プチ洪水採集

2007.Sep.8

台風9号が9月7日未明に小田原市に上陸、関東・東北を北上しました。奥多摩町では降り始めからの雨量が約700ミリとなるなど、各地で大雨による河川増水、土砂崩れ、住宅被害などが出ました。

台風はこのように人間生活に大きな被害をもたらしますが、台風の威力を利用した昆虫採集法も古くから行われています。そのひとつが、「洪水採集」と呼ばれているものです。河川の下流・河口では、大雨により上流から大量の草木・ゴミが流れ着き、岸辺や浜辺に山のように堆積します。その漂着物の中にまぎれている昆虫を採集するのです。山地性の種類や、思わぬ珍種も得られることがあるため、特にゴミムシ屋さんには魅力的な採集だそうです。

台風通過直後でないとできない採集なので自由に動ける今のうちに経験を積んでおこうと思い、オオトラ日和の真夏日にもかかわらず、河川敷に向けて出発します。


その1 江戸川編

自宅を出て、始発電車で東の方へ。今日の目的地は、東京・千葉の境を流れる江戸川です。過去には洪水採集でアカガネオサムシが得られているようです。

その幻のオサムシを頭に思い描きつつ、電車を降ります。有名な東京下町の商店街を抜けると、すぐに川に出ます。

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江戸川河川敷 6:30 a.m.

普段なら公園や野球場が広がっているところですが、ご覧のように茶色い水に覆われています。

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さっそく、水田長靴に履き替えて探索開始。アカガネオサムシ、マイマイカブリ、オオヨツボシゴミムシなどと夢を膨らませて、水際に近寄ります。

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ところが、実際に水際に降り立ってみると、漂着物はほとんど見当たりません。下流に向けて歩いていきますが、30分ほど歩き続けても一向に良い場所が見当たりません。こんなはずでは・・・。

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延々歩いた末に、なにやらピンと来るダンボールを発見。なんとなく下に空間ができてて何かが潜んでいる感じがします。めくってみると、

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シバオサゾウムシ

アメリカから侵入・定着した昆虫です。造園業など芝に関係する職業の方にはとても嫌われています。しかし、初めて見た私にとってはとても魅力的な虫です。

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このダンボールを徹底的に調べると、あちこちにシバオサゾウムシが潜んでいました。

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そして、あっという間にこんなに採れました。

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ふと周りを見渡すと、そこは芝生が見事な野球場でした。シバオサゾウムシがたくさんいるのも納得できます。

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外野の外れには、待望の漂着物がありました。早速、探索を開始します。

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板の裏にはシバオサゾウムシ

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タイヤを見つけて近寄ると

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その上にもシバオサゾウムシ

ビニールの下にもシバオサゾウムシ、枯木の下にもシバオサゾウムシ、靴の下にもシバオサゾウムシ

(以下、略)

河川敷の草地に普通に見られるゴミムシが素早く逃げる中、まったく動かないシバオサゾウムシはとにかく目につきます。アカガネオサムシなんぞは夢のまた夢・・・。

すべての漂着物を調べ終わった後(8:30 a.m.)、疲労もあって、やる気を喪失し、バスに乗って帰路に着きました。


結局、あてにしていた漂着物はほとんどなく、河川敷を歩き回って汗びっしょりになってシバオサゾウムシ大量採集しただけでした。しかし、このままでは終われないと思い、昨晩に下見に行った多摩川河川敷へ転戦することにしました。


その2 多摩川編

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11:00 a.m.

電車に揺られて目が覚めたら、多摩川の上にいました。駅を降りて、河川敷に向かいます。昨晩より水は減ってますが、相変わらず濁っています。

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土嚢も、そのままになっています。昨晩ここに群がっていたゴミムシは1匹もいません。

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土嚢のそばの漂着物を、試しにひっくり返してみます。

昨晩と同様、無数のゴミムシとハサミムシが一瞬にして逃げ去っていきます。枯草やゴミの中から虫を見つけるのは、研究でやっているソーティングに比べれば対象が大きいだけにはるかに容易であり、昨晩の瞬間視の練習のおかげで、河川敷の常連かそうでないかはすぐに区別できます(私は、カマキリと同じように動く物体の方がよく見える眼を持っています。)。

ゴミムシがひととおり逃げ去った後、今度は動かないものをよく見ていくと、

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何やら丸い甲虫がひっくり返っています。ハムシのような体型をしていて、この大きさでこの色ということは・・・

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ハッカハムシ

楽しくも苦しかった野外調査を思い出させる虫のひとつです。東京にも記録があるようなのでいずれ探してみたいと思ってましたが、こんなところで再会できるとは。上流から流されてきたのか(八王子で記録があり、Web上にも写真がある)、ホトケノザを食べてこの近くで生き延びているのかは不明ですが、この台風の中でよく生きていられるものですね。

いきなりハッカハムシが採れてしまったので一気にやる気が出て、ひたすら漂着物をひっくり返しますが、その後は河川敷の常連ばかり。

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漂着物の中で眠っていたヒキガエル。昨晩は活発に動き回っていましたが、暑さを避けて奥深くに潜っていました。

再びやる気がなくなってきた頃に、ようやく洪水採集ならではの虫が採れました。

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ヨツボシツヤナガゴミムシ

多摩川では上流の方で記録がありますが結構珍しい種類のようです。ちなみに、昨晩も目撃していますが逃げられて悔しい思いをしました。

久々のハムシと昨日逃げられたゴミムシが採れたところでだいぶ疲れも感じられるようになってきたので、強烈な日差しが照りつける河川敷を後にしました。


洪水採集とはどんなものなのか、とりあえず経験することはできました。もっと面白い虫が採れると思っていたのですが、最初なので仕方ありません。次に機会があれば、また試してみたいと思います。

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