奥多摩:秋の訪れ

2007.Sep.22

台風の通過により大量に発生した広葉樹の枯葉つき落枝。先週はその枯葉を目当てにコブヤハズカミキリ類を探しに行きましたが、奥多摩に分布する2種のうちフジコブヤハズカミキリのみでした。今回はもう1種のセダカコブヤハズカミキリを求めて、トラップ回収と新規設置も兼ねて、秋が訪れている奥多摩へ向かいました。


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先週と同じく、雲はあるもののさわやかに晴れています。

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橋にびっしりと残る水滴が夜の冷え込みを感じさせます。

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気温は19℃、しかし湿度は高いです。

登山道入り口でビーティングネットを組み立てて、ズボンのすそを捲り上げて(この時期になればダニを恐れることはない)、いつも通りに急斜面を登り、昨年セダカを採集したエリアを目指します。

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先週、フタモンアラゲカミキリを初採集したミズキ。今回も叩いてみましたが、甲虫はゴミムシのみでした。

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途中、スズメバチ用のトラップを林縁に設置。中の液体は、賞味期限を3年ほど経過した瓶ビール(本町水田の管理棟で発掘)。前日にペットボトルに詰めて直射日光に1日当て、さらに熟成させました。長い間放置すると腐敗するので、今日の帰りに回収することにします。

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しばらく歩いて、セダカのエリアに到着。相変わらず乾燥しているので、なるべく日が当たらない北斜面を中心に湿っていそうな枯葉を狙って叩いていきます。

しかし、そう簡単に採れるものではないことは前回の採集と同じ。

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ニイジマトラカミキリ

なぜか、ビーティングで落ちてきました。

材内で羽化、翌年まで待機中 → 台風により蛹室付近で枝が折れる → 仕方なく脱出

というところでしょうか。

しばらく探索しても採れる気配がないので、途中にいくつかある樹液をチェックしながらトラップ回収へ向かうことにします。

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先週チャイロスズメバチがいた樹液には今日も1個体だけいました。右翅がちぎれ、左前脚が欠けており、先週も見た個体のようです。飛び立つこともできないので、ここで余生を送ることになるでしょう。

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もうひとつの樹液には、コクワガタ。スジクワガタを見慣れていたので、とても大きく感じられます。

しばらく進んで、適当な場所を見つけてトラップを新設することにします。

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ペットボトルを材料にして作る、ノムラホイホイというトラップ。入り口にはキッチンペーパーを敷いてよじ登れるようにして、周りは新聞紙で覆って中が暗くなるようにします。中身は、茶色く変色した豚ひき肉(本町水田管理棟の冷蔵庫に後輩が放置したもの)。シデムシ類と糞虫類が狙いです。これは来週以降に回収することにします。

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さらに進むと、フジコブヤハズのエリアに到着。増加を続けるシカにより、スズタケがどんどん踏み荒らされていきます。

昨年はここでササにひっかかった枯葉にしがみつく個体を見つけたわけですが、先週はみつけることができませんでした。さて、今週はどうでしょう。

・・

スズタケがまだ立って残っている場所を中心に見ていきます。

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フジコブヤハズカミキリ

かろうじて、1♂を発見。周囲はかなり乾燥しているのに、なぜか上に登るようですね。

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さらに進んであちこち歩き回ると、スズタケが濃いエリアを発見。ダニの心配もないので思い切り探し回りますが、セダカやフジコブの姿はどこにもなく・・・。

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アトジロサビカミキリ

全体的に灰色なので最初なんだかわかりませんでした。カミキリはこれだけ。

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トビムシの一種

個体数も多く森の中の分解者として重要な生物ですが、カミキリ採集をしていると非常にまぎらわしい存在でもあります。

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マルムネゴミムシダマシの一種

原色甲虫図鑑III巻では未掲載種が多いので名前はよくわからず。

採れる気満々で臨んだつもりでも、だんだんやる気が弱まって、いつしか枯葉がついていない枯枝まで叩き出してました。

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乾燥した林床に落ちている、広葉樹の枯枝

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叩いてみると・・・・ん? 何かいる。

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クモノスモンサビカミキリ

上翅後半に芸術的な模様を持つ、渋いカミキリムシ。一般にはあまり多い種類ではないらしく、カミキリ屋には喜ばれる種類です。長年会いたいと思っていましたが、ようやくここで遭遇できました。

野外で成虫越冬をする種類なので、探せばもっと見つかるはずと思い、コブ探しから一転してクモノスモンサビ探索へ。

辺りに落ちている枯枝のそばに歩いて行っては慎重に叩いていきます。他のサイトで見た生態写真からすると、新鮮なものよりも少々古い枝の方がいいようなのですが・・・。

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こんな感じで枯葉も何も残っていない広葉樹の枯枝も、一応叩いてみます。

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クモノスモンサビカミキリ

すると、ビーティングネットを持つ右手に着地する虫が。今度は脚も触角も完全な個体です。

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枯枝の状態を手にとって確認してみます。樹皮がはがれかけて、とてもまずそうですが、こんなのでいいのか・・・。

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ということで、こんな感じのボロボロのブナの枯枝を叩いてみます。

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クモノスモンサビカミキリ

またも落ちてきました。「四国のカミキリムシ」というサイトで見た生態写真そっくりの姿勢。20cmほど離れた場所には、ナカジロサビカミキリも落下してました。

しかし、その後ボロボロの枯枝を中心に叩いてみたものの、追加は得られませんでした。単にボロボロなだけじゃダメみたいです。

この辺りで昼になったので適当な場所に腰を下ろして昼食タイム

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本町水田の近くのスーパーで夜なら安く手に入るオニギリ。

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食べながら周りを見ると、真っ赤に染まったカエデがありました。山の上では一足早く秋が訪れています。

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昼食の後は、先週仕掛けたトラップを回収しに行きます。

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コップの中には、狙い通りホソアカガネオサムシがいました。他にはクロナガオサムシとエサキオサムシが多数、プテロなどのゴミムシが少々。トラップ液を追加して次回の回収に備えます。

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もう一ヶ所は、例の涸れ沢

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しかし、コップはすべて獣に荒らされていました。近くに水場があるので野生動物の往来が激しいからか。ちょっと場所を移動して、来週に期待します。

トラップも回収したので、あとはセダカコブヤハズを探すのみ。林床に落ちているいろんな枯葉をダメ元で叩いていきます。

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ミズキの枯葉

幅が広くて程よく丸まるのでオススメの樹種です。

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カエデの枯葉

葉が柔らかいので幅が広い樹種ならばオススメ

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ハリギリの枯葉

葉は大きいのですが硬くて居心地悪そうです。

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ミズナラの枯葉

小さくて硬くてあまり丸くならず、期待薄です。

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そして、いろんな樹種が混在する枯葉の塊

いろんな場所を叩いていきますが、一向にセダカは落ちてきません。

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林床から突き出た小さな枯枝から、

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かろうじてフジコブが1個体落ちてきたのみ。採集時にはちょっと変わった雰囲気もしたのですが、どうせフジコブの♀だろうと、特に気にせず容器に入れて探索を続けます。

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枯葉を求めて林内をフラフラと歩いていきますが、ふと足元を見ると地面が掘り返されてて、何か白くて変なものがのぞいています。

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クロスズメバチ類の巣

クマに中途半端に襲撃されたものでしょうか。知らずにまたいでしまったのですが、襲われなかったのは幸いでした。冬に空巣になったら巣内の居候を掘り出すため目印をつけておきました。

結局この後何も採れず時間だけが経過し、バスの発車時刻も近づいてきたので下山することにしました。

途中、登りで仕掛けたスズメバチトラップを回収しに行きます。

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キイロスズメバチ♂

中にはキイロスズメバチのワーカーと♂が入っていました。♂は自己初採集です。

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舗装道路まで戻ってきて、まだ時間が少しあるので、道路脇でもビーティングを試みます。ガードレールの先は急斜面or絶壁が川まで続いているので、落下しないように手を伸ばしてギリギリの体勢で叩きます。

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いかにも虫が潜んでいそうな枯葉

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ハスオビヒゲナガカミキリ

当地では2個体目、あまり縁がないカミキリムシです。

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そして、4ミリほどの微小なカミキリ。最初、ヘリグロチビコブカミキリかと思ったのですが、よく見ると先週も採れたフタモンアラゲカミキリでした。

その後、舗装が途切れる辺りまで歩きながら叩いたのですが、カミキリはこの2種類のみ。秋の微小カミキリを狙うには、初めから林道を歩かないといけませんね。いつもより1本遅いバスで、奥多摩駅へ。

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夕焼けとともに辺りが急速に暗くなっていきます。

結局、セダカは今回も採れなかったなと、今日採れたフジコブを容器から取り出してみると、2匹目の♀が、ちょっと変なことに気づきます。

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上翅の白紋が細くて、表面が粗くて、隆起も強いような・・・。でも、上翅基部の大顆粒もあるし・・・。

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横から見ると、隆起はそれほどでもないような・・・

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フジコブ♀にしては触角が長いような・・・

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ビーティングネットに落ちてきた時の様子。

「セダカとフジのハイブリッド」

という考えが頭をよぎり、何名かの虫屋さんには実物を見てもらいましたが、「フジ♀」という見方と「ハイブリッド」という見方と両方あり。

そもそも、私は奥多摩のセダカの♀を採ったことがなく、当地のフジコブも数えるほどしか採集したことがなく、現時点では判断することができません。来年以降、両種の比較用個体を採り揃えてから改めて検討してみたいと思います。

一体、何者なんでしょうか?

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