阿波國のセダカ探し

2008.Aug.23-24

先週の淡路島ではかすりもしなかった、セダカコブヤハズカミキリ。飛翔能力を捨ててまで豊かな森を追い求めた独特のカミキリムシであり、地域によって体形の変異があり、生息環境・生態も若干違うらしく、分布調査、形態比較、累代飼育など、さまざまな楽しみ方があり、これらを追求して「コブ屋」を自称するカミキリ屋さんもいるほどである。そんな奥深い世界を知るためには、まず虫そのものに出会わなければ始まらない。

淡路島の次は、いよいよ四国に上陸しようと考えていた。初めての土地では地元の方に連絡を取って案内していただくのが一番だが、1週間前になって急にお願いするのも悪いので、今回は自力で行くことにした。セダカの記録地としては数多くの山が挙げられているものの、「公共交通機関+徒歩」で到達できるセダカの生息地となると限られてくる。時間、費用、体力を勘案した結果、目的地は讃岐山脈東端付近に決定。分布するのは亜種サヌキセダカコブヤハズカミキリ、場所としては昔の阿波國という小さな矛盾もあるのだが、気にしない。

徳島県産の梨を食べるというささやかな縁起かつぎをして、

本州四国連絡橋:神戸・鳴門ルートで、初めての四国へ(実は、学部時代に “行ったけど行かないことにした土佐” があるけど、初めてということにしておこう。)


土曜の朝、先週の採集記を掲載してから三宮駅に向かい、高速バスに乗る。

午前11時、四国に上陸。予報では曇り時々雨だったが、まだ雨は降っていない。強風の中、荷物を持って鳴門駅まで歩いていく。

煙を吹き上げる列車に乗り込み、最寄駅を目指す。

乗り換えで少々時間がかかったが、昼過ぎに最寄り駅に到着。目的地の山には雲がかかっており、頂上はまったく見えない。

谷戸に沿って進んでいくと、登山口に到着。この山の頂上付近に、サヌキセダカは生息しているのだ。着替えなど必要ないものは藪に隠しておき、さっそく登山開始。

しばらくは砂利道だったが、やがて石段を延々と登ることに。よく手入れされているものの、そのために乾燥している。

日が差し込むので下草(主にシダ類)が生えており、枯葉つきの枯枝もわずかに見られる。だが、この環境では厳しそうなので、無視。

隣の尾根を見ると、似たような植生をしている。アカマツ、ソヨゴがよく目立つ。

しばらく登ると脇道があったので、そちらに足を踏み入れる。道の上は木々で塞がれており、湿度も高く良い感じ。

道沿いを見ていくと、伐採された枝が少ないながらも放置されている。

どれも細い枝ばかりで、一応チェックしてみるがセダカの姿は浮かび上がってこない。

しばらくすると、霧が出てきた。どうやら雲の中に入ったようだ。あまり遠くない位置では、雷鳴も轟く。尾根沿いの道ではないにしろ、かなり怖い。

雷雲の様子をみながら歩みを進め、伐採木チェックを進める。このコナラの伐採枝はわりと太くて良い感じだったのだが、セダカの姿はなかった。

しばらくすると石段の道に合流するが、霧はますます深くなる。そして、稲妻が空気を切り裂く音が頭の上で轟いたかと思うと、大粒の雨が降り始めた。

実は、電車の乗り換えで待っている時に、沖縄の祖母が急に電話をかけてきていた。「山の中で大丈夫かどうか、ふと心配になって」ということだったのだが、祖母には今日の昆虫採集については一切伝えていないのだ。沖縄の「おばあ」には神秘的な力が宿るといわれているが、90歳を超えた祖母が、遠く離れた地にいる孫の危機を察したのだろうか。不思議な出来事に、何かただならぬものを感じる。

もうすぐ頂上なのだが、先に進むのは非常に危険。来た道を戻ったとしても、尾根沿いなのでこれまた危険。進むことも戻ることもできないので、しばらく待機。

石段をつたう水は、いつしか滝のように・・・。「県内でもっとも降雨量が少ない地域・・(案内板より)」でも、降るときは降る。ああ、来なければ良かった・・・。

どのくらい待っただろうか、ようやく雨も上がり、雷鳴も遠くに消えた。さあ、探索を開始しよう。

まず目についたのは、道端のヒサカキの伐採枝。ちょっと眺めてみるが、何も見つからない。叩き網の上にすばやく移し、叩く。

さて、どうだろう。


ニセビロウドカミキリ


ヒナカマキリ

枯葉を丹念にかきわけていくが、セダカの姿はなかった。

道端ではダメなのか。倒木や枯葉つき枯枝を求めて、森の中にも足を踏み入れてみる。

しばらく枯葉つき枯枝はなかなか見つからず、倒木を眺めることを繰り返す。良さそうな材はそこそこあるのだが、肝心のセダカの姿はそこにはない。

こんな倒木が、そこそこある。上に乗って縄張りを張っているような♂をイメージしていたが、さっきの大雨で隠れてしまったのかな?

材の側面、そして裏側へと目を移していく。

すると、

長い触角、やった、セダカだ。

暗くて撮影はうまくいかないので、まずは採集するのが先決だ。手のひらですばやく覆って材に軽く押し付け、逃げられないようにしてからゆっくりと持つ。

しかし、それはニセビロウドカミキリに化けてしまう。そんな紛らわしいところにいなくてもいいのに・・・・。

しかし、こんなことでめげていてはいけない。記録はあるんだから、探せば絶対見つかるはず。そう自分に言い聞かせて、雨と汗でびしょびしょになりながらも歩き続ける。

しばらくして、道からちょっと離れた場所に枯葉つき枯枝を発見。近寄ってみると、ヤブツバキを伐採して放置したものであった。今までのイメージでは、あまり美味しそうではないのだが、一応見てみよう。

目視開始で約5秒後、枯葉の上に黒い影が浮かび上がった。

「今度こそ、セダカだ」

雨に濡れて真っ黒になった1匹のセダカが、こちらを向いて止まっている。

撮影を試みるが、足場の悪さと林床の薄暗さにより、まともに写らない。一応、それらしき影が見える写真が撮れたところで、カメラを置く。摩耶山での苦い経験があるので、両手を伸ばして左右からすばやく挟み込む。


サヌキセダカコブヤハズカミキリ

登山開始から3時間、ついにこの手に収めることができた。雷でも諦めずにがんばって良かった・・・。

続いて、追加がいないかどうか、伐採枝を叩き網に移して叩いてみる。


アトモンマルケシカミキリ

セダカの代わりに、このカミキリが落ちてきた。8月下旬だというのに、まだ生き残っていたとは。

落ちてきた枯葉をよく見ると、ギザギザの食痕があった。きっと、セダカのものだろう。

その後、山頂まで行ってみるものの、再び霧に包まれる。さらに、雷鳴も再び近づいてきた。ここで野宿しながら灯火採集をしようと考えていたが、とてもそういう状況ではない。

雲も厚くなってきて森の中が薄暗くなってきたので、駆け足で下山する。

約25分という驚異的なタイムで登山口まで戻ってきた。ここまでくれば、一安心。

夕闇が迫るまで時間があるので、河川敷を散策。


ヨツスジトラカミキリ

今までヤブガラシ以外の花では見たことない。


コアオハナムグリ

新成虫なのだろう、とてもきれいだった。

夕闇が迫る頃、適当な場所へ移動して夜を明かすことに。明日は晴れてくれるだろうか・・・・。

inserted by FC2 system