2007.July.27-28
東京都最高峰の雲取山には、東京で唯一の亜高山帯の針葉樹林があります。アクセスの悪さから豊かな自然が残されてきた一方で、昆虫相の調査が十分には行われなかったエリアでもあります。そして、2000年には秩父多摩甲斐国立公園の公園計画の変更に伴い、こうした針葉樹林の多くが特別保護地区に指定されたため、自由に昆虫調査を行うことは不可能となりました。
しかしながら、指定区域外のわずかなエリアは一般人でも調査可能です。山梨・埼玉両県の昆虫相との比較から東京都新記録の野望を抱きつつ、山登りに耐えられる体力と根性を持つ学生3名とともに車に乗り込み、再び亜高山の森を目指すことにしました。
今回の参加者は、昨年アルマン採集・アティミア採集で同行したToki氏、昆研4年のペプチドグリカンA氏、昆研期待の新人ニシム氏。夕方に車を借りて昆研で発電機を積み込み、実験をなんとか終了させたToki氏と合流して、夜道を奥多摩目指して進みます。
・
・
・
夜23時頃、林道の最奥部に到着。ちょっと遅めですが、場所を選んで灯火採集の準備をします。
・
「スタンドって、これテントの骨組みじゃない?」
「ちょっと開脚しすぎだな」
発電機と蛍光灯は昆研で事前に確認してもらったので問題なく起動&点灯したのですが、夜店の設置に苦戦。ある程度妥協して設置し、虫の飛来を待ちます。
飛来するのは、鱗翅目、双翅目、カワゲラなど。
幕を定期的に見回ったり
写真を撮影したり。しかし、参加メンバーが求める甲虫は、なかなか現れません。
ハナアブの一種
2匹飛来し、2匹とも私が持ち帰り。
トゲバカミキリ
灯火では初のカミキリムシです。
シロオビチビカミキリ
まわりを飛翔していたそうです。
・
・・
・
しばらくするとみんな飽きてきて、懐中電灯を片手に倒木見回りに出かけ、灯火の前から姿を消していきました。
・
・
倒木ではホソカミキリ、ナカジロサビカミキリ、エゾサビカミキリ、カレキゾウムシの一種、ミツギリゾウムシなどが徘徊していました。
しかし、こういうのも徘徊しているので油断はできません。
・
・・
・
・
だいぶ眠くなってきた午前2時ごろ、ペプチドグリカンA氏が、巨大な甲虫が飛翔しているのを発見。時間帯からしてヨコヤマヒゲナガカミキリではないかとメンバーに緊張が走ります。Toki氏が長竿を操り、みんなの誘導で掬ってみます。網についていた、その巨大な甲虫とは・・・、
・
・
ミヤマクワガタ
Toki氏は所有を放棄、ペプチドグリカンA氏が持ち帰ることに。
・
・
・
・
このあたりで私は眠りにつき、1時間ほどしてみんな車に戻ってきて寝たようでした。
・
・
・
・
翌朝6時
灯火セットを片付け、荷物を軽量化して亜高山帯を目指して登山を開始します。
・
・
・
・
1時間ほど歩き続けたところで、休憩。このような谷筋の薄暗い道をひたすら進むだけです。途中で小さな沢を何本も渡るのですが、登山靴でないペプチドグリカンA氏とニシム氏は苦戦しながらもクリア。
・
・
・
・
さらに1時間ほどして、伐採地を発見して、再び休憩(ここは特別地区だけど、果たして許可を受けた伐採なのか・・・)。
あたり一面に新鮮な針葉樹の伐採木が転がっています。休憩時間といえども我先に昆虫採集に走り、しばらくここに留まることに。
・
・
・
コエゾゼミ
羽化したばかりらしく、ササに止まっていました。この時に私の足にマダニが付着しているのを見つけ、マダニ警報を出して注意を促しつつ、採集を続けます。
・
カメムシ幼虫
・
ただ立っているだけでもピドニアやホソハナカミキリ類が白Tシャツや白い網めがけて飛んでくるという面白い経験をしました。これらのカミキリは視覚を頼りに花を探しているのでしょうか。
・
・
・
休憩後、しばらく歩いて特別保護地区に突入しました。コメツガ・シラビソがうっそうと茂る林です。一同、網をリュックに収納し、一刻も早く採集可能エリアに到達するべく雲取山登頂は回避して、黙々と歩き続けます。
・
・
・
・
・
ようやく、特別保護地区の外に到着。1ヶ月ぶりの亜高山帯の尾根です。
「あ、シラフヒゲナガ飛んでる」
Toki氏が画像に写らないほど空高くを飛ぶ甲虫を発見。自身の実験材料としても、絶対確保しておきたい種類なのだそうです。
ふたたび網を取り出して長竿に装着し、群がるアカウシアブを振り払いつつ採集開始ですじっとしていると吸血してきて、ひどい目に遭うそうです)。
・
・
・
・
林内に突入し、花を探しますがツルアジサイはすでに散っていて、他に花は見当たりません。針葉樹の倒木はいたるところにあるため、鮮度が良いものを探して急斜面を徘徊します。
・
・
しばらくすると、30m先に巨木が倒れているのを発見。枝につく葉はまだ緑で、相当新鮮なようです。しかも、材の上を大きな虫が徘徊しているのが見えたため、慎重に近づいていきます。
・
・
・
すぐに、その虫の目の前に到着。まずは生態写真と、カメラを取り出しシャッターを切ります。
・
・
・
・
しかし、前回と同じパターンで虫はあえなく落下。緊張していると気配を悟られてしまい、ダメですね。今度も落ちた軌跡はしっかり見えていたので、楽々と発見。
・
シラフヒゲナガカミキリ♂
低山地でもみられるヒゲナガカミキリとは違って、東京ではここでしかお目にかかれない種類です。
・
3年前の昆研合宿で車に飛来した個体は後輩が目の前でつかみとり、2年前の合宿でペプチドグリカンAからお土産で材をもらい、出てきた極小個体は極度の羽化不全。なかなか縁がなかったカミキリですが、やっと採集できました。
・
・
・
・
そのすぐ左隣1mにも、♂が止まっていたので生態写真にチャレンジ。
視界をさえぎる枯れ枝を慎重に取り払ってカメラを構えますが、足場が悪いのでこれが限界。
・・
・
その後、交尾途中だったペアには気配を悟られて逃げられたので、撮影はあきらめて捕獲。
・・
・
・
全部はチェックせずにその場を離れ、近くにいたニシム氏に倒木の位置を教えてからその場を離れます。
・
・
・
・・
・
Toki氏は林内をどんどん進んでいったらしく姿が見えなくなりましたが、ペプチドグリカンA氏だけは吹き上げで虫を狙う作戦をとっていました。採集した虫が詰まったカラフルなチャック付きポリ袋を見せてもらうと、TKM未認定のカミキリムシ(昆研のE先輩は奥多摩で採集してる)の姿が。
ペ「良かった、捨てなくて」
府中市内の調査で驚異のカミキリムシを2年連続で採集するような強運はここでも発揮されています。
・
これに触発された私は、ちょっと離れた場所の吹き上げで待ってみることに。
・
・
・
オオセンチコガネ
奥多摩の個体は他の場所と同じく上翅は赤色が強いです。
・
・
キスジホソマダラ
昼に活動する鱗翅目で、腹部は青藍色の金属光沢をもつ美麗種です。
・
・
・
しかし、そのカミキリムシは私の目の前には現れませんでした。
・
・
・
・
・
その後、ニシム氏は無事にシラフヒゲナガを採集して戻ってきました。時間もだいぶ迫ってきたので、登山者の情報をもとにたくさんのシラフヒゲナガカミキリを抱えて山ひとつ向こうまで行ってしまったToki氏を呼び戻しに行き、下山することにしました。
長竿だけ持ち歩いていると、こんな山奥で釣りをするのかと不思議に思う人が多いようです。
・
・
雲取山荘で見かけたシラフヒゲナガカミキリ♀。ここだけピンポイントで特別保護地区外という話もありますが、写真だけにしておきました。
・
・
・
・
・
休憩1回をはさんだだけで歩き続け、2時間半ほどで車を置いた場所まで戻ってきました。
・
・
私は途中で立ち枯れに静止するツヤハダクワガタ♂を採集し、Toki氏は途中で崖を登り、ミズキに静止していたフタコブルリハナカミキリを採集していました。体色が変わっていて、なかなか良い個体です。
・
・
・
全員が到着した直後に夕立が降り始めました。急いで荷物を積み込み、ノンストップで府中まで戻りレンタカー屋に到着したのが返却時間の5分前でした・・。
学生数名で奥多摩に行くのも、単独採集とは違った楽しさがあります。今回の灯火採集は開始時間が遅かったこともあり不発で、亜高山帯でも当初の野望(妄想にも近い)はほとんどできませんでしたが、最低一人1種は良い虫が採れたと思います。車内や休憩時間などにいろいろ話をしたり、同じ道を一緒に歩いて虫を探したりすることは学生生活の中でのかけがえのない一コマです。また機会があったら一緒に採集に行きましょう。