氷ノ山:過ぎ行くブナ林の夏

2008.Aug.9-10

兵庫県でもっとも高い山として有名な、氷ノ山。虫屋さんの間でも、古くからの好採集地として名が通っている。その豊かな自然林の中で山地性の昆虫を採ってみたいのだが、神戸からは遠く、車でないと通えないことから今まで行く機会がなかった。

今回はevitaさんのご案内のもと、aile21さんご一家とともに1泊2日+灯火採集で、初めて憧れの氷ノ山を訪れることとなった。8月も中旬になろうというこの時期、カミキリ採集にはちょっと遅めではあるが、それでも山地性の種類が何かしら採れることを期待して、現地に赴く。


金曜日、夕食を食べた後に電車に乗り、北を目指す。土曜日の早朝にevitaさんの車に拾ってもらうべく前夜に移動しておく。

目的地の最寄り駅に到着した後、灯火めぐりをしてから眠りにつく。ミヤマ、アオスジ、サビなどの各種カミキリムシが採れ、明日の灯火採集に期待を膨らませる。

翌朝、evitaさんと無事に合流し、氷ノ山を目指す。aile21さんご一家は昼間は鳥取に行ってて、夜からの合流となる。最後の集落を抜け、車でどんどん標高を上げていく。道沿いのノリウツギやリョウブは多くが散っており、少々不安になったところで林道に出る。

時間は8時半、平地よりは涼しい。路面はものすごくきれいで、普通乗用車でもそこそこ快適なドライブが楽しめる。奥多摩の林道の極上クラスが、ここでは普通であることにとても驚く。

道沿いには洞があいた巨木も点々と見られ、もう少し早い時期ならとても面白そうな感じであった。

evitaさんによれば、ここはまだまだ序の口だそうで、もっと先に進んで良さそうな場所に出たところで、車を停めて採集開始。

道沿いを歩いていてもっとも目につくのは、ノリウツギの白い花。しかし、残念なことにすでに散ってしまった株がほとんど。あと2週間早ければ・・・・・。

かわりに、イタドリの花が満開だったので近寄ってみると、ハナアブが少々飛んでいた。全部は採れないので、狙いを定めて網を振る。


オオシマハナアブ♂

♀は昨年の昆研合宿で採ったが、♂は初めて。クロスズメバチっぽい模様がかっこいい。

道端のヒヨドリバナには、アサギマダラがわりと多くみられる。マーキングされていないかちょっと見るだけで、すぐに林道歩きを再開する。

しばらく歩くと、咲き残りのリョウブを発見。近寄ってみるが、カミキリはヨツスジハナしか来ていない。かわりに大型ハナアブがいたので、そちらをネットイン。


オオモモブトハナアブ♂

ノリウツギやリョウブの花で見られるマルハナバチ似の大型種。ほぼ1年ぶりの再会となる。

さらに、別のリョウブの花


ヨツスジハナカミキリとオオトラフコガネの一種
(注:オオトラフコガネは近年数種に分けられている)

甲虫の数はきわめて少ない。

このようにほとんど花が残ってない状況では致し方ない。

続いて、車を走らせながら立ち枯れを探す。まずは、evitaさんが目星をつけていたというこの立ち枯れ。そっと近寄って見上げてみると・・・・。


オオホソコバネカミキリ♀

産卵場所の選定で歩き回っていたが、産卵を始めたところで写真撮影。産卵中は動かず、少々のことでは逃げないので楽。撮影だけして2人とも採らないので、aile21さんのためにと生け捕りに。

しばらく進むと、工事で車が入れなくなっていた。ここから先が本番ということなので、歩いて進むことに。


リョウブの咲き残りに止まるヨツスジハナカミキリ

2週間前のハナカミキリの天国の名残りを見つつ、夏の日差しを受けながら淡々と歩いていく。

道端に枯れ木もそこそこ転がっており、もしかしたら、セダカコブヤハズカミキリがいないかという淡い期待を抱きながら眺めていくが、虫の姿は非常に少ない。


エゾサビカミキリ


モンキナガクチキムシ

あとはキクスイモドキカミキリくらい。

キノコがたくさん生えた古めの立ち枯れを見上げてみる。逆光で慣れるまでは見にくいが、やがて虫の姿が浮かび上がる。


オオキノコムシ

いつも灯火で拾っていたので、昼間に見るのは初めて。食事中なのか休憩中なのかは定かではない。

木陰の少ない林道歩きで体力を消耗していくが、こういう日陰に来るとほっとすると同時に、虫の気配を色濃く感じる。

ちょうどこのあたりで、evitaさんが枯枝のビーティングでヒメヒゲナガカミキリを見つける。そして、普通はなかなか叩き落せない虫も地面に落ちてきた。それは、キタスカシバ。

落ちた場所を指差してもらって、撮るか採るか少し迷う。撮るを選択して準備しているうちに、飛び去ってしまった・・・・。フェロモントラップを使わない限り、一期一会になる可能性が高いこのスカシバガ。迷わず採れば良かったと、非常に後悔する。

しかし、2度目のチャンスがこの後すぐに訪れる。道沿いでビーティングできる枯木がないものかと探して歩いていると、ササの葉の上に、ハチっぽい虫が止まっているのを発見。


キタスカシバ

本日2匹目、今年3匹目。

翅を震わせて体を温めているが、まだ飛ばないだろうと思い、3枚ほど構図を考えて撮影する。しかし、予想に反して撮影終了前に離陸してしまい、長竿を手にする前に空のかなたへ消えてしまった。

よく見ると、このエリアにはキタスカシバの寄主植物であるヤナギ類が多く、それなりに個体数も多いのかもしれない。

暑さを避けるように森の中の小道へ踏み込み、立ち枯れをチェックする。非常に良さそうに見えるのだが、ネキもセダカもいない。

アカアシクワガタが熱心に産卵しているだけだった。

さらに林道を進むと、ノリウツギの咲き残りを発見。でも、花で食事中だったのは、アカハナカミキリ。

マルガタハナカミキリもいた。いずれも、カミキリ屋にとっての夏が終わりかけていることを告げている。

ほとんど虫が採れないまま、暑さで体力と気力が奪われていく。もうこれ以上進んでもかわらないということで、来た道を引き返す。

帰りながらも立ち枯れのチェックは継続し、あちこちの小道に入っていく。

そんな中で、一番規模が大きかったのはここ。大木が2本ほど倒れてギャップを形成し、端には立ち枯れがある。ちょっと林道からは遠いのだが、見えたのだから行ってみる。

まず、倒木を見て回るが、表も裏もしっかり見たが、カミキリはいない。

次に、立ち枯れを眺める。


ノコギリカミキリ♂

根元で休憩していた。


ナガゴマフカミキリ

根元の洞の入り口で交尾中。最初はセダカコブヤハズかと思ってドキっとしてしまった。

その後は特にめぼしい成果はなく、一旦山を降りてaile21さんご一家と合流することに。

麓で合流した後、灯火採集にはまだ時間があるので別のポイントへ移動する。

着いたのは、とある道路沿い。こんなところに、何がいるのだろうか・・・・。

evitaさんが示したのは、林縁にはえる1本のクワの木。葉裏を覗くと葉脈に沿った食痕がびっしりついており、その主であるイッシキキモンカミキリもちゃんとついていた。

すぐそばには衰弱したヌルデがあり、イッシキキモンカミキリの♀が熱心に産卵していた。奥多摩で長竿を持ってクワの梢を見上げていた経験からすると、こんなお手軽に生態写真を撮影できる場所は、かなり貴重。

その後、スーパーで買い物をしてから、いよいよ灯火採集のため山に戻る。

灯火採集の狙いは、ヨコヤマヒゲナガカミキリ。いくつかあるポイントのうち、ブナが多いところを選択。evitaさんが車からライトトラップセットを取り出し、手際よく組み立ててく。

10分ほどで、ほぼ完成。発電機も無事に動き、照明も点灯した。あとは、夕暮れを待つだけ。

腹ごしらえをしながら、日が完全に落ちるのを待つ。

そして、闇夜が訪れ、白幕にも少しずつ虫が飛来してくる。

入れ替わり立ち代りで幕に止まった虫を見ていく。


キマダラトガリバ

なかなか面白い模様をしている。


オオクワゴモドキ

図鑑で目にして、ぜひ見てみたかった種類。


オニクワガタ

aile21さんがヒメオオクワガタを発見した直後にブナの幹で採集。


双翅目の一種

緑色の金属光沢には、ついつい手が出てしまう。

この他にも、ムラサキトビケラ、カマキリモドキ、カワゲラ、スズメバチなど多様なグループの昆虫が飛来してくる。このような灯火採集は初めてで、見ているだけで非常に面白い。

この夜の灯火採集で、もっとも人気を集めたのは、ヒキガエル。ブナの根元にいたのを連れてきたのだが、人目を気にすることなく大食漢ぶりを披露してくれた。

この後、一瞬でヤガの一種はカエルの胃袋へと消えた。


10時頃の幕の様子

どちらかというと、小型の昆虫が多く集まっている。

この頃になると、みんな疲労の色が濃くなり、次々と車に戻り眠りにつく。

3時頃、そろそろ大物カミキリが来る頃と思って目を覚ます。evitaさんもすでに起きていて、二人で灯火を見守る。

5時間前と比べて、虫の密度が高くなっている。


ツノアオカメムシ

ものすごい高密度で、光源付近に群れていた。

起きてから5分ほどで、「怪しい影」が灯火の上を舞ったのだが、見失ってしまう。大きさからすると、センノキというよりはヨコヤマだったような・・・・。

その後、evitaさんと入れ替わりにaile21さんが目覚め、灯火を見守る。ブナの幹や枝葉をチェックしていくが、本命はなかなか姿を現さない。

そうこうしているうちに、夜が明ける。結局、最後まで本命は姿を現すことはなかった。その分、いろいろな虫をじっくり見ることができて良かった。

撤収作業も、evitaさんが手早くこなしていく。


ミヤマクワガタ

今回はわりと多くの個体が飛来したが、小型のものが多かった。

この後、山を下りながら立ち枯れをチェックする。昨日オオホソコバネカミキリがいた立ち枯れも見るが、今朝はその姿はなかった。

舗装道路に出たあたりで、evitaさんが長竿を持ち出してヤナギを叩く。アカアシクワガタやイタヤカミキリが落ちてくるという。落ちてくる枝葉をみんなで見てまわる。


イタヤカミキリ♀

白帯が鮮やかな個体だった。

その後、帰りがけに貯木場に寄ってみるものの管理人不在のため探索は断念。探索できたとしても、厳しい日差しの下で乾燥した材には虫の気配はなかったが・・・。

showzineくんが、排水溝で甲虫2種を発見。片方はノコリギリカミキリ、もう1種はタマムシ。


クロタマムシ

すでに息絶えていたが、未採集なので死骸であってもありがたく頂戴する。生きた姿を見たことあるなんて、うらやましいなあ・・・。

最後に、evita邸に寄ってお土産をいただいてから解散。


ヤノトラカミキリ

昼休み採集で出会えるなんて、とてもうらやましい・・・。


今回は8月という遅い時期だったこともあり、花掬いや立ち枯れ見回りではあまり虫が見つからなかったものの、神戸の山々よりもずっと豊かな森を見ることができたのが大きな収穫でした。普段はひとりで採集に行っているので、いろんなお話が聞けたのも楽しかったです。次回どこかへ行く時も、よろしくお願いします。

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