奥多摩:ウワミズザクラの大木

2008.May.17

大型連休が終わったと思ったら、今度は研修で関東にとんぼ返り。研修は3週間にわたり、その間に2回ある土日はいずれも休み。昨年まではこの時期が研究繁忙期で、約3年間のブランクとなっていた。今回、奥多摩カミキリムシ探索の空白期間を埋めるには絶好のチャンス。

まず最初の週末は、前回に引き続きヒゲナガコバネカミキリ類を狙うことにする。しかし、前回訪れた場所ではカエデもウワミズザクラも終わっていることは明らか。つまり、花を追って標高を稼ぐ必要がある。候補としては、

1. 5年前に林道の奥で掬ったウワミズザクラの大木

2. 尾根沿いのギャップに生えているカエデの若い木

今回は登山靴を持ってきていないので、必然的にウワミズザクラに決定。同期の(仮)ハナバチ屋さんも「暇なので行く」ことになり、4月に就職してから、はや3回目の奥多摩へ。前日の天気予報では「曇りのち雨」、午前中が勝負。


皆が寝静まっている朝4時、同期とともに研修所を抜け出し、4時半の始発電車に乗って奥多摩を目指す。乗り換え回数は、3回。

7時過ぎ、奥多摩駅に到着。バスの時間まで1時間あるので、いつもの灯火ポイントで蛾像収集。同期は鱗翅目全般が苦手で、トンネルの外で虫を探している。


アシブトチズモンアオシャク

今日一番のお気に入り。標本にすると色あせるだろうけど、記念に採集。

駅に戻ってみると、ものすごい行列。定刻の30分前に臨時バスが出たものの、それでも乗り切れず、定刻発満員のバスでいつもの場所を目指す。

ようやくバスから解放されて、林道を目指して歩いていく。天気は曇りに近い晴れ、天気予報とだいぶ違う。

谷筋は前回よりもさらに緑が濃くなっている。

2本あるトチノキは毎年1週間違いで開花していて、今日は早いほうの木が満開になっていた。

気温は18℃ (9:30)、まずまずの暖かさです。

同期は後輩のために「虫エイ採集」をするので舗装道路沿いをウロウロするとのこと。帰りのバスの時間を決めてバス停で再び会うことにして、私は林道の奥に咲くウワミズザクラを目指してひたすら歩いていきます。

林道沿いの斜面では、あちこちでウツギが満開。

サカハチチョウが吸蜜に訪れている姿もチラホラ。

ウワミズザクラまでは網を使わないと決めていても、ついつい手が出てしまいます。長竿を伸ばして、ピドニア狙いでちょっと日陰の花を掬ってみます。


トガリバアカネトラカミキリ

この1匹のみ。


フタオビヒメハナカミキリ

ピドニアはこれが数匹のみと、さびしい限り。


セダカコガシラアブ

かわりに、ガガンボやムシヒキアブをはじめDipteraは豊富に網に入る。このセダカコガシラアブは図鑑で見ただけで、一度実物を見たいと思っていたもの。花のまわりをプーンと飛んでいる姿が目につく。

動きが変なマルハナバチを捕らえてみると、やはりハナアブだった。5年前はまったく気づかなかったのだが、個体数は意外と多い。しかし気配に非常に敏感で、目が合っただけで逃げてしまうことも。ちなみに、種名は不明・・・。

こんなところで道草を食っていては、ウワミズザクラにたどり着く前に日が暮れてしまう。ハナアブ狙いをやめて林道を歩くことに専念しようとするが、行く手を阻むもうひとつ大きな誘惑が・・・・。

ところどころに放置されている伐採木の山。「材ルッキングは午後から」が定番なのだが、ついつい見てしまう。


アオバナガクチキ

普通種らしいが不思議と縁がなかった種類。でも、これだけしか採れない。

そうこうしているうちに、天気予報通りに雲が広がってくる。時間をみると、なんともうすぐ11時、花掬いの黄金時間に突入してしまうではないか。急いでウワミズザクラを目指して歩くものの、一向に見えてこない。昨年秋には確かにあったのだが、まさか、リョウブのご神木のように、切られてしまったのか・・・。

刻一刻と時間がなくなる中、植林の縁に一本のウワミズザクラが見えてくる。

ちょうど満開だが、高すぎて掬えるのは全体の10分の1弱。目的のウワミズザクラではないのだが、一応掬ってみることにしよう。

竿が届く範囲をすべて掬った後、網の中をみると無数のトゲヒゲトラカミキリ。さすが針葉樹食い、植林の脇だとこうもたくさん集まるものか。カミキリは、この1種類のみ。

時間を置いてもう一回掬ってみるものの、虫の集まりは非常に悪い。このままここで粘っても仕方がないので、本物のウワミズザクラ大木を探して歩き出す。

そこから3分ほど歩いた頃、ようやく、あの木が見えてきた。

5年前と同じように、枝の隅々まで花をつけて、隣の木と一緒に、急斜面に根を下ろしている。

花はちょうど満開、純白の花が緑の葉に映える。

日は完全に隠れてしまったが、とにかく掬ってみることにしよう。荷物を置いて、長竿を伸ばしていく。

網の中には、ハチと甲虫とハナアブがたくさん。

先ほどまでとは違う模様のハナアブ。5年前にはちっとも気がつかなかった・・・。肝心のヒゲナガコバネカミキリ類は入らないものの、このハナアブで十分に満足できる。

いつ雨が降り出してもおかしくないが、ここは粘るしかない。雲間から太陽がのぞくことを祈りながら、力の限り長竿を振りまくる。


タカオメダカカミキリ

何度か掬った際に、ひときわ小さいカミキリムシが入る。先輩はカエデの花で採っていたが、野外で活動中の個体を見るのは初めて。

何度も掬っているうちに、ほんの5分ほどだが雲の間から光が差し込んできた。これがラストチャンス。虫が飛来する時間を十分に取って、ひと掬いに賭ける。


ムラサキツヤハナムグリ


トゲヒラタハナムグリ


黄金のハナアブ

網の中をのぞく前には、

「このひと掬いで終わりにしよう、これだけ採れればもう十分だ」

でも、いざ網の中を見てしまうと、

「あと一回掬えば、もっと何か採れるはず」

こんな調子なので、好天の日には撤退時期の見極めが結構難しい。

しかし、今日は意外とあっさり諦めがついた。

長竿の先端部分が、にぶい音とともに折れてしまった。残念ながら、もう花を掬うことはできない。

ふと空を見ると、すぐ近くまで雨が迫っている。時間は、12:40、急いで下山。

林道を半分ほど下ったところで、ついに雨が降り出す。

やがて土砂降りになり、稲光とともに雷鳴が谷に響く。

30分ほどすると雨がピタッと止み、日差しが戻る。

林道には無数の水溜りが出現。

伐採木の山もびしょ濡れ。これではカミキリは期待できないので先を急ぐ。

途中、道端にシナノキが生えているのに気づく。天気が良ければ、シナカミキリなどトホシカミキリ系が後食に来るのだろう。

14:10、温度計のところまで戻ってくる。気温は16℃、雨が降ったため朝よりも下がっていた。

その後、バス停で同期と合流。

同期 「この時期にウツギに来るハナバチが、なぜかいない」

大型連休の時は季節が早いと感じたのに、ここに来て少し遅れてきているようだ。

14:50、奥多摩駅行きのバスが出発。振り返ると、この村のシンボルである岩も、白い雲に包まれていた。


目的のウワミズザクラ大木は狙い通りの状態だった。天気さえ良ければ、きっとヒゲナガコバネカミキリ類も飛来したことだろう。奥多摩は(掬いやすい)花が少ないといわれるが、知る人ぞ知る場所に良い花はある。あとは、開花時期をしっかり読むことと、天気に恵まれること。何年先になるかはわからないが、次回あの木を訪れる際には穏やかに晴れた日に掬ってみたいものである。

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