盛夏のやんばる

2008.July.26-Aug.2


7月29日(火)

少し疲れてきたからか、起床時間が昨日より1時間ほど遅くなる。今日は少し風が弱まっているが、まだ時折強い風が吹く。

ボンネットには昨夜のオオコウモリの食事の跡が・・・。朝食を取り、3日目の道沿い見回りへ。

まずは、例のシマグワへ。

風が直接吹き付ける位置に生えており、こんな状態になることもしばしば。それでも昨日まではいたのだから、もしシマグワと関連があるなら今日もいるかも。風が弱まるのを待って、葉裏を丹念に眺めていく。

これまで得られた枝よりちょっと上の、頭よりも高い位置の葉に、虫影を発見。


オキナワジャノメカミキリ

3日連続で、同じ木で見つかった。初日に見つけた個体のそばには、キボシにしては細い食痕があったことを思い出し、これは、後食に来ている可能性があると判断。ならば、長竿で梢の若葉を掬ってみよう。

6.5m竿で、なんとか梢まで届く高さ。風の合間をぬって、手早く掬っていく。

すると、2匹目が網に入る。後食していたのかどうかは見えなかったが、この木は、オキナワジャノメの御神木としておこう。

(クワ科植物の葉を後食することを虫仲間に教えてもらうのは、この翌日のことである。)

シマグワを後にし、いつものようにヤンバルアワブキの花へ着くまでビーティングを繰り返す。

道沿いのススキ、良い感じに枯れている。


オキナワウスアヤカミキリ

定石通りの採集。やはりこうでなくては。


メスアカオオムシヒキ

林縁に止まっていたもの。前日も見つけてはいたが取り逃がしていたため、思い切り網を振って採集。

代償として、竿の先端が抜け落ちてしまう。しかし、折れてはいないのでまだまだ使える。

こういう時のために、長竿には常にガムテープを巻いてある。網が破れた時、長竿の底が抜けた際には応急処置に使える。しっかり固定して、花掬いに備える。

もう見慣れた、ヤンバルアワブキの花。相変わらず、ハチとアゲハ類が多い。

わずかな間だが、凪(なぎ)の状態になったので長竿で一通り掬ってみる。


リュウキュウツヤハナムグリ


ヨツスジトラカミキリ

やはり、甲虫の飛来状況はおもわしくない。

さすがに同じ場所を探して3日目にもなると、だんだん飽きてくる。昨日見つけた電信柱の道のように、新しい伐採枝が積まれている道を探してみたくなり、車に戻って地図を見て、小道をいくつか選んで順番に見てまわることにする。


ここからは、写真撮影する余裕がない非常事態が発生したので、文章中心になります。

車を走らせ、最初の小道へ。地図上では斜面に作られた細い道で、奥に畑があるらしい。畑の脇に伐採枝がないかと期待したが、最近は使われていないらしく、道は草が伸び放題で、路面も荒れている。引き返そうと思ったが、バックでは進路が見えず登りにくいのでそのまま進み、待避所でUターンしてから戻ろうと思った。でも、その判断は甘かった。

下るにつれて路面はさらに荒れてきて、側溝も出現する。これは、早く引き返さないと戻れなくなるとようやく気づき、待避所の痕跡らしきものを見つけてなんとかUターン。来た道を引き返すが、砂利道の急斜面でタイヤが空回りし、途中で登れなくなってしまう。30分ほど試したが、まったくダメ。

仕方ないので、もう一度待避所まで戻り、Uターンしてバックで登ることに。やはり同じ場所で登れなくなってしまうが、20分ほど粘ってどうにかクリア。あともう1ヶ所の難所を抜ければ、上に戻れる。あと一息という安堵が、命取りになった。

谷側は崖になっていて、そっちに落ちないように気を配ったために、山側にある素掘りの側溝への注意がおろそかになっていた。気づいた時にはすでに遅く、後輪が見事に側溝にはまり、動けなくなってしまった。

もはや万事休す。会員にはなってないが、JAFFを呼ぶしかない。が、不幸は重なるもので、携帯電話は電池切れ。公衆電話までは炎天下の舗装道路を延々と歩かなければならない。でも、すでに飲み水は底をついていた。

楽しい採集気分が、一気に吹き飛んでしまい、しばし呆然とする。でも、このままでは状況は変わらない。近くにミカン畑があり、朝から作業をしていたことを思い出し、そこまでなんとか歩いて助けを求めることに。

貴重品と地図と採集した虫だけを持って、炎天下の舗装道路を歩く。途中でオキナワユミアシゴミムシダマシを拾ってから、ミカン畑で草刈りをする農家のおじさんのところまでたどりつく。事情を説明すると、「あと15分で作業終わるから、それから見に行こう」

ということで、草刈りが終わるまで畑の入り口で待機。ここで、思いがけない虫が目の前に現れる。2匹のチョウが道の真ん中でもつれあい、縄張り争いを繰り広げる。いわゆる「タテハ飛び」をしていて、青とオレンジがチラチラ見える。やがて、勝った方が道沿いの見晴らしが良い枝先に止まる。


コノハチョウ

生きている姿を見るのは、これが初めて。沖縄県指定天然記念物で、採集禁止。フタオチョウ、アサヒナキマダラセセリとともに、いわゆる「観察」(隠語)をする蝶屋が後を絶たないが、自分はそんな古い考えとは一線を画しておきたいので、撮影に専念する。

(採りたければ、それなりの場所に行くなり、許可取るなり、政治的働きかけをするなり、すればいい。さもなければ、一般人の頭にある古くて短絡的な図式「採集者の乱獲→絶滅」はいつまでも残ってしまう。)

気配を感じると、翅を閉じる。でも、緑の葉の上では非常に目立ってしまう。

じっとしていると、ようやく翅を開く。ややスレてはいるが、間近で見られただけで満足。

車のことが心配ではあるが、そんなことはどうでもよくなるような出会いだった。

おじさんの草刈りが終了し、四駆軽トラで現場へ。

「この道は厳しいよ」

おじさんはそうつぶやくと、入り口付近で車を停め、そこから徒歩。状況を確認したおじさんは、自宅に戻って番号を調べてからJAFFに連絡してくださるとのこと。目印として入り口で待機せねばならず、わずかな日陰に荷物を置いて待機。でも、よく考えたらこんな山奥にすぐ到着するはずもないので、ちょっとだけ付近を探索。実は、状況説明のため坂道を降りる際に、あのカミキリの姿を周辺視野に捉えていたのだ。

道端のススキからすっと抜け出したシマグワの枝。矢印のところには、しっかりとオキナワジャノメカミキリが止まっている。この後、周辺を探して2匹ほど追加することができた。

30分ほど待つと、先ほどのおじさんが軽トラで戻ってきた。

「連絡しておいたから。1時半頃には来るはず。」

到着までの10分ほどの間、おじさんがくれた缶入り野菜ジュースを飲んでのどをうるおす。

やがて、JAFFのジープが到着。入り口に車を停めて、現場を見に行くが、

「これはちょっと無理ですね。溝から出すことはできるけど、この坂を引っ張って登るパワーはない。」

ということで、地元の土建屋を呼ぶことに。JAFFのおじさんが土建屋に電話し、現在位置は農家のおじさんが説明して、来てもらえることに。

「○○建機が来ますから。JAFFの方はキャンセルということで、料金はいりません。」

そして、さらに待つこと1時間、ショベルカーが到着。引き上げの様子を見に来た農家のおばさんも見守る中、牽引開始。20分くらいかかって、なんとか坂道の入り口まで到達。

この暑い中、本当にありがとうございました。


時間は15時半、ようやく採集再開。でも、精神的ショックが大きくて新規開拓意欲はほとんどなし。とりあえず、昨日見つけた電信柱ポイントへ向かう。

昨日しっかり叩いてしまったが、一晩でどのくらい飛来するのだろうか。

昨日と同じように叩くが、オオシマヤハズカミキリが3匹ほど。期待していいたビロウドやオビレの追加は得られなかった。

その後は、適当に車を走らせて、周囲の状況を確認。


ダムの建設現場

某山の前を走る道は、このダム建設の土砂を運搬するために作られたそうだ(でも、ルートを見る限り、既存の道で十分だった気もするのだが・・・)

その先にある、やんばるの原生林。遠目からだが、なんとなく山全体が乾燥している雰囲気が漂う。実際に森の中に分け入ってみればそうでもないかもしれないが、山の中を縦横に走る林道を見ると、こんなんで湿潤状態が保てるのかどうか怪しい・・・。

この日は意気消沈して、蛍光灯は一応セットするが何もせずに寝てしまった。

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