最後の学生四人旅

2008.Mar.23

ずいぶん前から言われてきた「虫屋人口の減少&高齢化」。昆虫採集に興味を持って本格的に始めようと思っても、見本になるような師匠・先輩も、共に楽しみ学びあう仲間も、身近にいない場合が多くなってしまう。

私が昆虫採集に目覚めたのは、大学1年生。世の昆虫少年少女に比べればはるかに遅かったものの、幸いにも農工大の昆研では先輩と後輩に恵まれていたし、他大学の同年代の虫屋とも少しだけ交流を持てた。

この6年間はどちらかといえば単独採集の方が多かったが、複数人での採集の方がより多くの思い出が残るものだと今さらながら思う。

丸一日の昆虫採集も、学生時代としては今日が最後。4年前の石垣島於茂登岳で出会ったToki氏、3年前の昆研会長時代の新入生ペプチドグリカンA氏、1年間かろうじて昆研で一緒になることができた新人のニシム氏。昨年夏に奥多摩の亜高山帯に登った4名が南房総で再び顔を合わせる。

今回の狙いは、ハチジョウウスアヤカミキリオオキンカメムシ

南房総ではおなじみの虫で採集方法も詳しく紹介されているものの、やはりどんな環境に住むのかを、自分の目で確かめてみたいもの。事前にいただいた情報をもとに、学生時代最後の採集へ。

(採集記に先立ち、情報提供者のヤスポンさんに深く感謝いたします。)


朝、始発電車に乗り込み、昨日とは逆に南東方向へ。携帯で連絡を取り合いながら合流場所へ向かいます。

「いやー、沿線火災で電車止まるかと思いましたよ」

「あ、おんなじ電車だったんですね」

「昨日は寝てない。眠ったら起きられないから」

なにはともあれ、無事に合流できてよかった。

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再び電車に乗り、南房総にある目的地を目指します。窓の外の水田にはもう水が張られており、一足早い春の訪れを感じさせます。

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今日の目的地は海のすぐ近く。ここからしばらく歩いて、ハチジョウウスアヤの生息場所を目指します。

と、その前に・・・

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地面に横たわる大型の昆虫の姿が目に入ってきました。

「いいもの落ちてるぞ」と、ペプチドグリカンAを呼ぶ。

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オオキンカメムシ

残念ながら息絶えていたものの、今日の目的のひとつがあっさりと見つかりました

ペ「死骸が見つかるくらい、たくさんいるってことですね」

ペプチドグリカンAが今回期待しているのはこのオオキンカメムシ。昨年、別の場所を一人で徘徊して結局見つからなかっただけに、今回の採集にかける思いは4名の中の誰よりも強い

追加は見つからないので森の脇の小道を進むことにします。周囲の環境に目を配りながら歩いていくと、事前にイメージしたのと一致する場所を発見

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ここだけ風が弱くて、ちょっと日陰になっている。ペプチドグリカンAも呼んで、近づいて下から覗き込んでみると、

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「あ、いた」

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ということで、ペプチドグリカンAが長竿を伸ばす。しかし、オオキンカメムシの足腰は信じられないほど強く、なかなか引き剥がすことができない・・・

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オオキンカメムシ

網の枠にひっかけ弾き飛ばすようにして、ようやく採集。大きくて、派手で、油模様が浮き出ていて、実に良いカメムシです。

ひとまず採集できたので、先に進むことにします。

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春の日差しの中、南国らしい常緑樹が木陰を作っています。そんな木々の葉の間を眺めていたペプチドグリカンAが何かを発見

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そして、長竿を取り出します。

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今度は日向の葉についていました。先ほどの採集で苦戦したため、網は装着せずにビーティングで挑むことに。

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よく探してみると、日向にある木の葉に単独でペタペタと張り付いています。もう越冬明けの分散が始まっているのでしょうか。

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そして、日陰のカクレミノには複数個体が隠れています

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たまには、手が届く高さにいることも

ある程度採集したところで、もうひとつの目的であるハチジョウウスアヤの生息地を目指します。

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水平線が見えるところまでやってきました。この海の向こうからハチジョウウスアヤは流れ着いたのだと想像しながら、ホストであるササを探します。

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これが現地でのハチジョウウスアヤのホスト。林縁や断崖に密生しています。

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各自、ここぞという場所を選んで探索開始。採集記ではいとも簡単に採れるように紹介されているものの、実際にやってみるとなかなか難しく、時間だけが過ぎていきます。

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1時間ほど粘っても、幼虫が少々出てくるだけ。何か、まだ見抜けていない条件があるようです。

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いち早く成虫を見つけたのが、深い笹薮の中に潜っていたToki氏。昨年の奥多摩亜高山帯でもシラフヒゲナガを素早く多数採集しており、目のつけどころにはいつも驚かされるばかり。

他3名は、採れた場所の近くを重点的に探す「ハイエナ採集」へ。1匹見つかったからもっとたくさんいるはずですが、コツをつかめていない者には光輝く枯れササは見えてこない・・・。

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ふと笹薮から目を離すと、キブシの花に春の訪れを感じたり、

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スカシバガの虫エイが目に入ってしまったり・・・

でも、ここはササ割りに集中しなければ。

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そして、ようやく当たりが来ました

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ハチジョウウスアヤカミキリ

思っていたよりもずっと大きかったです

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ほぼ同時に、ペプチドグリカンAも成虫を割り出す

残るはニシムただひとりとなったが、なかなか成虫にめぐり合えない。先輩たちが運を吸い取ってしまったようで申し訳ない・・・

他3名で追加を狙うも、かろうじて幼虫が採れるだけ

「もっと密度が高い場所はないものか」

ちょっと周辺を探索してみたところ、立て続けに幼虫が得られるエリアを発見する。戻ってみんなに伝えようとしたがToki氏が入れ違いで探索に行ったらしく、ペプチドグリカンAとニシムを連れてToki氏を探しに行くことに

歩き回っても見つからないので、電話をしてみると、

T「○○○の○○○のなかにいる」

私「じゃあ、今からそこに行きます」

(あれ、それってさっき見つけたあの場所では?)と思いながら、その場所へ行ってみると、Toki氏の姿を発見。

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私「ここ、密度高いでしょ」

T「うん、もう4匹採れた。何でわかるの?」

私「さっき幼虫を採ったのがここなんだ」

T「ああ、ここだったのか」

ということで、二人の感覚が一致したこのエリア、なかなか良さそう。

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ちょっと探してみると、すぐに成虫を発見。慎重に縦に裂いて撮影してみました。

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虫屋歴10年余りのToki氏から虫屋歴1年のニシムへ特別講義

「こんな風に繊維状の木屑で栓が出てきたら、・・・」

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講義の成果はしばらくして現れました。これで、4名全員が目的を達成

先ほどの場所と比較して、成虫、幼虫、ともに高密度。穿孔している枯れ笹の条件を注意深くみていくと、いくつか重要な条件が見えてくる。

採集の合間にToki氏と情報交換してみると、ほぼ同じ条件を見抜いていた。

「適度な***と***のもの」

「//////も決め手になるみたい」

条件がわかると、非破壊で成虫の存在を把握できるようになる。言葉ではなかなか説明しにくいので、ぜひ現場で体験してみてください。

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カビに侵食されつつある個体もいましたが、取り出すと元気に動き出すたくましさも見せました

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南国からの漂着者の不思議を十分に満喫したので、ちょっと別の虫も狙ってみようということで、このエリアを後にします。

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目星をつけておいた里山へ時間をかけて歩いて移動

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森の中でオサ掘りをしてみます

結果から言うと、徒労に終わりました。崖を掘っても、昆虫が出てこない。アカオサムシの採集経験があるペプチドグリカンAいわく、

「これで出てこないなら、きっと生息してないんですよ」

無駄に体力と時間を使わせてしまって、ゴメン。

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帰りの電車まで1時間もあったので、夕暮れ時の浜辺で乾杯

来週から私は社会人となり、長年住んだ東京を離れる。不思議な縁で一緒になったこのメンバーと学生の身分で採集に行くのは、とうとう今日で最後。でも、社会人になったら永遠に会えなくなるわけではない。メールでも電話でも、いつでも連絡を取ることはできる。学生時代のように無茶はできないかもしれないけど、またそのうち、みんなでどこかに行きましょう。

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