掬えるわけではないので、良さそうな虫がいる場所から他の花になるべく振動を与えないようにして掬っていきます。
・
・
・
アオアシナガハナムグリ♂
ひときわ大きな体で花の周りを飛び回り、よく目立ちます。1年生の頃、期末試験前日に先輩に連れられて行った大菩薩でノリウツギの花に乱舞していたのを彷彿とさせる光景。
・
ヨコジマナガハナアブ
アシナガバチのような配色で動きが変な虫がいたので掬ってみると、なかなか良いハナアブでした。
・
ヨツスジハナカミキリ
飛行姿勢と縞模様で、すぐにそれと判断できます。良くにたヤマトヨツスジハナカミキリ(コヨツスジハナカミキリ)やヒメヨツスジハナカミキリの可能性も考え積極的にネットインしますが、ことごとく本種でした。ちなみに、林道沿いに比べて個体数は少なめです。
・
カンボウトラカミキリ
トラカミキリの中ではもっとも個体数が多く、ヨツスジハナカミキリよりも多いくらい。上翅の白紋が真っ白なものから擦れて黒ずんだものまで見られました。
・
ヤマトキモンハナカミキリ
昨年はシナノキで1個体だけ得られましたが、今日は複数個体が飛来しました。上翅の斑紋には変異がありますが、すべてこのタイプでした。
・
キヌツヤハナカミキリ
昨年のブナ立ち枯れ以来の再会です。何度見ても鮮やかな色をしていますが、この色が標本になるとやがて消えてしまうのが惜しいです。
・
ヘリグロベニカミキリ
クリの花に赤い虫が止まったのが見えて掬ったら本種でした。ベニカミキリと違ってかなり毛深いです。
・
トビイロカミキリ
3年前の曇天の日に林道のガクウツギの花で得て以来です。あまり採集したことないのでうれしい種類です。
・
ウラキンシジミ
ゼフらしき鱗翅目が葉に静止したのを見て、掬ったところ本種でした。3年前に林内の陽だまりでボロボロの個体を採集して以来の再会です。
・
・
・
虫は面白いように採れるので夢中で採集していきますが、画面上には写らない苦労もあります。
ウシアブ
無数のブユ、アカウシアブなど吸血性昆虫、腐臭にたかるハエが私にまとわりついてきます。特に長竿を伸ばして掬っている際は振り払うこともできず、右まぶたと左耳を刺されてしまいました。
・
・
・
そして、カミキリムシ採集の黄金時間の中でも特に良いとされる午前11時。まだ見ぬNg、Noが飛んでくるのを今か今かと待っているのですが、
・
・
・
・
ここで再び、霧が立ち込めます。太陽も隠れてしまい、二度と姿を現すことはありませんでした。やはり、そう簡単には採らせてもらえないようです。
・
・
カビに負けたオオヒメハナカミキリ
これが網に入ったところで、あきらめて場所を移動することにしました。
・
・
・
花掬いに夢中になっていて気づかなかったのですが、あっという間に霧が濃くなっていて視界は10m~30mほどで変動する状態。よく歩いた道なので遭難は心配ないのですが、クマとの遭遇がもっとも怖いです(つい最近も出没情報あり)。音を鳴らしつつ、帰る方向で森の中を進んでいきます。
・
途中、樹洞はわりと見つかるので、Ng、No、Pがいないか探します。
ヘッドライトで中を照らしているところ。樹洞はカマドウマのすみかとなっていて、たまにムツモンミツギリゾウムシが見つかる程度。
古いものから新しいものまで、無数に脱出孔があるのがとても気になりますが、肝心の虫は見つかりません。
・
・
・
別の樹洞。木はすでに枯れていますが、なんとなく良い感じがします。近寄ってみると中央部分に虫影が見えます。大きさ・形から考えると、Ng、Noではない・・・。
・
・
・
・
・
ウスイロゴミムシダマシ
そう簡単に出会えるものではないですね。
・
・
・
・
・
だんだん樹洞を見るのが面倒になってきて、完全に下山の方へ意識が集中し始めた頃、
イヌブナの倒木を発見。一応、ビーティングを試みます。
・
・
タテスジゴマフカミキリ
網の隅にギリギリ引っかかりました。奥多摩自己初採集です。
・
ヘリアカアリモドキ
色つき虫なので、一応採集しておきます。
・
この他、キッコウモンケシカミキリが少々採れたくらいでした。
・
・
・
・
・
・
やっとのことで下山し、周りの植物に目をやりつつバス停まで歩いていきます。
道路脇に生えているアザミの仲間
葉脈には食痕あり。茎頂部分が食われた株もありました。ヘリグロリンゴカミキリか、それとも・・・。来年へ向けて宿題がまたひとつ増えました。
今回は楽しみにしていたノリウツギは開花していなかったものの、最高の状態のクリを見つけることができ、久々に花掬いを楽しめました。晴れる時間はもう少し続くと予想していたのですが、その前後の霧の世界を考えると晴れただけでもありがたいくらいです。目標の3種は結局見つけることができませんでしたが、そう簡単に採れないからこそ何度も足を運ぶことになり、あまり期待していなかった虫にも出会えるのでしょう。来週こそはノリウツギが開花していると信じて、日程を見ながら再挑戦してみたいと思います。