里山の林縁

2008.July.6

梅雨明けが発表されても納得できるような、暑い日が続く今日この頃。夏の日差しが降り注ぐ里山は、一年でもっとも活気がある時期でもある。

里山といえば、大学2年の5月から7月まで毎週通っていた川崎市北部を思い出す。昆虫採集を始めたばかりの大学1年の夏に自力で開拓した場所で、ヤマトタマムシ、シロスジカミキリ、ゲンジボタルなど、里山の代表的な昆虫に出会うたびに感激したものである。

それらの昆虫がよく見られたのは、水田と雑木林の境目、すなわち林縁。手入れが行き届かず笹薮が広がる雑木林の中と比べると非常に多様な植物が生育し、必然的に多種類の昆虫が集まっていた。残念なことに、私が通っている間にも現地の環境は大きく変わっていき、宅地開発・農地開墾・耕作放棄など、最初に訪れた時の面影は年々薄れている。

花を掬ったり、材を見たり、スウィーピングをしたりするたびに、新しい出会いと感動の連続だった、あの楽しい時期。前日の六甲山で思うような採集ができなかったが、ここはひとつ初心に帰って、神戸の里山ではどんな虫が見られるのか、じっくりと調べてみるのもいいだろう。厳しい環境でいきなり珍種を狙うよりも、まずは足元を固めてから。


朝8時、先月ミドリシジミを採集した、あの里山の入口に降り立つ。今日のキーワードは、「林縁を攻める」。さっそく、道端に積まれている新鮮な伐採枝を眺めることにしよう。

パッと見た感じでは虫の気配がまったくしないが、注意深く眺めていくと、虫の姿が浮き上がってくるものだ。


トガリシロオビサビカミキリ

里山でおなじみの種類


ヒメナガサビカミキリ

川崎市北部ではついに出会えなかった種類

伐採枝を眺め始めて5分くらいして、いきなりバイクが5台ほど道路を通過する。爆音と風圧により、ヒメナガサビカミキリは採集する前に落ちて消えてしまう。こんな狭い道をわざわざ走らなくてもいいのに・・・。

目視でもう何も見つからないというところまで眺めてから、ビーティングをしてみる。


アトモンマルケシカミキリ

あまり採ったことないので、けっこう嬉しい。


チャタテムシの1種(幼虫)

ケシカミキリ類と同じサイズなので、非常にまぎらわしい。

ひととおり叩いた後、湿った林の中を通り抜け、谷戸に到着。さあ、ここからビーティングとルッキングで、たくさん虫を見つけていこう。

まず目にとまったのが、枯木に巻きつくテイカカズラ。イボタサビカミキリを頭に描いて、叩く。

落ちてきたのは、このカミキリ。未採集ということだけは瞬時にわかったものの、種名はわからず。小さいけれど、きっと西日本でしか採れない種類なのだろう。いきなり新しいカミキリが採れるとは、幸先がよい。

(帰宅後、ヒメアヤモンチビカミキリと判明)

次に気になったのが、アザミの葉脈にある食痕。腰を低くしてその辺に生えている他の株を眺めてみると・・・。


キスジアシナガゾウムシ

なかなか大きくて、かっこいいゾウムシ。

前方に目を向けると、道端に新しい枯枝が散乱しており、少し前に草刈りが行われたことがわかる。こういう場所にはカミキリムシがいろいろ潜んでいるものだ。藪の端にビーティングネットをあてがい、徹底的に叩く。


ニセビロウドカミキリ

昼間は丸まった枯葉に潜むのでわりと探しやすい。

枯葉つきの枯枝が、ちょうどトラップのように置いてある。草刈りの後は枝をかき集めて燃やすことが多いが、これは取り残されたのだろう。すばやくつかんで叩き網の上に移動し、叩いてみる。


ビロウドカミキリ

これも、枯葉に潜むおなじみの種類。

耕作放棄された水田ではクズが繁茂し、道まで進出してきており、歩行の邪魔になるほどになると、部分的に刈られてしまう。そんなところを叩いてみると、


トガリシロオビサビカミキリ

フジの枯蔓によく集まるが、クズにも来るようだ。

ビーティングをしている間にも何台かバイクが通り、非常に不愉快な思いをした。まあ、有名なコースだから仕方がないのか。

(でも、ハイキングコースなんだから歩くべきだと思うけど)

林縁を叩きながら歩いていくと、目に前にアカメガシワの花が出現。前回来た時は意識していなかったが、こんなところにあったとは・・・。

時間はまだ9時。花を見回しても虫はあまり飛んでいない。一応、ダメもとで掬ってみる。


コアオハナムグリ

あとは、ミツバチなどが少々。まだ時間が早いのかもしれないので、また戻ってきてから掬うことにしよう。

谷戸の奥へ通じる道を歩いていく。夏の日差しを受けて、稲も順調に生長しているようだ。

道の山側に目を向けると、クズを刈り払った跡がみられる。これは何かいるだろうと思い、斜面を登って、塩ビ管で一撃・・・


コブスジサビカミキリ

奥多摩以来、2匹目の採集となる。この後、同じような場所を叩くといくつか落ちてきた。

谷戸の奥に向かう途中、前回目をつけておいた重要なチェックポイントがある。それは、放棄水田の真ん中に生えるヤナギの樹液。梅雨のため水位が上昇していて靴が濡れるが、気にせず突入する。


カブトムシ♀

スズメバチを振り払ってから、撮影。♂は夜になると現れることだろう。

幹の割れ目には、コクワガタの♂が潜む。夜になるとカブトムシと戦うのだろうか。

キョウトアオハナムグリでもいないかと期待していたが、今回はこれだけ。粘っても特に何も来ないので、先に進むことにする。

前回、ミドリシジミを採集したハンノキを横目で見て歩き続けると、広いため池に到着する。水質はまあまあ、水面にはヒシが浮かぶ。

ヒシの葉は穴だらけで、よく見るとジュンサイハムシの姿が見つかる。時期が合えば、ネクイハムシ類もいるのだろうか。

あまり見るべき場所もなかったので、先ほどのアカメガシワまで戻ることにする。

午前10時、再びアカメガシワの前に立つ。少々風が強くなっており、太陽も雲の陰に。見たところあまり虫は来ていないようだが、丁寧に掬ってみる。


エグリトラカミキリ

良く似たクロトラカミキリは盛夏になってから出現するので、この時期はたいていエグリトラしか採れない。

付近の藪をビーティングしたりして、適当に時間を空けてから、何回も掬ってみる。


アメイロカミキリ


ホタルカミキリ

前回はクリの花で採れたが、まだ発生しているとは思わなかった。


ニトベハラボソツリアブ

これは図鑑で見て採りたいと思ってた種類なのでうれしい。

2回に1回くらいはめぼしい虫が1種類くらい入る程度で、思ったより良くない状況なので、もうここは切り上げて伐採木置き場を見に行くことにする。

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