ハンノキ林の宝石

2008.Jun.14

6月も中旬に入り、平地ではクリの花が最盛期を迎えている。

先週から狙っているミドリシジミも、おそらく発生が始まった頃だろう。この前の場所ではハンノキの本数が少なく生息は難しいように思えたので、今度は別の場所でハンノキ林を探すことにする。

ネット上で情報収集していると、「神戸市北区」で近年撮影された写真が目にとまった。「北区」といっても広大な面積があり、徒歩で回るにはとても無理。地形図、航空写真と照らし合わせて環境をイメージしながら、ここぞという場所を絞り込む。湿地がたくさんあって、ハンノキもありそうな理想的な場所。

しかし、さらに調べてみると、残念な事実が判明。どうもそのエリアは諸事情により、最近になって立入禁止となったらしい。せっかくの休日に後ろめたい気持ちで採集するのは嫌である。

地図を見ると、そのエリアの周辺にも小規模ながら良さそうな谷戸がいくつかある。

大規模な安定した生息地と、そのまわりにある小規模な谷戸

近くに安定した発生地があるならば、小さな谷戸でもハンノキさえあれば生息している可能性が高いことだろう。大規模な生息地から溢れた個体が、周辺の谷戸に飛んできて定着するだろうから。

周りの谷戸は自由に出入りできるようなので、今回の探索場所はそこに決定。一応、下見なのだが、もしかしたら発生初期の新鮮な個体に出会えるかもしれない。


先週と同じように身支度を整えて、自宅を出発。今日は北を目指して電車に乗って移動。

駅を降りると、同じ神戸市とは思えないような懐かしい風景が広がっている。駅員はいないし、線路は単線だし、目の前は山。学部時代に採集で訪れた山梨県の風景にちょっと似ているなと思いながら、狙いを定めた谷戸の入口へ進んでいく。


集落の奥から谷戸に向かう道

薄暗い植林の中、川沿いに道が通っている。この先で谷戸がいくつかに分かれているので、とにかく1本ずつ入ってハンノキを探す。

ひとつめの谷戸に到着。ため池が上下に2個あり、その間に水田が広がっているはずなのだが・・・・・

実際は水田はなく、畑になっていた。昔は立派な水田だったろうに・・・・。谷戸の傾斜が思ったよりきつくて、ハンノキが生えるような湿地は見当たらない。

谷戸の外れにはクリの木が1本だけ生えている。まだ8時半、ちょっと早めだがせっかくなので、長竿を伸ばして掬ってみる。

ジョウカイボン(上)と、キンイロジョウカイ(下)。実は、キンイロジョウカイは西日本で見てみたかった虫のひとつ。巨大な体に、紫色に輝く上翅がすばらしい。

この他には無数のコアオハナムグリが入ったくらい。このまま粘っていてはミドリシジミの下見にならないので、すぐ諦める。

畑の脇のあぜ道は草がだいぶ伸びている。一応、年に数回は草刈りがされているようであったが、いつまで持つのだろうか。腰まである草をかきわけて進んでいると虫の音が聞こえたので、ちょっと網でスウィーピングしてみる。


キリギリスの一種の幼虫

ヒガシキリギリスとニシキリギリス、どちらなんだろう・・・。


ナキイナゴ♂

鳴声の主はこれ。小さな体の割りに大きな声を出していた。翅の間に広い空間があり、そこで音を共鳴させているのだろう。


ツマグロバッタ♀

翅の先が黒い、特徴的なバッタ。

スウィーピングで採れた直翅目はこの3種類。バッタ2種は採集し、キリギリスはまた採りに来ることにする。

谷戸の下の外れには、現役の水田を発見。先週あたりに田植えが行われたようだ。トンボ類がさかんに産卵していた。

水田の脇にはネムノキがたくさん生えていたので、スネケブカヒロコバネカミキリでもいるのかなと妄想しながら眺めていく。すると、何やら道らしきものが見えてきたので進んでみることにする。

外からはまったくわからなかったが、林の中にはため池があった。その堤の上を道が通っている。先の方が明るくなっているので、隣の谷戸に通じているのだろう。道を戻らなくて済んで良かった、と思ったのだが・・・・・。

林を抜けると、いきなり葛原・ススキ原が出現。昔は水田だったことは地形を見ると明らかなのだが、数年前に放棄されたらしい。ここも傾斜が急で、放棄水田が湿地になることはなく、草原になってしまったようだ。

このまま元の道を引き返せば良かったのだが、運悪く谷の下流にクリの花が見えてしまったので足を踏み出してしまった。肩ほどもあるススキを掻き分け、クズの蔓を振り払い、クリの木めがけて藪の中を突進していく。

分速30mほどで進んでいき、ようやくクリの木の手前まで到着。時間は9時半、飛来のピークにはまだ早いが、何かしら来ているだろう。この先は崖になってて足場が悪いので、ここから長竿を伸ばして掬うことにする。

あらかじめ株全体を見回して掬う順序を決めてから長竿を伸ばすことにしているが、その順番決めの際にアカジシミを発見。網で掬うのは簡単だけれど、撮影は容易ではない。光学18倍ズームでも、これが限界。

撮影後にアカシジミをそっと採集して、いよいよ本格的に掬う。順番に一通り掬った後、網を覗くと無数のコアオハナムグリがブンブン飛ぶ。それをかきわけて、残りの虫をチェックしていく。


ツマグロハナカミキリ♀

平地ではおなじみのハナカミキリ


ヒゲコメツキ♂

コメツキムシの中では有名な種類


アメイロカミキリ

クリの花で時々得られる他、灯火にも飛来する

2回ほど掬ったところで、今日の目的を思い出す。まだまだチェックする谷戸は残っているので、ここで粘っていては日が暮れてしまう。

後ろを振り向くと、葛原が果てしなく広がる。もう、もとの道に戻る気がしない。このまま丘をひとつ越えれば、最初の川沿いの道に出るはず。クリの木の根元目指して進み、そこからササ藪をかきわけ、獣道らしき場所をなるべく選んで、進んでいく。

どうにかこうにか、先ほどの川沿いの道の延長線上に出る。水分補給を兼ねて休憩をして息を整えた後、再び上流を目指して歩き出す。

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