讃岐國のオオトラ探し

2008.Aug.30-31

「四国にオオトラを探しに行ってみたい」

火曜日の昼休み、ふと頭に浮かんだのが、この一言。その2日前までは、自分には縁のないカミキリだと思っていた。でも、四国"初"上陸を果たして、意外と近いなと感じたことからオオトラへの思いは頭の中でまたたく間に大きくなっていった。そして、ひとまず天気予報や現地情報を探ってみようと思ったが最後、気づいた時には高速バスとレンタカーを予約していた。

カミキリ屋ならば誰もが一度は憧れる大型美麗種、オオトラカミキリ。スズメバチにそっくりの姿形をし、幼虫はモミ、ツガ、シラビソなどの生木を食べる。一般には生息密度が低く、長い間トラカミキリ屈指の珍品の座に君臨してきた。しかし、先人たちの並々ならぬ努力によって生態が少しずつ解明され、これまでの常識では考えられないような多産地も発見されるようになった。

「もはやオオトラは狙って採れる虫になったのである」 (月刊むしNo.427 オオトラカミキリ特集号より)

とはいっても、「努力」と「運」のどちらかが人並み以上であること、これだけは、今も昔も変わらないようであるが・・・。

今まで、奥多摩、高尾山、山梨と、何度か挑戦してきているが、「なんとしても見つけてやるぞ」と意気込んでいて、ことごとく敗北した。今回の採集に先立ち、ムシムシQさんから現地情報をいろいろと教わった。

「天気が心配だけど、引きも強いし、きっと採れると思うよ。」

温かい励ましのお言葉をいただき、普通ならここで火がつくはずなのだが、超有名ポイントで、なおかつ採集確率は全国一(推定)ということも影響したのだろう、今回は不思議とそういう気持ちにはならなかった。

「まあ、その場所に行って探すことだけでいいや。採れなくたっていい。もし1匹でも見つかればラッキー。」

前置きが長くなったが、とにかく出発予定の日がやってきた。カミキリ屋のはしくれとして、はるばる讃岐國まで晩夏の大物を狙いに行くとしよう。


当初の予定では、金曜日の夕方に三宮駅から高速バスで徳島駅へ向かい、そこからレンタカーで夜のうちに目的地へ行く予定であった。ところが、予期せぬ不可避のサービス残業により、バスに乗り遅れてしまう。しかも、払い戻しや便の変更は窓口では受け付けてくれないという。

バスの便はまだあるので、とにかく四国上陸だけは果たしておこうと思ったが、天気予報を見ると今晩は雨だし、冷静に考えると市街地で夜を明かすのは非常に危険。この夏、平日は外仕事、週末は採集と、休みなしの生活を送ってきたため疲労が蓄積しており、久々に自宅でしっかり寝て体力を回復させてから、翌朝の始発便で四国へ旅立つことにする。現地に降り立つ前につまづいてしまったわけだが、後々この判断が生きてくることを期待して・・・。

翌朝、始発の便で三宮駅を出発し、1週間ぶりに四国再上陸を果たす。バスを降りると、小雨が降っている。この分では、現地もきっと雨だろう。でも、意気込んでいないからか、焦りも落胆もせず現実をそのまま受け止める。レンタカーを借り、高速道路を軽快に飛ばして目的地へ(初めて見る、片側1車線で対面通行の高速道路は驚きだった)。

高速を降り、食糧を買い込んで、いよいよ目的の山を目指す。予想通り雨が降っており、山は雲に隠れてまったく見えない。

しばらく山道を登ると、雲の中に突入。道端の樹種がかろうじて判別できる程度で、とてもモミ林を探すどころではない。

地図を頼りに、どうにか今回のメインポイントに到着。カッパを着て、長竿を持ち、モミ林を歩いてみる。

いきなり、ヤニがしたたるモミの木を発見。

こちらは、脱出孔。おそらく昨年のものだろう。

モミの本数はそこそこあり、驚くべきことにそのすべてにオオトラの穿孔サインがある。山梨の某有名産地に最寄り駅から徒歩で行ったことがあるが、そことは別格の雰囲気が漂う。

このモミの梢がオオトラカミキリの主な生活空間であって、夏の蒸し暑い日にだけ♀が産卵のため幹を伝って降りてくる。でも、今日はそういう気配は微塵も感じられない。

間違って木の根元で夜露をしのいでいる個体がいないかどうか、あまり期待せずに探して回るが、そういうのはまず見つからないものだ。

林縁にはイタドリの花が咲いている。多少なりとも訪花性があるオオトラカミキリ、食事に夢中になってるうちに雨が降ってきて、そのまま雨宿りしてないだろうか。まずありえないけど、生き物だから”絶対”はない。そう思って覗いてみるが、姿はなかった。

1時間ほどの探索で見つかったのは、力尽きたキボシチビカミキリのみ。

アシナガバチが杭の上で動けなくなっていた。オオトラもきっと今は動けないでどこかに潜んでいるのだろう。

林から少し離れた場所には、満開のヌルデがあった。先ほどのイタドリと同じように、まずいないだろうと思いながら長竿で掬ってみる。


アオハナムグリ

大きな甲虫はこれだけだった。

まあ、この状況では採れなくても仕方がない。まだ明日もあることだし、もうひとつのポイントも、一応下見くらいはしておこう。

移動中、気になる場所があったので、ちょっと散策。

マツ林の中に、モミがそこそこ生えている。

穿孔サインも、そこそこある。


ホソクビキマワリ

これしか見つからなかったので、先に進む。

一応、ポイントらしき場所を走っては見たのだが、雲の中を走っている状態では、それらしきモミ林が見当たらない。

かわりに、有名なブナ林(実際はブナ並木)を見に行ってみた。奥多摩でも奥まで行かないとなかなか見られないような巨木が林立している。

しかし、倒木や立ち枯れも目立つ。一度歯車が動き出したら、消え行く運命は変えられないのだろうか。この木と運命をともにするであろう虫の生息痕跡を見つけて、しばし呆然とする。

ブナの立ち枯れを這っていたアカアシクワガタ。これだけ採集して、ブナの巨木を後にする。

この後、フラフラとドライブしながら最初のポイントまで帰ってきたが、夕方になっても雨は一向に止む気配がない。もう、いいや。思い切って寝て、明日に賭けよう。18時、車の中で眠りにつく。

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