2008.Jun.28
摩耶山は多くの人が訪れる観光地であるため、さまざまな植物が植栽されており、季節の移り変わりとともに、さまざまな花を楽しむことができる(・・・らしい)。梅雨真っ只中のこの時期に目立つのは、神戸市の花であるアジサイ。人間の手厚い保護を受けて、不適な環境であっても懸命に花を咲かせている。
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多くの人の視線が注がれているその脇で、ひっそりと生長を続ける植物がある。
シャクナゲ (ツツジ科)
年に一度、晩春に豪華な花を咲かせる時以外は、ほとんど注目されることはない。常緑樹木で、今の時期はみずみずしい若葉を展開しているのだが、その若葉の展開に合わせて出現するカミキリムシがいる。
ソボリンゴカミキリ
幼虫はシャクナゲの生木に穿孔し、成虫はその葉脈をかじるため、園芸愛好家からは目の敵にされる存在でもある。
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シャクナゲの葉裏に古い食痕を見つけてから、はや2ヶ月余り。6月に入ってからすでに2回ほど様子を見に行ったが、新しい食痕はあるものの、肝心の成虫の姿は見つからない。来年のこの時期は結構忙しいので、なんとしても今年中に見つけておきたいところ。
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梅雨も中盤に入って天気も思わしくないが、雨でも丹念に探せばなんとか見つかるはずだ。「今度こそは」と気合を入れて、梅雨空の下、今月3回目の摩耶山へ。
前夜は研修の反省会と称して日付が変わるまで飲んでおり、起きた時には頭痛が激しかったが、採集準備をしてバスに乗り、ケーブル駅下に到着する頃には不思議と体力が回復している。
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どんよりとした梅雨空。ケーブルカーの営業開始まで1時間あるので、途中まで歩いて登ることに。
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梅雨時だけあって、林内の湿度はいつもより高め。春先もこんな感じならば、きっと虫が溢れ返ることだろうに・・・。
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サネカズラ(ビナンカズラ)
途中、道端に見覚えのあるツル植物があるので足を止める。キベリハムシのホストだが、こんな林床の小さな株に来るとは思えない。もっと良い株を見つけておかないとなあ・・・・。
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春先にはなかったクヌギの伐採木。夜に見回れば、何かが集まっているのだろうか。
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淡々と登っていき、もうすぐロープウェーの駅に着くというところで、満開のクマノミズキを発見。トンボエダシャクが飛び回っているので、甲虫もそこそこ来ているのだろう。午前10時、この先天気が回復するとも思えないのでひとまず掬ってみる。
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アメイロカミキリ
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エグリトラカミキリ
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その他、コアオハナムグリやコメツキムシが少々。今にも雨が降り出しそうな天気では、まあまあの状況。ロープウェーが動き出したので、時間節約のため改札へ向かう。
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山頂方向を見ると、雲がかかり始めている。右手に見える白い花はツルアジサイ、下から掬える位置ではあるのだが、残念ながら花はもう終わっていた。
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山頂の広場に到着。視界は良いが、すでに小雨が降っている。
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気温は20℃ (10:40)。湿度が高いので、蒸し暑く感じる。
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雨がひどくなる前に、シャクナゲだけでも見ておきたい。足早に、第一ポイントへ向かう。
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第一ポイント到着。林内なので雨はかからない。さて、今日は見つかるだろうか・・・・。
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葉裏を中心に念入りに見ていくと、途中から不自然に折れ曲がっている葉が目につく。付け根付近の葉脈を裏側から深くかじられており、重さを支えられなくなったらしい。前回は見られなかっただけに期待は高まる。
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しかし、葉に穴が空きそうなほどじっくり眺めても、虫の姿を見つけることはできなかった。期待のポイントだっただけに、落胆すると同時に、次の記述を思い出す。
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「日中は潅木の日陰を飛翔していることが多いが、午後3時以後はツツジ類の葉上に飛来して、生葉を後食しているのが得られる」(廣田・三木・八木(2001)兵庫県のカミキリムシ より)
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日没後はシャクナゲから離れて夜を明かし、気温が上がってから飛来するのだろうか。この先、天気が回復するとは思えないが、せっかく来たのだから、第2ポイントと合わせて夕方前にもう一度見てみることにしよう。
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時間はだいぶあるため、ポイント開拓も兼ねてあちこち歩き回ってみる。
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今月に入って見つけたヤマナラシの樹液。雨にも関わらず、チョウがたくさんきていた。
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ヒカゲチョウ(下) とクロヒカゲ(上)
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ルリタテハ
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他にはヨツボシケシキスイ多数、ハエ少々。キョウトアオハナムグリでも来ないかと期待しているが、シロテンハナムグリすら見たことがない。かなり腐臭が強いので、もっと発酵臭が強い美味しそうな樹液の方が良いのだろうか・・・。そう思いながら、先に進む。
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しばらく歩くと、目星をつけていたクリの花を発見。先週ちょっと見た際には咲きかけで、今日は満開。小雨降る中、そのまま雨宿りしている虫を狙って網を振りまわす。
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ウラキンシジミ
やや傷ついているが、奥多摩以来2匹目となるので確保しておく。
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キンイロジョウカイ
最初の頃は驚いたが、だいぶ見慣れてきた。
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ニンフホソハナカミキリ♀
もっとも普通に見られるハナカミキリのひとつだが、ここでは初めて。
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粘っても虫の飛来は期待できないので先に進むが、あまり良い花はない。雨も少し強くなってきたので、この先に進むのはやめて、途中で見つけた林への小道まで戻る。
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林へ続く道
登山地図を見て、特別保護地区ではないことを確認してから歩き出す。ササが生えた広葉樹林なので、セダカがいるかもしれない。
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獣道が至るところに走っており、意外と歩きやすい。立ち枯れや倒木を見つけては近寄っていくが、すべてハズレ。摩耶山は大阪府河内とともにセダカコブヤハズカミキリの模式産地となっている。今は一見すると緑豊かな山であるが、大部分は明治後期からの植林事業によるもの。過度の伐採によりハゲ山となっていた時期もあったらしい。Batesが記載した135年前は、どんな環境が広がっていたのだろう・・・。
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藪の中を進むのは奥多摩であまり経験していないため、かなり体力を消耗してしまった。まだ12時半であるが、雨は一向に止む気配なし。気温も低いし、今日はソボリンゴが飛ばないかもしれない。でも、ダメもとで第2ポイントを見て、帰ることにしよう。
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第2ポイントに到着。第一ポイントよりもはるかに樹高が低く、どの株も1m未満。ここ数年のうちに植栽したようだが、すでに多くの株に穿孔サインがあり、数年のうちにはまた植栽しなければならない予感。
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若葉をめくると、真新しい食痕を発見。ここでも、ついに発生が始まったらしい。
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だいぶ疲れが出てきているが、腰をかがめ、じっくりと眺めていく。若葉の葉脈に沿って真っ直ぐに止まって食事中なのか、それとも古い葉に隠れて雨宿りをしているのか、いろんな状況をイメージしながら、時間をかけてあらゆる場所を見ていく。
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とりあえず、10株ほど見た。ガガンボにドキっとしたくらいで、ソボリンゴは見つからない。多少やる気が落ちてくるが、まだまだこれから・・・・。
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また、5株ほど見た。何も見つからない。傘を持っていないので、観察時間に比例して服は濡れていく。
「やはり、ダメなのか・・・・」
やる気が急激に低下。
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続いて3株ほど見たが、見つからない。集中力が持続する時間が、急激に短くなっていく。こうなるともはや、完全に惰性で見ている状態。採集欲も、邪念もすでに消えうせ、放心状態。それでもなお、5mほど先の株にうつろな目を向ける。
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「あれ、オレンジ色のものがみえるぞ・・・・」
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一秒ほどの間を置いて、それが何なのかを認識する。三度目の正直、ついにその時が訪れた。
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驚かさないように、慎重に歩み寄る。まずは1枚、写真撮影。
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続いて、接写。林縁の薄暗い環境である上に、感激のあまり手が震え、カメラの手ブレ補正機能でも補えないほど。
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動き出す気配が見えたので、撮影もそこそこにして袋に収納。雨に降られながらも、探し続けた甲斐があった。
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1♀だけだけど、これでもう満足。あとは帰るだけと思っていたが、しばらく歩くと気になるものを発見。
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植栽ツツジの葉脈に、見覚えのある食痕。すぐ近くまでシャクナゲが植栽されているので、そこから転戦してきたのだろう。
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腰をかがめて、ツツジの葉を裏から眺めてみる。
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まもなく、葉裏に潜むソボリンゴを発見。思えば、5年前に初めて採った時も、植栽ツツジだった。あの時は夜間スウィーピングだったので生態など全然わからなかったが、こうして葉裏に静止している姿を自力で見つけられると、うれしい。
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急に元気になってきたので、セダカ探しをもう少し続けてみることにする。
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この前に逃げられた場所を重点的に探すが、オオゾウムシに驚かされただけ。あの時に取り逃がしたのが、実に悔やまれる。
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このままロープウェー&ケーブルカーで下山するつもりだったが、この先がどうなっているのか知りたくなって、歩いて下山することに。ただし、地図によればこの先は特別保護地区となっているので、あくまで環境を見るためと肝に命じて、歩き出す。
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沢に沿って、緩やかな下り坂を進んでいく。湿度は高く、笹薮もあり、なかなか良い環境。
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時々、沢を渡る。こんなところなら、マヤサンコブヤハズも生き残っているかもしれない。
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しばらく進むと、砂防ダムが次々と出現。厳しい制限が加えられる特別保護地区に、堂々と作られる高度な人工施設。景観の保全と、人間の安全とのバランスは、難しい。
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ようやく特別保護地区を抜けると、そこはスギの植林。奥多摩でもそうだけれど、特別保護地区に指定できない理由が、よくわかる。
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しばらく歩くと左手に川が迫ってきて、植林が途切れる。クリの花が咲いていたので、遅い時間帯だけれど掬ってみる。
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ヒメクロトラカミキリ
やっと花掬いで出会えた。
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ハコネホソハナカミキリ
日陰の花によく集まるが、今日は曇りなので日当たり良い場所にも飛んでくるらしい。
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ジョウカイボンの一種
一瞬ホタルカミキリに見えてしまった。近似種がいくつかいるので同定には至らず。
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クスサン幼虫
その風貌から、俗に「白髪太郎」と呼ばれる。側面に生えている短めの毛が、ちょっと痛い。
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その後、林内を延々と歩いていく。
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クリの花から1時間ほど歩いて、森林植物園のバス停に到着。満員の終バスに乗って、度重なるカーブで体力をさらに消耗しつつ、街中へ。毎回思うことだが、ここも同じ神戸市内とは、とても思えない。
最初に摩耶山を訪れた時から目星をつけていたソボリンゴカミキリに、6月に入って三度目の正直で、ようやく見つけることができました。5年前の偶然の採集とは違い、生態を知った上での再会なので喜びもひとしおです。雨に降られながらの探索と、バス停までのハイキングでかなり疲れましたが、夏に向けて体力を取り戻しておくには良い一日となりました。
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春先には乾燥が厳しくて虫なんてほとんど見当たらなかった摩耶山にも、梅雨に入って湿度が高くなると、比べ物にならないほど虫の気配が感じられます。次は、もう少し天気が良い日に、クリやリョウブの花を掬ってみたいところです。
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