2007.Aug.26
平地では相変わらず残暑が厳しいですが、山は少しずつ秋が近づいています。カミキリムシの発生ピークは過ぎているこの時期に、ようやく野外に出てくる種類がいます。
その中でも昔からカミキリ屋の心をつかんで離さないのは
オオトラカミキリ
トラカミキリの中では日本最大、まさにスズメバチそっくりです。主要な生息場所はモミ・シラビソ・ツガなどの樹冠部分とされており、人間の手が及ばないことから珍種とされてきました。野外で成虫を得るチャンスは偶然に頼るのが主でしたが、近年は♀が産卵のため幹をつたって降りてくる時を狙うのが主流になっています。ただし、どの木でも♀が降りてくるわけではなく、いくつか条件が必要らしいということが経験的にわかってきており、理論的あるいは本能的に条件を見抜いた人は年に1匹くらいは遭遇できるようです。
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前置きが長くなりましたが、奥多摩でもその条件のいくつかを満たす場所を
今年初めに発見しました。先々週に下見に行き、先週は疲労で断念し、今週がラストチャンスということで、体力をしっかり回復させてから、夢の虫を探しに奥多摩へ。晴天で気温も上がる中、翌日の登山が待ち遠しく、今日は終バスの1本前のバスで奥多摩入りしました。暗くなる前にトラップを仕掛け、それでも時間が余っているので周囲を散策してみます。
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灯火の下には多数のミヤマクワガタが落ちています。発生末期なのですべて♀で、ことごとく潰れています。
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そんな中、明らかにミヤマクワガタとは違う大きな甲虫が落ちているのを発見。
オオチャイロハナムグリ
頭の形がクワガタとは違います。不幸にも3次元から2次元に変換されていました。初遭遇なので、生きている姿を見たかったです。
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河原に下りてみると、水がせき止められている場所を発見。
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魚でもいないかと中を覗いていると、水面を動く生物を発見。薄暗くてピントがまったく合わないので、手でカメラを前後させてフラッシュを強制発光
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オオアメンボ
他のアメンボよりも明らかに大型で脚も長いので区別は容易です。以前、林道にできた水溜りで見て以来、2度目です。
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暗くなってきたのでそろそろ灯火採集の準備に入りますが、一旦暗くなった空が、途中でまた明るくなってきました。
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月齢12.2、ほぼ丸い月が薄雲をものともせずに輝いています。そのため虫の飛来は少なく、特に鱗翅目が極端に少ないです。今晩も、頻繁に遭遇するカミキリ屋さん(今年はクワガタ中心)と遭遇し、しばし情報交換。
「とりあえずここに来るだけでいい気分転換になりますよ」
たしかに、その通りですね。
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ビロウドカミキリ♀とノコギリカミキリ♂
月明かりの中、カミキリは何種類か飛来しました。
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オオキノコムシ
バイクでクワガタ採集に来ていた方に見つけてもらいました。
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ヤママユ
これを見ると秋が迫っている感じがします。
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センノキカミキリ♂
ここでは♀しか採ったことなかったです。
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鱗翅目の写真撮影もそこそこにして、明日に備えて早々と眠りにつきました。
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翌朝
目覚ましをセットしたのは4時でしたが、結局寝袋から這い出したのは6時半。かなり涼しい朝です。
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気温は18℃
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草木には夜露が光ります。
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身支度を整えて、ツガ林目指して出発します。
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この前と同じく、ミズナラ林を進んでいきます。途中、ミズナラの御神木をチェックしますが、精の姿はありませんでした。
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リョウブもさすがにもう散っています。来年もちゃんと花が咲くといいのですが・・・。
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途中、行く手をさえぎる朽ちた倒木。くぐる瞬間、何気なく表面を見てみると、
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「あ、ルリクワガタ類の産卵マーク」
倒木を調べてみると、いたるところについていました。わりと新しいため、この冬に削ってもどうせ幼虫です。その次の冬に削ることにします。
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カエデ類の落ち枝
周囲の環境もなかなか良いので、本格的な秋が到来すればコブヤハズカミキリ類が潜りこんでいること間違いなし。
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朽ちた倒木には、ハナアブが産卵に訪れています。本物のハチよりも派手な羽音と不自然な動きで、もはやすぐに見分けられるようになっています。
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そんなこんなで、いろいろよそ見をしながら歩みを進め、ようやく目的地に到着
ツガとヒノキを主体とした針葉樹の林です。
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場所によっては視界が開け、遠くの山々が見えます。
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時間は、9時半(登山開始から3時間)。オオトラカミキリの採集適時はまだだいぶ先なので、周辺を散策することにします。
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前回も見た、やや古めの倒木。何もいませんでした。
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タラノキの花
この場所では唯一の花で、無数のコバチが訪れていました。
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この写真を撮影した直後、背後で音がしました。
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「ブーーーーン」
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「これって、もしかして、アレか?。こんな早い時間帯なのに。」
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反射的に網を構え、振り向くと私の50cm前にその虫が飛んでいます。
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瞬時に網の位置を合わせて、体をひねって振り抜きます。
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この間、約0.5秒
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ネットインする直前、その正体はわかりました。
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太い体、短い触角、黄色と黒の縞模様・・・
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とは、似ても似つかぬ
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細めの体、長くて黒い触角、赤い上翅・・・
アカハナカミキリ
平地から山地まで幅広く生息するハナカミキリ。カミキリ採集シーズンの終了を告げる虫でもあります。そういえば奥多摩で見るのはとても久しぶりです。
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時間を潰しているうちに、なにやら怪しい雲が私のいるエリアだけを覆い始めます。
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風も出てきて、気温はちっとも上がりません。
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オオトラカミキリ採集の条件のうち、「高温」」「直射日光」、これが満たされなくなり、遭遇の可能性は大幅に低下。
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しかし、せっかくここまで来たのでダメもとでオオトラ探索に切り替えます。
ツガの木
幹のあちこちに白いヤニが出ています。こんな木があちこちにあります。
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ちょっと古めの羽化脱出孔。1~2年くらい前のものでしょうか。
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落ち枝の切り口を見ると、右側の樹皮下にやや粗めの糞がぎっしり詰まるオオトラの特徴的な食痕がありました。材部の切り口がなめらかだったので、おそらくここから材部に侵入し蛹室を作ったのでは?
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結局、5時間半ほど探したのですが、条件不足ということもあり影も形も見当たりませんでした。
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立ち枯れもそこそこあるので来年の夏に一度来てみてもいいかもしれません。
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結局、今年もダメだったか・・・。帰りのミズナラ林の落ち葉もこの後、どんどん厚くなることでしょう。