奥多摩:台風の爪痕

2007.Sep.17

9月7日に関東地方に上陸した台風9号により、奥多摩町では700ミリという何年かに一度の大雨に見舞われました。青梅線運休・奥多摩街道通行止めで陸の孤島と化し、山々に降り注いだ雨は多摩川に一気に注ぎ込み、下流で避難勧告が出されるほどのものでした。

8月下旬のオオトラ探し以来だいぶ間が空いてしまったので、そろそろ奥多摩に行っておきたいところです。台風通過から約1週間、路線バスも通常運行に戻り土砂崩れの恐れがだいぶ少なくなったところで、いつもの場所の様子を確認しに行くことにしました。


アカガネの旅の翌々日、今回は自宅から始発電車に乗って奥多摩を目指します。天気は良好なこともあって、奥多摩駅を降りるとたくさんの登山者がいました。バスの発車まで30分ほど、コンタクトレンズを装着して周囲を探索します。

駅前に設営された売店のテントを眺めていると、ハチが止まっているのを発見。キアシナガバチのようです。巣が近くにあるわけでもなく、じっとして動かない。これは何か変だと思い、よく観察した後に、

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キアシナガバチ

恐る恐る、手でつかんでみました。触角が長いのでオス、つまり毒針を持たないのでこんなことができます。オスが出現しているということは、もう秋が来ているようです。

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バスに乗って、いつもの場所へ。崩れている箇所は特になく、やや色あせてきた感がありますが緑の山々が連なります。

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川は水量がいつもの2倍ほどありますが、ここまで来ると水は澄んでいます。

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気温は24℃(午前9時)。今日は奥多摩でも30℃に達すると予想されているので、これからどんどん上がることでしょう。

登山道入り口で水分補給をしてから、いつもの場所へと向かいます。

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途中にある涸れ沢。水が勢い良く流れたようで、石が洗われて暗い林床に浮かび上がっています。

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しばらく急な道を登ると、ミズキの倒木を発見。葉は乾燥して丸まっていて、まだ緑が残っています。一応、今日の狙いであるセダカコブヤハズカミキリがいるかもしれないので、ビーティングネットを用意して叩いてみます。

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フタモンアラゲカミキリ

奥多摩でのカミキリ採集種数も150種を超えていますが、ビーティングはあまり得意ではないのでこの種も実は自己初採集です。

これ以外はクモくらいしか落ちてこないので先に進みます。

しばらくして、昨年7月にセダカコブヤハズカミキリを採集したエリアに到着。ミズナラを主体とした原生林です。

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枯葉つきの枝

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倒木

台風の爪痕がいたるところに見られます。

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昨年、ソリダ(オオホソコバネカミキリ)の巨大なメスを撮影・採集したブナの立ち枯れも倒れてしまいました。また新たなポイントを開拓しないといけません。

このエリアでセダカコブヤハズカミキリを狙って枯葉をひたすら叩いて回りますが、クモ・ハサミムシ・ゴミムシくらいでちっとも落ちてきません。

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林床には日差しが降り注ぎ、枯葉は握っただけで粉々になる始末。こんな環境では採れる気がしません。この時期、どうやってセダカは生き延びているのでしょう・・・。

アテが外れたので、フジコブヤハズカミキリのエリアを目指して進みます。

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途中、いつも必ずチェックする樹液に寄ります。

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今日のお客はチャイロスズメバチ。スジクワガタは遠慮して隅の方に隠れています。巣が目立つ場所にあるので駆除されないか心配してたのですが、今日もまだ存在していたのでそこから飛んできたのでしょう。全部で5個体いましたが、触角や翅が欠けている個体がほとんどです。

その中に、他のと様子が違う個体を発見。触角と腹が長く、樹液をなめるでもなくじっとしている。他の個体を刺激しないようにタッパーでそっと採集し、木の棒でつついて、腹端から出るものを見極めます。

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チャイロスズメバチ♂

確認した後で、手づかみ撮影。滅多に見られないチャイロスズメバチの中でも秋にしか出現しないオスです。3年前はワーカー数個体を見つけただけだったこの場所で、オスまで採れてしまうとは思ってもいませんでした。これが、本日最大の収穫です。

樹液を去り、再び歩みを進めると、イヌブナの倒木に到着。

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この倒木は7月からずっとありmタテスジゴマフカミキリを奥多摩で初めて採集しました。葉は乾燥していて何もいなさそうですが、一応叩いてみると、

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タテスジゴマフカミキリ

また、落ちてきました。秋に成虫が出現して野外越冬するそうなので新成虫でしょうか。

倒木を後にして、またしばらく歩くと、急峻な奥多摩では貴重な平地に出ます。

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相変わらず林床は乾燥していて、コブヤハズには厳しい様子。

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ミズキの絶好の枯葉もありますが、この環境では、きっといないだろうな・・・

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と、思っていたら

フジコブヤハズカミキリのオスが落ちてきました。先週に富士山で採集したばかりですが、ここで採るのはまた一味違います。昨年はここでルッキングでしか採れなかったので、初めてビーティングで採ったことになります。

その後、周囲を探索しますが追加は得られず。仕方ないので先に進みます。

途中で道を外れて、秘密のノリウツギの様子を見に行きます。

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他の木の巻き添えになっていないかと心配でしたが、ノリウツギは健在でした。来年はアオカミキリ・オオハナカミキリ・ヒメヨツスジハナカミキリを期待しています。

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さらに進んだところで時間が残り少なくなったので、注目のカエデの落枝まで到達するのは諦めて、トラップを設置して下山することに。

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ホソアカガネオサムシ、アルマンオサムシが入るといいです。

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ちなみに、今年アルマンを採った涸れ沢は見事に削られていました。プテロ狙いで石起こしをするも、ガロアムシの若齢幼虫しかいませんでした。

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帰り道、昨年3月にしまちゃんさんの協力で設置した材を回収。水分をたっぷり含んだ材により、荷物が約10kg増加。ガガンボ幼虫とフトカミキリ系の食痕があったので、とりあえず何か出てくることは確かです。

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山の緑は少し茶色を帯びてきました。今シーズンの終わりが見えくるようで寂しいですが、まだまだ山で探す虫はたくさんいます。来週はトラップに何が落ちているのか、楽しみです。

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