2008.Dec.20
2008年もあっという間に過ぎ、残すところあと11日。どうにか社会人となったものの、奥多摩からは遠く離れてしまった。長かったnegative研究室生活からようやく解放されて、新人として勉強の日々に没頭していたのも束の間、半年経って仕事にもだいぶ慣れてきた秋頃になると、それまで考える余裕がなかった「独り者の寂しさ」というツケが・・・。
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東京を離れる際に別れを告げたのに、結局7回もこの地を訪れた。4月に1回、5月に4回、7月に1回、11月に1回。研究上の制約があった院生時代に残ってしまった、時間的・空間的な、探索の空白を埋めるために。
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今回は、今まで調査不足だった沢沿いでの材採集。学生時代にもっとも多く通った林道の奥の谷筋で、ちょうど1年前に目星をつけておいたサワグルミの材採集と、コルリクワガタの採集能力向上が大きな目標。片道6時間、給料のン分の1を投じて、今年最後の奥多摩へ。
金曜日、仕事の後に荷物を持って、東京行きの電車に乗る。この時期の野宿はさすがにきついので、実家に泊まることにする。
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土曜の朝、いつもの電車に揺られながら奥多摩を目指す。青梅線に入る頃から、ようやく窓の外が明るくなってくる。
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約2ヶ月ぶりの奥多摩駅前。今日は良い天気になりそうだ。バスの発車まで1時間ほどあるので、周辺を探索。
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シロオビフユシャク♂
駅舎の窓に静止していた。
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路面は霜に覆われ、油断すると足元が滑る。
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ジョロウグモ
そんな中でも、ジョロウグモの大きな♀は健在。今年の異常な暖かさだと、年を越してしまうかもしれない。
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いつもの蛾像収集場所に到着。でも、この時期だとフユシャクくらいしか期待できない。
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イチモジフユナミシャク
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シロオビフユシャク
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わずかに2個体しかいなかった。この後、ニシキキンカメムシの採集記録がある場所を下見して駅に戻る。
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駅前で朝一番に開店するお店。おばあさん1名で営業している。勘定はそろばんで計算するという風情のあるお店。なお、閉店の早さも駅前で1,2を争うほどである。
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ここでいつものように昼食を買って、バスに乗り込む。
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バス停から歩いて、集落の中を通り抜ける。山の上の方ではまだ雪が残っているが、集落周辺は解けている。
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電信柱には、時々フユシャクの姿が目に付く。シロオビフユシャクとイチモジフユエダシャクの2種類。
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谷の様子
すっかり冬枯れの景色になっている。
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気温は2℃ (9:20)。この時期としては少し暖かい。
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今日は沢沿いの探索が目的なので、まずは川沿いに伸びる林道をひたすら歩いていく。葉が落ちて視界が開けているので、樹洞のある木などを記憶しながら進む。
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途中にある土場には新鮮なシデの丸太が追加されていた。来年の梅雨時が非常に楽しみである。
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半分以上過ぎた頃から、日差しが降り注ぐようになる。過去の経験では、4月にこのあたりでカバシャクが舞う。
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1時間20分で、ようやく林道終点に到着。ここからは登山道を進み、谷の奥を目指す。
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途中、第3の道が隠されている谷筋で休憩。この谷も奥までさかのぼっていけば、プテロとかアルマンなどの魅力的なゴミムシ・オサムシが採れるのだろうが、また別の機会にでも。
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入り口にあった、赤腐れ材を軽く削ってみる。
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クワガタムシの幼虫
ツヤハダクワガタとはちょっと雰囲気が違うので、別の種類なのだろう。
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デバヒラタムシ幼虫
体長1cmほどの扁平な幼虫。赤腐れ材ではおなじみの幼虫だ。
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デバヒラタムシ
やがて成虫も出現。「出歯・平虫」の名の通り、巨大な大アゴが目立つ。
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道草もそこそこに、目的地を目指して谷筋の小道を進む。このあたりはあまり訪れたことがないので、樹木を記憶するのも忘れない。
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ケヤキの樹洞
5月中旬なら、ヒラヤマコブハナカミキリが湧いていそう。
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昨年訪れた際には見られなかった、新しい木道。今までは恐る恐る通っていたのだが、これで少しはマシになる。
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しばらくして、目的地が見えてきた。
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2つの谷、2つの沢、3つの登山道、これらが合流する、谷の奥の交差点。ここにつけられた地名は、その様子を良く表している。
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昨年秋の台風で流された橋も、修復作業が終わっている。主要登山ルートとは関係ない橋は、未だにボロボロのままだったが・・・。
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時間は11時、そろそろ本格的に採集を始めるとしよう。まずは、昨年秋の台風によって作り出された、優良物件のチェックから。
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サワグルミの大木
台風で完全に折れて枯れてしまっている幹と、樹皮1枚でつながって衰弱状態にある幹と、2本ある。梅雨時にはキモン、ブロイニングなどの美麗カミキリ、8月末にはオオアオカミキリが徘徊していたことだろう。いずれも未採集なのだが、前2種は材採集でもなんとかなるだろう。♀が産卵しそうな部位を見定めて、ノコギリで切っていく。
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果たして、狙いのカミキリが出てきてくれるだろうか。
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次は、コルリクワガタの材割り採集
川の合流点に広がるわずかばかりの平坦な広場を重点的に探していく。斜面に生えている木から、枯枝が落ちてきて、それが良い具合に朽ちていく、そんな状況をイメージしながら。
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しかし、ルリクワガタの採集の中で、コルリは一番苦手。かなり探しまわったものの、産卵マークはこれ1本しか見つけられず。しかも、まだ新しいので幼虫くらいしか出てこないだろう。
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産卵マークの直下には、ルリクワガタ類の幼虫と、よくわからない蛾の蛹が潜り込んでいた。とりあえず採集して、何が羽化してくるかを見届けることにする。
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その後も一向に良い材が見つからないので、少し場所を移動してみることにした。
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昨年3月に昆研の先輩後輩とともに訪れた場所。実はここにも第3の道が隠れてて、薄いながらも踏み跡があることに気づく。あの時に目星をつけておいた立ち枯れがちょうど左手に見えたので、登ってみる。
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前回削ったナタの跡もしっかり残っている。幸い、私以外に手をつけた人間はいないようだ。
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表面には新旧入り混じった産卵マークが見られる。前回は幼虫だけだったが、今回は間違いなく成虫も入っているはず。
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ルリクワガタ
ナタを振り下ろして2発目で♂が姿を現す。
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キンキコルリクワガタと比べると、大きくてとても立派に見える。
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ルリクワガタ
続いて、黒い♀が出てくる。
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しかし、後がなかなか続かない。絶好の条件であることは、天敵であるコメツキムシもお見通し。
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この後、1ペアを追加したところで、再びコルリクワガタ探しに切り替える。
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斜面には枯枝がかなり落ちてはいるが、良い朽ち具合のものはなかなか見つからず。
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それでも、探し回ればいつかは見つかるもの。
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絶妙な朽ち具合で、産卵マークもついている。これは、絶対いるだろうと思って慎重に割る。
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しかし、期待に反して内部の腐朽度はイマイチ。コルリクワガタらしき幼虫が窮屈そうに穿孔しているだけであった。材を適当にノコギリで切断して、幼虫がいる部分をテープで覆って、持ち帰る。
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そして、採れない時の習性で、コルリには適さない朽木ばかりが目につくようになる。ついついナタで割ってみるが、柔らかすぎる朽木はことごとくモグラの坑道が走っている。そんな朽木には当然のことながら、虫もほとんど入っていないのだ。越冬する昆虫が、ある程度堅い朽木を選ぶのにはそんな理由があるらしい。
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クロナガオサムシ♂
倒木の少し堅い部分に潜り込んでいた。<丘孔点列が上翅前半で途切れているものの、全体の雰囲気はクロナガ。はやくチチブホソクロナガオサムシを採って見比べたいものだ。
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ふと時間を見ると、午後2時を回っていた。すでに日は傾き、風も出てきて気温が下がっていく。このままコルリクワガタを採らずに帰るのはなんとしても避けたいところ。やはりここは、もう一度あの沢沿いに戻ることにしよう。
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地形や樹木の配置を意識して、もう一度、採るまで帰らない覚悟で、探してみよう。
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コルリクワガタが産卵する朽木は、もともとは大木の枝が枯れて落ちてきたもの。空を見上げて、枯枝が落ちて集まりそうな場所をイメージして、そこを重点的に探す。
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そうして手に取ったのが、この朽木。地面に接していた部分には産卵マークがついてる。朽ち具合もなかなか良さそうに見える。
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さあ、この中に成虫がいるんだ。
期待を込めながら、ナタでゆっくりと削っていく。
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トウカイコルリクワガタ♀
探索開始から3時間半、ようやく、姿を拝むことができた。キンキコルリクワガタを基準にすると、その大きさには少々驚く。思ったより材の腐朽度はよくなかったが、それでも成虫になれたようだ。これが見つかれば、今日ここまで来た甲斐があった。
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まだ少し時間があるので、手当たり次第に材を手に取ってみる。
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この材、端の方を割ってみたら、食痕がびっしり走っている。数年前、初めてコルリクワガタ幼虫を採集した時の状況を思い出す。
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反対側はまだあまり朽ちていないようだ。幼虫が出てきたので、材を切り分けて持ち帰ることにする。
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どうやら、部分的にでも材の腐朽度が良ければ幼虫は見つかるようだ。そういう目で見ると、部分的に良い状態の朽木は意外と多く転がっている。今までは、全体が程よく朽ちたものだけを探してたから見つからなかったのだ。考えてみれば当たり前のことだが、そこに気づいていなかった。
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その後も枯枝を拾って、産卵マークを見つけては削っていくが、幼虫ばかりで成虫の追加は得られない。
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絶好の朽木があったとしても、
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でも、コメツキムシ幼虫にすでに食われていた・・・。
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気がつくと、すでに午後3時を過ぎていた。山はあっという間に暗くなるので、そろそろ帰らなければ。
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林道に戻り、山肌に隠れる太陽を眺めながら、早足で進む。来る時に目星をつけておいた立ち枯れを持ち帰ったりしていると、あたりは急速に闇に包まれていく。
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舗装道路に戻ってくるころには、すでに真っ暗。
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気温は、4℃ (17:00)。今夜は寒くなりそうだ。
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こうして、社会人になって8回目の奥多摩探索は終わった。持ち帰った材から、狙いの虫が出てくるのが待ち遠しい。
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また来年も、この地を訪れることだろう。学生時代の夢の続きを、追い求めて。