奥多摩:雨中の林道

2008.May.31

横浜での3週間にわたる研修も金曜でようやく終了。日曜には神戸に戻り、月曜からは職場復帰、通常業務。住み慣れた関東への滞在も残りあとわずか。

2週連続で奥多摩に行ったけれど、最後にもう一度だけ。前夜の天気予報では「ほぼ一日中、雨」。狙えば採れそうな虫も、特に思いつかない。でも、そんなの関係ない。山が、呼んでいる。ただそれだけ。


始発から2本目の電車に乗り込み、奥多摩駅には8時前に到着。

すでに、雨が降っていた。傘をさして、いつもの灯火ポイントへ。

トンネル内にも水が進入してきている。しかし、壁面には鱗翅目が意外と多くとまっていた。


ホソバナミシャク

今日のお気に入りは、これ。

駅に戻って、乗客数名のさびしいバスに乗り、いつもの場所へ。

集落に着いたら、雨が少し強くなっていた。この集落のシンボルも、雲に覆われている。

傘を差したままでは採集に支障が出るので、昨年の野外調査と同じく完全装備で臨む。


谷の様子

右手前のトチノキはすでに散っており、左奥も盛りを過ぎていた。3週連続で訪れると、足早に季節が推移していくのがよくわかって面白い。

気温は10℃ (9:20)。先週はこの2倍あったのに・・・。

さて、雨も降ってることだし、土砂崩れを考えると山登りは危険。ここはじっくり林道を歩くことにしよう。セダカコブヤハズカミキリは低地の方が多いみたいだし。

普段は鉱山関係の大型トラックが頻繁に通るのだが、今日はお休みらしい。登山者もまったく通らない静かな林道。特に目的地もないので、景色を楽しみつつ、ゆっくり歩いていく。

途中、伐採木置き場をチェックしていくが、何もいない。この気温と雨では仕方ないか・・・。

見晴らしの良い場所に生えるシナノキ。先々週、目星をつけておいた場所。

葉裏を覗き込むと、なにやら直線状にかじった跡がある。カミキリムシのものだろう。シナ、ハンノアオ、シラホシキクスイ、チチブニセリンゴなどの姿が思い浮かぶが、どんなに探しても、その細長いシルエットは見つからない。

長竿を伸ばして、届く範囲を掬ってみる。


タケウチトゲアワフキ

シナノキを掬っててこれが入らなかったことはないほどの常連さん。

結局、カミキリムシはおらず、網が濡れて重くなっただけ。

ふと道端のエノキに目をやると、オオムラサキ幼虫の姿が浮かび上がった。例年だとあと1ヶ月半もすれば成虫が飛び交うことだろう。

しばらく林道を進むと、巨大な水溜りが出現。ちょっと渡れそうにもない。仕方ないので、少し戻って別の道を進むことにする。

別の道に通じる橋の上からの眺め。林道の奥の方は雲に覆われていて何も見えない。

対岸に渡り、薄暗い林道を歩いていく。ここはクロサワヘリグロハナカミキリで有名らしい。たしかに林道沿いにはウツギの花がたくさん咲いているが、掬っても掬ってもカミキリの姿はなし。ピドニアすら、まったく入らない。6年前はウツギの花でもピドニアがわんさか入ったのに、何で今日はダメなんだろうか・・・。

その理由は、だいぶ後になって判明する。林縁にはウツギの花が咲いているのだが、それよりも奥、薄暗い場所にはガクウツギが咲き、芳香を放っている。

ガクウツギを掬うと、ちゃんとピドニアが入る。きっと、ガクウツギに吸い寄せられているのだろう。思えば、6年前はガクウツギが咲いてなかったような気がする。

花を掬うだけではなく、倒木もこまめにチェック。セダカコブヤハズカミキリが、もしかしたら止まっているかもしれない。


ツマキオオヒラタアブ♂

しかし、採れたのはハナアブのみ。倒木を覗いている時にどこからともなく飛来し、目の前に落下した。

全長50mの超軽量竿があれば掬えそうなミズキはある。きっとあそこにもピドニアが群がっていることだろう。

途中、ニホンザルの群れに遭遇したり、シカが崖上を歩き回るのを感じたり、かなりクマ臭い場所を通過したり。同じような景色の繰り返しで、めぼしいポイントも見つからないまま、時間だけが過ぎていく。

もう、これ以上歩いても仕方がないと思い、昼前には帰途につくことにする。

帰り道でも花を掬ってみるものの、もう虫がほとんど入らない。寒さのせいで、ピドニアすらも活動しなくなったのだろう。

午後一番のバスに乗り、奥多摩を去る。次に訪れるのは夏休みか、冬休みか。


何回も通っていれば、今日みたいな日もある。先週とはまるで違う、雨の中の採集。ほとんど何も採れずに、人気の無い林道をさまようだけ。先週で、運をほとんど使い果たしてしまったのかもしれない。

院生時代はnegative研究生活の代償なのか、ものすごい勢いで運が溜まり、奥多摩では完全に晴れ男だったけれど、衣食住が足りた社会人では、そう簡単に運はたまらないのかもしれない。

まあ、でも、少しずつでもそのうち運もたまるだろう。そうしたら、また、ふらっと訪れてみることにしよう。山奥で人知れず生き続けている、たくさんのカミキリムシを探しに。

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