奥多摩:北の果て

2008.Mar.11

春分の日を来週に控え、どんどん暖かくなってきており、つい最近まで「大雪」と騒いでいたのがうそのようです。奥多摩もだいぶ雪が降ったようですが、リアルタイム情報によればだいぶ融けてきたようです。

東京にいられるのもあとわずかとなった今、奥多摩のカミキリ調査の宿題を少しでも解決しておきたいところ。いろいろ候補がある中で思いついたのは、ソボリンゴカミキリ。ずいぶん昔の記録しか見当たらないのですが、埼玉県側では2年生の時の昆研合宿で植栽されたツツジから採集しています。現地でのホストの有力候補はアズマシャクナゲなのですが、有名な生育地は遠く、夏ならともかく冬に日帰りで行くのはほぼ不可能。しかし、登山地図をぼんやり眺めていたところ、日帰りで到達できる場所に「石楠花」の地名がつく場所を発見。期限が迫ってきた学生の特権「平日採集」を行使して、今年初の奥多摩に行ってきました。ついでに、東京都最北端も行ってみます。


前夜、昆研先輩主催の飲み会に参加して、日付が変わる頃に本町水田に戻り、恒温室で仮眠。睡眠不足に弱いので普通なら起きられないところですが、採集となると話は別。4時過ぎに起きて、始発電車で奥多摩へ行きます。

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最近、新型車両が導入されて、眠りにくくなりました。

始発から2本目のバスで、いつもの場所へ。休日だと中高年の登山者が多いのですが、今日は平日なので、乗客は2名のみ。

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お馴染みの谷の様子。冷たい風が吹き上がってきます。

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気温は、ほぼ0℃(7:40)。この時期としては暖かい方です。

初冬までなら灯火に居残る鱗翅目を撮影しながらゆっくり進むのですが、今日はその姿はまったく見られないので、ひたすら目的地を目指して林道を進みます。

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林道の最初の部分はほとんど日陰なので、所々に雪がまだ残っています。

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路肩を見ると、岩から染み出た水が凍っています。

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でも、水たまりにはすでにヤマアカガエルの卵がありました。毎年、特定の水たまりにみられます。

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しばらく進むと、一気に明るくなります。この場所は、初めてコツバメを採った思い出の場所。林縁にはアジサイの仲間が群生し、梅雨の時期にはピドニアがたくさんいます。

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だんだん標高が高くなってくると、見晴らしが良くなってきます。まだ半分も来ていないのに汗をかいてしまうほど、今日は暖かいです。

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そんな陽気につられて、テングチョウが登場

陽だまりの落ち葉に紛れて日光浴をしています。

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ヒオドシチョウ

左の前翅が多少擦れていますが、わりときれいな個体です。

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林道上にはサルの糞が目につきます。甲虫屋ならば、木の棒を探して起こしてみたくなります。

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ミゾムネマグソコガネ

起こしてみると、やはりいました。過去にクマ糞で採ったことがあるクロオビマグソコガネを期待して糞を見つけるたびに起こしていったのですが、これしかみつかりませんでした。

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糞起こしに飽きてきた頃、ようやく登山道入口に到着。ここからしばらく急な登りになるので覚悟して歩き始めます。

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最初は、ヒノキの植林

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次に、カラマツの植林

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そして、ミズナラ林

スズタケは密度も濃く、緑の葉をつけている株もそこそこあります。ただ、南斜面で乾燥が厳しいのでコブヤハズは難しそうです。いつもの場所も、ほんの20年ほど前はこんな感じだったのだろうと、取り戻せない過去に思いを馳せながら歩きます。

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そして、雪が残るエリアに突入しました。5年目に突入した登山靴は底がだいぶ磨り減っていて、思うように雪をつかむことができません。転倒することはないのですが、滑るたびに足腰に余計な負担がかかり、大した距離を進まないうちに体力を奪われていきます。

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しばらく歩くと、都県境の尾根に到着。雪は意外に深く、最大で膝下まであります。

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尾根から見る秩父盆地

遠くまでよく見渡せます。

ここからしばらくすると「石楠花尾根」という尾根を通るので、そろそろアズマシャクナゲが生えているかもしれないと周囲に気を配りつつ進みます。

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一応、シカとヒトの踏み跡をたどって歩くものの、滑ったり足をとられたりしてゆっくりとしか進めません。緑色の広葉樹に気をつけながら歩くのですが、目につくのはアセビとカシ類のみ。

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そうこうしているうちに、遠くの尾根に青い物体が見えてきました。昨年の台風で土台部分が崩落した山小屋で、さらなる崩壊を防ぐためブルーシートがかけられています。そのためいつもの場所からもよく見えるようになりました。アズマシャクナゲは一向に見つからないのですが、とりあえず行くだけ行ってみることにします。

直線距離では近くても、尾根が弧を描いているのでかなり時間がかかります。青いシートが視界から消えてしばらく歩くと、ようやく峠にたどり着きました。

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このあたりが、東京都の北の果て。尾根を越えると、そこは埼玉県です。

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峠をちょっと下ると、山小屋に到着。立ち入り禁止のロープが貼ってあるのでその手前で昼食にします。

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小屋の前からの眺め

山の上はほとんど真っ白です。いつもの場所も、しっかり雪が残ってます。

しばらく休憩していると、谷筋から登山者がきました。東京都のレンジャー3名で、崩壊している沢沿いの登山道を点検しに来たそうです。

「完全に凍結してるからアイゼンないならやめておいた方がいい」

というアドバイスに従い、元の道を引き返すことにしました。時間はすでに13時。山小屋の中で昼食を取る3名に別れを告げて、急いで引き返します。

でも、せっかくここまで来たのだから、何か虫を採って帰ろうと思い、ここぞという場所では止まって探索します。

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ツガの立ち枯れ

樹皮がほとんど剥れていてカミキリは期待できそうにありませんが、残った樹皮を一応剥がしてみます。

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ヒメユミアシゴミムシダマシ

平地にいるユミアシゴミムシダマシの半分弱のサイズです。標高さえ稼げばわりと見られるんですね

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次は、ブナの倒木。乾燥が激しいのでルリクワガタ類はいないと思いますが、ここぞという部分をナタで削ってみます。

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アカコメツキの一種

一体、何を食べて成長したのかが気になります。

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そして、ツガの生木からぶらさがった枝。緑色の葉がついてて、雪の重みで折れたようです。この状況では瞬時に「オオトラカミキリ」となるわけですが、残念ながら近づいて観察したところ食痕らしきものはありませんでした。

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かわりに、地面にサルノコシカケが落ちているのを発見。持ち上げようとしますが凍りついててなかなか離れず、やがて一部がちぎれてしまいました。

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手に残った方の断面を見てみると、甲虫の姿が・・。

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クワガタゴミムシダマシ♂

なかなか面白い格好をしています。

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さらに、モミ生木。下枝は多くが枯れていますが、カミキリが狙える枝はそのうちごくわずか。

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数ある枝の中で手を出したのはこの一本のみ。手でも折れるくらいのよい朽ち具合です。

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脱出孔なし、食痕もバッチリ。初夏が楽しみです。

なんとか積雪エリアを抜けると、あとはいつも通りのスピードで下るだけ。登りの半分ほどの時間で登山口に到着。再び、林道を歩きます。

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日が山の陰に隠れてしまうと急に寒くなります。

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キブシの蕾

平地ではそろそろ咲いてると思いますが、ここではまだまだです。

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道端には、小規模ながらサワグルミの伐採木。どんな虫が夏に飛んでくるのか、見届けられないのが残念です。

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舗装道路に戻ってきました。ちょうどこの時点でバスが出発してしまったので、1本後のバスで帰ることに決めて、寝袋で野宿しながら灯火採集をした場所、秘密の伐採木置き場、トラップ設置場所など、思い出の場所を頭に焼き付けながら歩きます。

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気温は、10℃(17時)。平地では20℃近くまで上がったようですが、奥多摩でその気温になるのはずっとずっと先のこと。その頃には、いろんな虫が、人知れず動いていることでしょう。でも、それを追いかけることは、もうしばらくできない・・・。


結局、目的のアズマシャクナゲはアテが外れてしまい、宿題を減らすことはできませんでした。毎回狙った虫を確実に採るのはなかなかできないところが趣味の調査の面白いところでもあります。今回は、東京都最北端からの眺めが一番の収穫となりました。次回で、奥多摩調査はしばらく中断する予定です。何を狙いに行こうかな・・・。

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ちなみに、シャクナゲは集落内にも存在することを知りました。

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