六甲山:ブナ林を探して

2008.July.5

神戸市の最高峰といえば、かの有名な六甲山。阪神タイガースの応援歌、ミネラルウォーターにもそのを冠し、近畿地方のみならず、全国的な知名度は抜群である(一方、摩耶山については近畿在住者であってもピンとこない人は意外と多い・・・)。

この時期、街中から見る山肌は緑に覆われているが、江戸末期から明治中期にかけて、六甲山系は過剰伐採により荒れ果て、現在ある緑はほとんどが植林事業によるものであるという。六甲山も例外ではなく、山頂付近でもハゲ山の状態だったらしい。飛翔能力を捨てて豊かな自然林を追い求めたセダカコブヤハズカミキリにこのような環境で出会おうというのは非常に難しいことに思える。

しかし、いろいろ調べてみると、少しだけだが期待が大きくなる。それは、六甲山の周辺にかろうじて残っているというブナ林。生長が遅い樹木だけに、かつての伐採を免れている可能性が高く、そこならばセダカコブヤハズカミキリが比較的得やすいのではないかと考えた。

摩耶山よりも標高が高いので、クリ、リョウブ、アカメガシワのうちどれかは咲いているはず。午前中は花掬い、午後はセダカ探しのつもりで、初めての六甲山へ。


朝、いつもと同じ時間に起きて、電車とバスを乗り継いでケーブル駅へ。標高差が800mほどあるので徒歩で登っていては採集時間が確保できないし、奥多摩と違って便利な交通機関があるのだから利用しない手はない。


六甲ケーブル下

発車まで少し時間があったので周辺を探索。ネズミモチの花が咲いてたので掬ってみたが特にめぼしいものはなし。


路上に落ちていたマダラアシゾウムシ

好きなゾウムシBest 10に入る種類。

切符を買って、ケーブルカーに乗り込み、山上駅を目指す。


山上駅の構内

自動販売機など明かりがたくさんあって、鱗翅目がたくさん群がっていた。


シロヒトモンノメイガ

高尾山と同じく、良い灯火ポイントとなるだろう。

気温は21℃ (7:50)。街中と比べてとても涼しく感じるが、昆虫採集にはまあまあの気温。

ただ、問題はこの深い霧。50mくらいしか見えない。

花掬いは諦めて、セダカ探しに専念する覚悟で、山上循環バスに乗り込む。

5分ほどで、六甲有馬ロープウェーの六甲山頂駅に到着。駅舎には巨大なカブトムシが張り付く。交通機関で到達できるのはここまでで、この先は徒歩で六甲山を目指す。

ほとんど足元しか見えない状態だが、ここまで来たからには先に進むしかない。

しばらく歩くと、道端にクリの花を発見。周囲を見渡すと、あちこちにクリの木があり花が咲いている。ああ、晴れていれば花掬いが楽しめただろうに・・・。

恨めしそうにクリの花を見上げながら歩いていると、にわかに霧が晴れていく・・・。

わずか5分ほどで完全に霧が消えていき、その後には青空が広がる。なんというタイミングの良さだろうか。

時間は9時、日差しが厳しくなる前の、ちょうど良い時間かもしれない。セダカは午後に回して、ここでしばらく花掬いで粘ることにしよう。

頻繁に通る車を気にしながら、長竿を伸ばして順番に花を掬っていく。

ひととおり掬った後、網を覗き込むと無数の虫が動いている。ハエやハチの姿が目立つが、甲虫もかなり入っている。


ヒメアシナガコガネ

一番目立つ甲虫。クリの花掬いではおなじみのコガネムシ。


トゲヒゲトラカミキリ

幼虫は針葉樹食いで、近くのスギ植林から飛来したのだろう。

あとは、ハネカクシ、ケシキスイなど。カミキリムシの姿はほとんどなくがっかりだが、諦めずに定期的に掬っていく。


ハコネホソハナカミキリ

薄暗い場所を好む種類で、たしかに日陰部分を掬ったら網に入った。


アメイロカミキリ

足元から浮かび上がってきたので、花掬いで網に入らず落下したものだろう。


アカハムシダマシ

あまり採ったことないので確保。

40分ほど粘ってみるものの、採れたカミキリムシはわずか3種。青空にもいつの間にか雲が広がり、太陽も隠れてしまう。このまま、雨でも降り出しそうな予感。

花掬いはひとまず止めて、ブナ林を見に行くことにする。

ここがブナ林の入り口。草原の中に、植樹された若いブナが今にも枯れそうな状態で生えている。

道沿いのササの葉をよく見ると、キリギリスの幼虫が止まっている。もう少ししたら成虫になるくらいの大きさだ。

さらに草むらをよく見ると、オレンジ色の見慣れた虫が飛んでいたのでネットイン。ヘリグロリンゴカミキリだった。

この頃になると、再び太陽が顔を出し、青空には入道雲が湧き上がる。時間は10時、まだ林の中を徘徊するにはもったいない。もう一度、あのクリの花を掬うべく、来た道を引き返す。

改めて、長竿を伸ばし先ほど掬った花を順番にめぐっていく。


ツヤケシハナカミキリ

アカマツは豊富に生えているので、発生源には事欠かないのだろう。


キスジトラカミキリ

好きなトラカミキリBest10に入る種類。


ツマグロハナカミキリ

実はあまり縁がないハナカミキリ。


カッコウムシの一種


キンイロジョウカイ

だいぶ見慣れてきた。


エグリトラカミキリ

クロトラカミキリ? と毎回のようにドキドキしながら眺める。

1時間半ほど粘ってみるが、そのわりには虫の種類数・個体数ともあまり多くない。だんだん飽きてきたので、今日のもうひとつの目的であるブナ林のセダカコブヤハズカミキリを探しにいくことに。

先ほどの草原から林の中に入ると、谷から涼しい風が流れてくる。これは、期待が持てる。と、思ったのだが・・・・・。

少し奥に進むと、植林が出現する。ブナ林のイメージとはだいぶ違うので、とてもがっかりする。それでも、広葉樹も生えており、林床はササに覆われているので気を取り直してセダカを探す。

わずかにある落枝を見つけては、どんな急斜面であっても近寄ってみる。眼の感度を最大限に上げてじっくり眺めてみるが、虫の姿はない。

肝心のブナはというと、植林の縁でようやく発見。でも、奥多摩の太いものを見慣れているせいか、とても細く感じる。

六甲山のブナの調査資料によれば、奥に行くほどブナが多くなるそうだが、そこは特別保護地区。適当なところで入り口まで戻り、もう片方の道を歩いていく。

こちらは、アカマツを主体とした林。白い樹皮が目立つ細めの木は、すべてタンナサワフタギ。ニセシラホシカミキリの食痕はあるが、トガリバはいるのだろうか・・・。

ここも、少し歩いただけで植林になってしまう。ササもあまり生えてないし、これはダメだ・・・。

その後、植林の手前で悪あがきをしてみるが、セダカの姿は見つからず。

こんなヤマザクラの立ち枯れや、

こんな樹種不明の倒木など、おいしそうな材はいくつかあったものの、まったくダメ。

もう、セダカが採れる気がしなくなってきたので、登山に切り替え。

尾根沿いの道を、登ったり下ったりすること30分。

灼熱の山頂広場に到着。


六甲山最高峰の碑(931m)

少し下ると、市街地が広く見渡せる。


山頂付近にいたツマグロヒョウモン

最高峰の碑を見たあとは、来た道を引き返すだけ。尾根道は上り下りが面倒なので、交通量の多い車道を敢えて歩く。

30分かけて、さきほどのクリまで戻ってくる。もう日が当たらなくなっており、甲虫の姿はなかった。

六甲有馬ロープウェーの山頂駅まで戻り、バスに乗ってケーブル山上駅へ。


駅構内にあったポスター

「100年前の六甲山は草木も少なく荒れ果てていた」

荒れ果てた原因についてはうまく触れずに済ませ、植林事業が強調されていた。当時の植生図(推定)を見ると、六甲山系で現在特別保護地区に指定されているところの多くはハゲ山とされており、なぜ指定されたのか非常に疑問である(優れた自然生態系を守るため伐採・工事など一切禁止の区域であるが、それ以前に徹底的に改変されているだろうに・・・)。

「やはり、一度逃げられたセダカにはそう簡単に会えるものではないな・・・」

六甲山最高峰への到達は、それはそれで満足なのだけれど、六甲山の現状をまたひとつ目の当たりにしてしまうなど、何か物足りない感じがする一日となった。

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