摩耶山:カエデの花掬い

2008.Apr.26

東京研修から戻ってくると、街中のサクラはすっかり散っており、穏やかな春の陽気が続いている今日この頃。初めて摩耶山を訪れてから、2週間が経過しており、そろそろ山の上でもカエデの花が咲いていることだろう。各種の小型甲虫、ハナアブなど、いろんな虫が集まってくるに違いない。虫の気配がほとんど感じられない街中を抜け出し、いざ、摩耶山へ。


7時半、宿舎のドアを開ければ、摩耶山がすぐそこに。天気は快晴、今日も暖かくなりそうです。

平坦地では自転車をこいで、坂道は歩いてケーブルカーの駅を目指します。

8時、駅に到着。3週間前には満開だったサクラも、すっかり葉が出揃っています。

ケーブルカーに乗って楽して上まで登ろうと思いましたが、始発は10時。2時間待ってケーブルカーに乗っても、自分の足で歩いても、地図を見る限りでは、大して時間は変わらない。衰える一方の自分の体力と、しっかり向き合うことも大切なことだし、少しでも心肺能力向上に努めるべく、歩いて登ることにします。

駅から徒歩3分で、登山口に到着。きれいに整備されている山道を、一歩一歩登っていきます。

まだ葉がそれほど茂っていないので、林内はとても明るいです。

下草がある場所と、ない場所がありますが、いずれにしても、かなり乾燥しています。コブヤハズ類にはかなり厳しい環境・・・。

しばらく登ると、急に開けた場所に出ました。伐採地のようです。

伐採は昨年あたりに行われたようで、切り口からは大量のひこばえが伸びています。このひこばえに、いろんな虫が隠れているに違いない。荷物を置いて、さっそくビーティングをしてみます。

すぐに、キクスイモドキカミキリが落ちてきました。東西で採集難易度が異なる種類のひとつで、西日本では普通に見られるものの、東日本では山地でしか採れない。

ちなみに、シナノクロフカミキリの場合は逆で、東日本では平地でも普通、西日本では自然豊かな山地に限定される。

ふと上を見上げると、白い花が咲いているのが目に入る。アオダモの仲間のようです。

ちょっと時間帯が早いものの、長竿を繰り出して掬ってみます。さて、どんなカミキリが入るだろうか・・・。

期待とは裏腹に、ヒメクロトラカミキリ1匹のみ。でも、この花はそれほど集虫力が高いわけではないはず。山頂のカエデなら、もっといろいろ集まってくるだろう。

こんなところでビーティングをしている場合ではない、山頂に急がねば。

荷物をまとめて、再び乾燥した登山道を登っていきます。

途中、寺の跡地を通った際、カエデの花が目に止まり、ちょっと掬ってみます。でも、不思議なことに昆虫自体がほとんど入らない。

広場の至る所で空中停止して縄張りを守っていたクマバチ♂。カエデの花掬いが不発だったので、網で採集して手でつかんでみました。

あまり寄り道していても仕方がないので、山頂を目指します。ここからはしばらく階段が続きます。

10時半、ようやく山頂付近に到着。ここからは平坦な道なので、ほっと一息。

地面を見ると、ビロウドツリアブが止まっていました。腹部を土の中に潜りこませようとしていたので、産卵中だったのかも。

山頂付近の広場まで行って、景色を眺めます。今日も霞がかかっていて、ポートアイランドがかろうじて見える程度。四国の山々はおろか、淡路島すら見えません。

前回、目星をつけておいたカエデ並木。

花は満開、風も穏やか、時間帯もバッチリ。道行く人々の好奇心に応えつつ(少しでも虫屋のイメージが良くなるように)、長竿で次々と掬っていきます。

しかし、ここでも期待とは裏腹に、ハナアブ、ハナバチ以外の虫がほとんど入らないという、信じられない状況が待っていました。

すぐ近くには古めの伐採木もたくさん積まれていて発生源には事欠かないのに、なぜ、甲虫が入らない?

しばらく掬っても結果は変わらないばかりか、風がやや強くなってきたので、風が弱くなる場所を求めて移動することに。

舗装道路をしばらく歩くと、柵の外に別の花を発見。

黄色っぽい花が連なっています(帰宅後に図鑑で調べ、ウリハダカエデと判明)。


ハナアブその1 (ナミホシヒラタアアブ?)

新芽と似た色で地味な花ですが、ハナアブには人気があるようです。観光客の好奇心に応えつつ、しばらくここで粘ります。

最初のうちは手当たり次第網に入れて確認していくのですが、だんだん飛び方やシルエットで種類がわかるようになり(名前はわからないけど)、ボーっと待っている時間が長くなります。

観光地として有名なので、人も頻繁に通ります。

「何を採ってはるんですか」

「ハナアブを採ってます」

「ああ、アブね。刺されないように気いつけてね」

なぜか、アブとしか認識してくれない人が多い・・・。ムシヒキアブ、シギアブ、クサアブ、ツリアブ、ミズアブ、コウカアブ、・・アブと名のつく様々なDipteraがいるんですけどね。


ハナアブその2 (フタスジヒラタアブ?)

”その1”に比べるとかなり少なめ。


ハナアブその3 (不明)

これは1匹しかいませんでした。

だいぶ飽きてきた頃、話しかけてきたある登山者から、残念な話を伺う。六甲山系でかつて採集をしていたというベテランの虫屋さんらしい。

「いやあ、昔はたくさんいたんだけどね、今じゃ3分の1くらいだよ」

「歩いて登ってきたのか。その登ってきた道沿いでも、虫がたくさん採れたんだよ」

「タマムシも、ハンミョウも、たくさんいてね。」

きっと、私が生まれるよりも前の話なのだろう。なんで、こうなっちゃったんだろう・・・。

採れる種類もほとんど増えなくなり、風もだんだん強くなってきたので、そろそろ下山することに。

路上でコツバメが風に飛ばされないように日光浴。

目の前を飛んでいたコンボウハバチの一種。これが、山頂付近で採集した最後の虫

この後、カエデをもう一度掬ってみたものの、状況は変わらず。オサムシ狙いでコップを地面に埋めてきて、下山ルートへ。

下りは体力を使わないので、一気に降りていきます。

そして、あっという間に先ほどの伐採地に到着。ビーティングは中途半端だったので、今度は徹底的に叩いてみます。


ヒトオビアラゲカミキリ

この1個体のみ。


ヒシカミキリ

同じく、1個体のみ。


キクスイモドキカミキリ

これは、コナラのひこばえを叩くとよく落ちてきました。

放置されている伐採木を見ても、カミキリの姿はなし。

一通り叩いたところで、もう嫌になって一目散に下山。登山口の手前で、コップを埋める。そして、自転車に乗り、海辺にかすむ宿舎へ。


出発前の期待感が大きかっただけに、帰宅後の疲労感はかなりのものでした。カエデはあんなに満開なのに、なんでカミキリが1匹たりとも網に入らなかったのか。しかも、市街地のど真ん中の小さな公園ではなく、それなりの樹種が生えている山なのに。この場所での採集のコツがまったくつかめていないだけのか、それともこの山の環境はかなり悪くなってしまったのか。次回、トラップ回収に行く時に、もう一度挑戦してみなければ。

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