2008.May.24
初めて奥多摩の原生林に足を踏み入れたのが、2005年7月31日。それ以降、両手ではとても数え切れないほど通うことで飛躍的に奥多摩自己採集種数を増やしていった。
しかし、研究の都合上、訪れることができなかった季節がある。
5月の新緑の季節
長い冬を耐え抜いた昆虫たちが一気に動き始めるこの楽しい季節は、2006年、2007年とも、水田の水生昆虫の訴えを聞き続けているうちにあっという間に過ぎ去ってしまった。どんな虫がどこに集まるかは十分にイメージできているのに、挑戦する機会が与えられないとは、非常に悔しいものである。
4月に神戸に転居して、しばらくチャンスはめぐって来ないと思っていたが、横浜での研修という形で、意外と早くその機会は訪れた。
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唯一の不安材料は天気だが、「終日雨」→「朝から雨」→「曇り、昼前から雨」→「曇り、昼過ぎから雨」と、日が迫るにつれ良い方向へ。この流れなら、きっと「晴れに近い曇り、夕方から雨」となるに違いない。
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さあ、ミズナラの巨木が待つ、思い出の原生林へ、いま一度。
先週と同じく始発電車に乗り、奥多摩駅には7時すぎに到着。
予想以上に良い天気
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バスの発車まで、いつものように蛾像収集へ。
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アトグロアミメエダシャク
昨年6月、夜中にバス停目指して歩いていた時にも見た種類。これ以外は現在同定中・・・・・。
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ヒダリマキマイマイ
入り口付近の壁面に付着していた個体。同じ左利きとして、なぜか親近感を覚えます。
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蛾像収集を終えて駅に戻る際、花壇のキクがしおれているのに気づく。先週は異常なかったので、ようやく発生が始まったらしい。
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キクスイカミキリ
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8時半、バスに乗っていつもの集落へ。天気予報が直前まで悪かったので、登山客はだいぶ少ない。
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バスを降り、集落を抜けて登山口へ。こちらでも天気は晴れ。
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いつもの谷の様子
トチノキは右手前の木だけでなく左奥の木も開花。
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気温は22℃ (9:10)。今日は暑くなりそう。虫もたくさん動いていることだろう。
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約半年ぶりに、登山口の前に立つ。心肺能力への不安から、目の前の斜面が一層急峻に見える。しかし、ここを乗り切らなければ新緑の原生林にはたどり着かない。覚悟を決めて、一歩を踏み出す。
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実際に登り始めてみると、汗は噴出するものの呼吸はあまり苦しくならない。
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急斜面を一気に登りきり、休憩なしでそのまま緩斜面をどんどん登っていく。やはり、奥多摩に来ると、不思議と力が湧いてくる。
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途中、2ヶ所ほど倒木があるのを覚えていたので、セダカコブヤハズカミキリでもいないかと探索してみる。
昨年秋の台風で倒れたミズキ
同じく、ヤマザクラ
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しかし、セダカは影も形もなし。まだ動いていないのか?それとも、この近くにはいないのか?
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シナノキが掬える場所まで来て、一休み。若干雲が広がってきているが、当分天気は持ちそう。
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シナノキは蕾があり、今年はちゃんと花が咲くようだ。Saperdini(トホシカミキリ族)が後食に来ていないかと、長竿を伸ばして葉を手当たり次第に掬ってみる。
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タケウチトゲアワフキ
しかし、入ったのはこれのみ。
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あまり休んでいてももったいないので、さっそく原生林の中へ。
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後から考えると信じられないくらいの速度で歩き、あっという間に第一ポイントに到着。以前、小熊を目撃したことがあるギャップ。
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お目当ては、この立ち枯れ。昨年の夏はコモンホソナガクチキがペタペタ貼り付いていた。
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クロナガクチキ
今日はこの種が数匹。交尾中でじっとしているものと、単独でウロウロしているものと。
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ベニコメツキ
倒木に赤い虫がついてたので一瞬ドキッとしたが、コメツキだった。標高高いし、ヒラヤマコブハナはもしかしたらこの時期に出るのかな・・・。
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ひととおり立ち枯れと倒木をチェックした後、次のポイントへ。
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またしても、信じられない短時間のうちに第2ポイント周辺へ到着。広場の中央にミズナラの巨木が鎮座するのだが、半年前とは違う異様な光景に愕然としてしまった。
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ミズナラの周りに木を集めて、円形の囲いができていた。
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ひとたび有名になると、こんなことを考える人たちが出てくる。山奥で人知れず生き延びてきたミズナラ、誰のものでもないはずだが・・・。
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これって、生木を切ったの?
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タンナサワフタギまで無残に切り倒されている。このエリアではもう若木が育っていないのに・・・。(これらは自然公園法に抵触する行為ではないかと思うのですが・・・[第13条第3項の2])
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こんな山奥に来てまで、俗世の嫌な面を見てしまった。気を取り直して、本日最大の採集ポイントへ行くとしよう。昨年から目をつけていた、ハリギリの立ち枯れを目指し、心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、緩やかな斜面をゆっくり登っていく。
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斜面を登り切る直前、赤い虫が周辺視野に捉えられる。どうせ、またベニコメツキかな。顔をそちらに向けて、焦点を合わせる・・・・。
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あっ、こ、これは・・・・。
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ヒラヤマコブハナカミキリ
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探している時には見つからないのに、出会える時には、こうもあっさりと遭遇できるものなのか・・・。奥多摩自己初、生涯3匹目。
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思わぬ出会いで少々時間が過ぎてしまったが、いよいよ本日最大のポイントへ。
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ハリギリ大木の立ち枯れ。以前ジュウニキボシカミキリが出てきた落枝はこの木の根元で拾ったもの。2005年7月31日に初めて見たが、その時すでに枯れててセンノキカミキリが徘徊していた。2006年からは樹皮がほとんど剥がれた状態で立ち続けている。
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もう気づいている方も多いことだろう。ここでの狙いは、カエデノヘリグロハナカミキリ。前回(2007.12.2)訪れた際に樹種不明倒木から死骸を割り出しており、生息は確実。今日はぜひとも、生きた姿を見てみたい。
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荷物を置いて、立ち枯れに近づき、周りをゆっくり静かに歩き、上から下までくまなく眺めて、オレンジ色の虫を探す。
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半周ほどしたところで、足元で何かが動いているのを発見。
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カエデノヘリグロハナカミキリ
一気に飛び立とうとしたので採るのを優先、手づかみ撮影。
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カエデノヘリグロハナカミキリ
そして、一回りする直前、低い位置に静止するペアを発見。逃げる気配はないので、今度は撮影に専念。
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まだ早い時間だったこともあり、3匹のみ。夕方には乱舞するのだろうが、残念ながらそこまでは見届けられない。
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追加個体が飛来するかもしれないので、このあたりで採集を続けて、時々は立ち枯れに戻ってきてチェックすることにする。
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広葉樹の立ち枯れは、探せばいくらでも見つかる。
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キオビホソナガクチキ
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オオマダラコクヌスト
立ち枯れに静止していたものの、気配を察知し落下。
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クチキクシヒゲムシ
頭にゴミが落ちてきたと思ったら、甲虫だったのでびっくり。図鑑で見る以上に、渋くて良い虫。
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立ち枯れだけでなく、倒木や落枝も叩いてみると、
微小なカミキリムシが落下
ヒシカミキリ
実は、奥多摩自己初。こんな時期から出てくるらしい。
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テツイロハナカミキリ
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さらに探索範囲を広げてみると、斜面に今まで気づかなかった獣道を発見。踏み跡はしっかりしているので、叩き網の枠を叩いて音を出しながら進んでいく。
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獣道は、平坦な場所に続いていた。
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ハリギリがまとまって生えており、大木も多い。「ハリギリ平」と勝手に名づけておこう。
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昨年の台風の影響と思われる新しいハリギリ倒木。セダカでもいないかと見て回るが、何もいない。
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かわりに、倒木上をプーンと飛んでいたオレンジ色の虫を叩き落とすとカエデノヘリグロハナカミキリだった。
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さらに、タンナサワフタギも1株生えているのを発見。目の高さくらいに、細枝が折れて垂れ下がっている。この状況、捜し求めているアレがいるかも・・・。
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チビコブカミキリ
(別名シロチビコブカミキリ)
ひと叩きすると、微小カミキリが1匹だけ落下。わざわざ狙う人も少ないけれど、狙わないと採れない。自己初採集、当然ながら奥多摩自己初。実は、TKM未認定種 でもある(2008.6.5現在)
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さらに探索すると、林内に咲くウワミズザクラを発見。日当たりが悪いので、おそらくPidonia (ヒメハナカミキリ類) が来ていることだろう。
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掬ってみると、やはり無数のPidoniaが入る。
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フタオビヒメハナカミキリ
最優占種は、この種。あとはヨコモンヒメハナ系と、ナガバヒメハナのみ。
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だいぶ時間もなくなってきたので、あとは適当にビーティング
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セイボウの一種
モミの生枝から落ちてきて、飛び去るのではなくダンゴムシのように丸まった。初めて見る行動だったので少々驚く。
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このままずっと日没まで採集をしていたいのだが、そうもいかない。天気もだんだん悪くなってきているようなので、そろそろ下山せねば。
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ギンリョウソウの花に見送られて、下山開始。
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帰り道は、これまた急斜面。
ヤマシャクヤクが生えていないかと、視力の限界まで探索するものの、それらしき植物は見えず。というより、下草がほとんどない。やはり、もっと山奥に分け入らないとダメなのか、それとも植林を歩いてみるべきか・・・。・
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下山して、温度計の前で一休み。気温は20℃、朝より下がっている。
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空を見ると、今にも小雨が降ってきそうな様子。ちょうど良いタイミングで帰ってきたようでした。
以前から狙っていたカエデノヘリグロハナカミキリに出会え、ヒラヤマコブハナをはじめ奥多摩自己初採集のカミキリも3種。イメージ通りの結果と、偶然の結果と。今日はとても楽しいひとときだった。
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通い慣れた場所であっても、時期が異なれば、また新たな虫に出会える。エゾトラ、ヤマトシロオビトラ、クビアカハナなどを狙ってあと何回か通いたいところだが、残念ながら今はとてもできない。数年後(十数年あるいは数十年先?)の楽しみに取っておこう。