埋立地のチョウ探し

2008.Oct.25

クロマダラソテツシジミという名前の小さなチョウがいる。東南アジアに分布し、南西諸島で迷蝶として採集される程度で、虫屋の中でもあまりなじみがない種類であった。

ところが、昨年の九州・本州での大量発生をきっかけにして一気に名前が知られるようになり、マスコミにも取り上げられるほどである。今年も九州・本州西南部を中心に発生が相次いで確認され、「ソテツの若葉を食い荒らす害虫」という扱いで、温暖化と関連づけて大きく報道されるまでになった。

分散能力が高く、ソテツを求めてどんどん北上していくたくましさと、冬になると屋外では全滅してしまうという、はかなさも併せ持つ。夕暮れがだんだん早くなり、朝晩の冷え込みも厳しくなりつつある今日この頃、冬の寒さで消え行く前に、話題のチョウを本州でも見ておきたい。職場の昆虫調査で1匹だけだが採集されたという情報を得て、自転車に乗って、自宅近くの埋立地へ。


港町である神戸、海沿いは倉庫街となっている。薄曇りの昼下がり、自転車を軽快に走らせて埋立地を目指す。

埠頭に入ると倉庫が整然と並んでおり、トラックが頻繁に行き交う。こんな虫の気配が薄い場所でも、クロマダラソテツシジミは発生しているらしい。

埠頭の中は倉庫と道路ばかりというわけではなく、ささやかながら街路樹や緑地が点在する。ソテツがどこかにあるはずなのでくまなく探すが、一向に見つからない。

緑地の隅にセイタカアワダチソウが咲いてたので、寄ってみる。もしかしたら、吸蜜に訪れているチョウがいるかもしれない。

シジミチョウが花の周りを飛んでいたが、ことごとくヤマトシジミだった。慣れれば飛んでる姿でも識別可能だが、この夏に沖縄で見ただけなので感覚を忘れてしまっている。

海の方に向かうにつれて緑が少なくなる。フェンス沿いの植え込みや中央分離帯を探すも、ソテツも花も見当たらない。

20分くらい経った頃だろうか。倉庫の間から公園のようなものが見えたので、そちらへ移動。

グランドでは少年野球が行われており、その周りに木が植えられている。もしクロマダラソテツシジミがいるとしたら、このあたりだろう。自転車を停めて徒歩で公園を一周することにする。

すぐ隣は倉庫会社の事務所。この公園は、埠頭の中のオアシスになっているらしい。

適当に歩いていると、ビルの壁面のクモの巣にチョウの翅を発見。灰色地に黒い斑紋、後翅の目玉模様、まさに、クロマダラソテツシジミそのもの。ということは、この周辺にいることは間違いない。

「さて、どこに潜んでいるのだろうか。今日は風がちょっと吹いているから、風が弱いところを探せばいいんじゃないかな。」

ということでたどり着いたのが、この一角。駐車場になっていて、風がほとんど吹きつけない上に、吸蜜源となるセイタカアワダチソウも咲いている。シジミチョウ類が舞っているのが遠くからでも確認できたので慎重に近づく。

花から花へと飛び回るシジミチョウのうち、ウラナミシジミでもヤマトシジミでもない、ちょっと変わった個体に焦点を合わせてみる。


クロマダラソテツシジミ♀

夏に沖縄で見たのとはちょっと違って白帯が発現しているけれど、これが例の低温期型というものなのだろう。

撮影していると、近くに♂も飛来した。こちらは見慣れた模様をしている。

撮影した後、慎重に網をかぶせて採集し、さらなる生息場所を探す。

ちょっと移動したところで、風当たりが弱い陽だまりを発見。

トベラの葉の上では、♂が日光浴をしていた。縄張りを張っているつもりらしく、ヤマトシジミが近くに来ると追い払っていた。

まだ新鮮な個体で、青色に輝く翅が美しい。

その後、どこかにソテツは生えていないかと探し回るものの、ついに見つけることはできなかった。一体、どこから発生してきているのだろうか・・・・。

最後に、地面に止まる個体が見つかった。もう少し寒くなったらお別れだけど、また来年も会えるんだろうね。


1時間ほどの探索で、事前情報のとおり発生を確認することができた。こんな異国の人工的な環境でも生き延びていく姿に元気をもらった気がする。発生源となるソテツの探索は、いずれまたそのうちに。

帰り道で摩耶山を望む。夏よりも「黒っぽくなった」ように見えるのは、秋だからなのか?

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