ヤマシャクヤクの妖精

2008.May.6

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」

古来より美しい女性を言い表すのに用いられてきた有名な言葉である。この3種類の花は、どれも品のある美しい花なのだが、チューリップやヒマワリなどと比べるとその知名度は低く、ユリは知っていても、シャクヤクは???という人が多いと思う。実際、私もシャクヤクの花を "シャクヤクと認識して" 見たことはまだない。

ところが、カミキリ屋の間では「シャクヤク」が一番有名である。それはもちろん、この花に集まる大型美麗カミキリがいるから。

フタスジカタビロハナカミキリ

丸っこい体形、黄色い上翅、大小6つの黒点。長い和名なので、通称「キマル(黄丸)」と呼ばれる。野山に自生するヤマシャクヤクの花のなかに潜り込み、その可憐な姿に似合わず、花びらを派手にかじってボロボロにする・・・。花が咲いているわずか1,2週間だけ成虫が現れることも、その人気を高めている。

この憧れのカミキリ、実は東京にも生息していて、奥多摩で少ないながら記録がある。しかし、第一関門であるヤマシャクヤクが見つからず、発見には至らず。シカは食べない植物らしいのですが、なにしろ人間という強敵がいるので・・・。

今回は、京都のevitaさんにキマルの生息地を案内していただくことになりました。大型連休の最終日、aile21さんご一家とともに、ヤマシャクヤクが咲き乱れる京都の山へ。


早朝、始発電車に乗り込み、京都駅へ。aile21さんご一家の車に同乗させてもらい、北を目指します。

思わぬアクシデントに見舞われたものの、待ち合わせ場所でevitaさんと合流。evitaさんとお会いするのは今回が初めてで、早速お土産をいただきました。


クビアカモモブトホソカミキリ

evita「知らなければホタルカミキリにしか見えないよね」

確かに、遠くから見るとホタルカミキリ・・・。関東では見られないカミキリのひとつ、どうもありがとうございます。

まだ時間は早いですが、挨拶もそこそこに本日のメインポイントへ移動します。

空は雲ひとつない快晴。今日は暑くなりそうです。

車を降りて、登山開始。前日の雨で林内は湿っていて、すぐに汗が噴き出します。でも、湿っている分、虫にとって住みやすそうな感じ。

適度に管理されたスギ林の中を登っていきます。普通のカミキリ採集では見向きもされない環境ですが、ここではこんな場所にヤマシャクヤクが生えているという・・・。

evita「そろそろヤマシャクヤクが見えてきますよ」

ということで、周囲をキョロキョロしてみます。

薄暗い林床にぼんやりと浮かぶ白い花。あれが、ヤマシャクヤクのようです。

花があれば、キマルがいる可能性があるということですかさずチェック。aile21さんがさっそく突進していきます

ひとつ見つかれば、あとは次々と花はみつかります。

気がつくと、evitaさんがあっという間に花のところまで到達しています。しかし、肝心のカミキリはいなかったようです。

ここで、みんな一斉に探索を始めました。私は、ちょっと足場が悪い沢筋を乗り越えて、20株ほどがかたまって生えている斜面へ。


ヤマシャクヤク全形図

花が咲いているのはわずかな期間なので、葉をしっかり覚えます。いつの日か、奥多摩で探索する時に備えて。

頭に焼き付けた後は、キマル探し。開きかけの花を、ドキドキしながら手でそっと開いていきます。

花があればどれにでも入っているというわけではなく、空っぽのものの方が多いです。

たまに、ケシキスイ?に混じって小さいカミキリムシが入ってます。


フタオビヒメハナカミキリ

小さい体を生かして、多種多様な花に集まり花粉を食べます。こんなところで出会えるとは思ってもいませんでした。

ひととおり見て、食痕らしきものは見つけたもののキマルはいなかったので、登山道へ戻ります。evitaさんはずっと先に登っていったようで、かあちゃんさんとshowzineくんは登山道を歩いており、aile21さんは姿は見えるものの道から外れてシャクヤク探し中。先に進むべきか、このあたりで粘るべきか。

少し登山道を登ると、右手斜面が伐採されて開けており、草の間に白い花がたくさん浮かび上がっているのが目に止まりました。これは、行ってみる価値あり。

転げ落ちないように注意しながら斜面を下り、ヤマシャクヤクの花をひとつずつ開いていきます。

やがて、はっきりとキマルの食痕とわかるものを発見。

ハナカミキリといえば花粉を食べるイメージが強いですが、こんなふうに花びらをバリバリ食べるのもいるとは・・・。

食痕つきの株が数株あったので、このあたりに1匹はいるに違いない。

「この花はどうだろう・・・・、この花はどうだろう・・・・、」

期待に胸を膨らませながら、急斜面に咲くヤマシャクヤクを開き続けていきます。

そして、

半開きになっていた花の奥に、探し求めていたその可憐な姿が・・

まだ眠っているらしく、撮影のためカメラを近づけても微動だにしない。鮮やかな黄色の上翅、コロコロとした体形、まさにヤマシャクヤクの妖精と呼ぶにふさわしい。震える手で何度もシャッターを押していく。

ついに、憧れのカミキリをこの手に。びしょびしょになりながら斜面を下った甲斐がありました。この1匹で、もう十分です。

一旦斜面を下って登山道に出て、もとの場所まで登ってくると、同じ斜面を下っていこうとするaile21さんの姿を発見。

Genka「採れましたよ。そのあたりで1匹。」

aile21「本当ですか。いや~、採れて良かった。」

さて、evitaさん、かあちゃんさん、showzineくんはどうなっているだろうか。登山道を2人で登っていきます。

しばらく登ると、比較的平坦な植林地に出て、3名の姿も見えてきました。

aile21さん「なんか、あっちはたくさん見つけているみたいですよ」

それを聞いて、登山道を外れてショートカットして進んでいきます。

2人の目の前には、ヤマシャクヤクが10株弱まとまって生えている

一度に3匹、しかも交尾中の個体まで。

こうなると、追加を探してみたくなるもの。緩やかな斜面を下ってヤマシャクヤクの花を調べていきますが、フタオビヒメハナカミキリが見つかるだけ。

しばらくして戻ってくると、同じ場所で追加が見つかったとのこと。

evita「このあたりが一番密度高いみたい」

キマルにも無事に出会えたので、あとはゆっくり周囲を探索。

植林の背後には、広葉樹林が広がる。コブヤハズカミキリ類がいそうな感じ。

林縁にはタラノキがまとまって生えており、ネジロカミキリの姿も。未採集のshowzineくんに譲ります。

12時を回ったあたりで、ここでの採集は切り上げて下山します。

途中、陽だまりの中で休憩。

ハナアブを採ったり、

トンボの一種を捕まえて撮影&リリースしたりして、車まで戻っていきます。

2008.6.9追記 ムカシトンボと判明。採っておけばよかった・・・。

その後、evitaさんのメインフィールドへ。

海がきれいに見える場所を散策。神戸とは植生がだいぶ違います。

ノグルミを教わり、タカサゴシロカミキリ狙いで持ち帰り。

最後に、驚きの庭先採集ポイント、「コデマリの花」を拝見。


トゲヒゲトラカミキリ

1匹のみ


コジマヒゲナガコバネカミキリ♀

ここでは「蚊」と同じ感覚らしい。


コジマヒゲナガコバネカミキリ♂

花だけではなく、下枝にも注目

あいにく風が強いものの、クビアカモモブトホソカミキリも2匹ほど飛来。庭先でこんなにたくさん虫が採れるなんて、実にうらやましいです。

この後、喫茶店でしばし歓談して、帰途につきました。


絶好の天気のもとで、evitaさんのご案内のおかげで、憧れのキマルに出会うことができました。ヤマシャクヤクもしっかり覚えたので、今度は奥多摩でじっくり探してみたいと思います。車に同乗させていただいたaile21さん、どうもありがとうございました。あと何年かは関西にいると思うので、また一緒に採集に行きましょう。

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