淡路島:コブ叩きをもう一度

2009.Oct.4

神戸三ノ宮から高速バスで1時間半ほどのところにある、淡路島。この島には2種類の飛べないカミキリムシがいる。セダカコブヤハズカミキリとツチイロフトヒゲカミキリだ。昨年は2回訪れ、なんとか両方に出会うことができたのだが、セダカの方はメスしか見つけられなかった。

いくつかの情報をもとに考えると、前回はどうも時期が早すぎたらしい。来年4月の人事異動でどこに赴任するかわからないので、狙える位置にいる時にオスもなんとか見つけておきたいところ。というわけで、もう一度だけ、コブ叩き。 昨年より約1ヶ月遅いタイミングで、再び淡路島へ。


早朝、時間ギリギリでバスターミナルに向かい、淡路島行きの始発バスに乗り込む。高速道路1000円の影響か、乗客が3名しかいない。そのうち減便されるのかもと思いながら、眠りにつく。

1時間後、目を覚ますとバスはすでに島内を走行中。ここで、窓から見える景色が今までと違うことに気づく。目的地の山から遠ざかり、海岸沿いを走っているのだ。どうやら、目的地に向かう始発バスは、次の便だったようだ。

しばらくして、海岸沿いの終点に到着。まずは現在位置を確認するべく周囲を見渡してみると、特徴的な姿をした目的の山がすぐに確認できた。島内の交通網はよくわからないし、そんなに遠くないので、歩いていくことに。

あの山が、今回の目的地。大きな道に沿って歩けば、山麓の国道にぶつかるはず。

歩き続けること1時間弱、山麓に到着。のどかな風景が広がる中、昨年の記憶を頼りに登山口を目指す。

ここが登山口のひとつ。サンダルから登山靴に履き替え、セダカの生息エリアを目指す。


舗装道路

セダカの気配はみじんも感じられない。


階段

この区間がもっとも苦痛。


土の道

やはり地面があると落ちつく。

登り始めて15分、エリアに到着。昨年はここでツチイロフトヒゲを見つけているので、セダカも大いに可能性があるはず。ビーティングネットを広げ、早速コブ叩きを始める。

昨年はアオキの伐採木が道端にあったが、毎年都合良くそんなものがあるはずもない。林内を見渡し、枯葉を捜しながら進んでいく。アオキの枯葉はそこそこあるが、どれも状態がおもわしくない。

ここぞという物件を見つけられないまま登っていくと、同じようにビーティングネットを持つ人を発見。どうやら、今日はライバルが2名もいるようだ。状況を聞いてみると、ツチイロフトヒゲとともにセダカを1匹採集しているという。

すでにこのあたりはずいぶんと叩いた後のようなので、昨年セダカがいた伐採枝置き場へと急ぐ。

今年もいくらかの伐採枝が追加されていた。だが、乾燥が激しく状態はイマイチ。それでも可能性を信じて叩いていくが、虫そのものがほとんど落ちてこない。


ツヤヒサゴゴミムシダマシ


ツチイロフトヒゲカミキリ♂

甲虫はこの2匹だけ。やがて、先ほどの2名もやってきたので、移動することに。

山頂を過ぎると、さらに1名のライバルに遭遇。他に2名来ていることを告げると、そっちの方へ歩いていってしまった。おそらく、あちらの方が可能性が高いのだろう。

この山、山頂まで車で到達できるので、出遅れると厳しい。でも、状況を分析するとセダカに遭遇するのは十分可能とみた。4名の虫屋の中でダントツの最年少ということを生かし、普通の虫屋が行かないところ、避けるところを、敢えて狙うこと。

目をつけたのは、工事中の道路脇の斜面。

崩れやすい斜面には、伐採枝が点在。足場をイメージして、躊躇することなく飛び降りる。

枯葉ならなんでも良いというわけではなく、ヒサカキとヤブツバキが好みらしい。居心地の良さそうな物件を求めて斜面を平行移動し、ようやく、ここぞという場所を発見。画像ではわかりにくいが、下の方の湿度が保たれる部位にセダカの好物のヤブツバキが混ざっている。

ヤブツバキ枯枝の半分くらいをカバーする位置に網を置き、叩く。薄暗い中で枯葉をかきわけて探すが、カタツムリやダンゴムシしかいない。とても居心地が良さそうに見えたのだが・・・。

その時、左の方から視線を感じた。


セダカコブヤハズカミキリ

ビーティングの衝撃にも動じず、ヤブツバキの葉にしがみついている。撮影を試みるが、不安定な体勢と光量不足ではこの程度が限界。逃げられても困るので、やむを得ず手を伸ばす。

どうやらメスのようだ。振動に鈍感だったのは、センサーである触角が欠けていたからか。とりあえず、このエリアは少なくとも今日はまだ誰も叩いていないようだ。

一旦道路に戻り、工事の様子を確認。邪魔にならないよう、だいぶ下まで降りて探索再開。

工事のために伐採された枝が斜面に投げ捨てられている。切られてからそんなに時間が経過していないようで、あまり美味しそうではない。それでも、これだけあればどこかにセダカが潜んでいるはず。好物のヒサカキとヤブツバキを求めて、平行移動を続ける。

平行移動を続けるうちに、だんだんと足場が悪化。崩れやすい土質なので、何度もバランスを崩して斜面を滑り落ちそうになる。支えになりそうなものは何でもつかんで進んでいく。

工事区間を通過して、さらにどのくらい進んだ頃だろうか。

ふとつかんだヒサカキの枝が、株元で二又に分岐していた。もう1本は途中で折れているようだ。瞬時に枝先を目で追うと、いかにもセダカが潜ってそうな枯葉がある。

不安定な体勢ではあるが、すぐさま叩き網を枯葉の下に潜り込ませる。枝をつかんだ衝撃で、せっかくのセダカが落下してなければいいのだが・・・。

塩ビ管で枯枝を叩いて、ドキドキしながら網を覗き込む。

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セダカコブヤハズカミキリ♂

この長い触角は、間違いなくオスだ。確実な生息地なので、採れるのは当たり前。それでも、狙って見つかるととてもうれしいものだ。

興奮と光量不足により、ブレた写真しか撮れない。

ひとまず、斜面を駆け上がって道路に戻る。

改めて、撮影。なかなか大きい個体で、メスよりもはるかに長い触角が見事。昨年採れなかった分、感激はひとしおだ。

探索開始から1時間、まだ午前11時半。目的は達成したので帰ってもいいくらいだが、せっかく来たので周辺を少し探索。

道路脇、竹林の前に美味しそうな枯葉が見えた。この先に駐車場があるのだが、きっと他の人は見向きもしていないはず。

小さな個体だが、これもオス。摩耶山で生き延びるくらいだから、こんな場所にいるのは当然かもしれない。

臨時駐車場のそばでは、アサギマダラが3匹ほど舞っていた。誘導員のおじさんと話をして、工事について情報収集。来年の秋には終了予定ということなので、今年は絶好のチャンスだったようだ。

来た道を引き返すと、先ほどすれ違った虫屋さんが作業員と話をしていた。成果を聞くと、やはり厳しかったとのこと。舗装道路脇の優良物件には気づかなかったようだ。

出会った時から初対面ではないような気がしていたのだが、話しているうちに今年の夏に氷ノ山で出会ったOさんであることに気づく。有名採集地に人が集中する傾向が強いことを、改めて思い知る。

Oさんと別れた後、登山道を外れて斜面を徘徊。残る2名の虫屋さんが叩いてなさそうなエリアへと足を踏み入れるのだが、良さそうな物件はほとんどなく、徒労に終わる。

唯一の成果は、この陽だまりで得られた。


センチコガネ

青みが強く、ルリセンチコガネの生息地の個体に似ている。

時刻は13時をまわり、そろそろ帰ろうと思って登山道を下る。途中、最初に出会った虫屋さんに再会。状況を聞いてみると、ツチイロフトヒゲ、セダカともに少ないが、そこそこ採集したという。探索場所が重ならないように移動しておいてよかった・・・。

下山途中、なんとなく気配を感じる場所を見つけ、ちょっと寄り道することに。

奥へと進んでいくと、イノシシのヌタ場を発見。水溜りができるということは、湿度がかなり保たれているということで、飛べないカミキリムシの生息には良い条件といえる。

さらに奥へと進んでいくと、予感は現実のものとなる。

アオキの枯葉が、あちこちにある。ここを通るイノシシが踏みつけることで枯れてしまうのかもしれない。

枯葉を見つけては、叩き網を忍ばせて、そっと叩く。

かなりの確率で、ツチイロフトヒゲカミキリが潜んでいる。

触角が切れた個体もたまにいる。ケンカするほど個体数が多いということだ。まさに、ツチイロフトヒゲの楽園。登山道のまわりだけを探していたり、標高を基準にして探索エリアを限定してしまうと、こういう場所にはなかなかたどり着けない。

一方、もうひとつの飛べないカミキリムシは影も形もない。乾燥した林でもたくましく生き延びていると、あまり湿度が高いところは好みでなくなるのかも。

窪地を離れ、尾根筋へ続く斜面を探索。かなり乾燥していて、アオキがほとんど生えていない。頼みの綱はヒサカキとナツツバキだが、そう都合よく枯枝が落ちているはずもない。

それでも、犬も歩けば棒に当たる。さまよい続けること10分、意外と早くその時は訪れた。

ふと目の前に、アオキの立ち枯れがあることに気づく。無意識のうちに叩き網を構え、軽く叩くと、何かが落ちた。

本日、4個体目のセダカ。これもオス。

これで満足、もう帰途に着こう。


土の道


階段


舗装道路

登山口に戻ってきた時は、16時になっていた。

バス停まで歩く途中、刈り取り後の稲を干す光景があちこちでみられた。長い冬を前にして、里では多くの人々が実りの秋を喜んでいる頃、山では飛べないカミキリムシが、人知れず枯葉をかじっている。


狙いのセダカコブヤハズのオスも無事に見つけ、ツチイロフトヒゲの多産ポイントも発見することができた。有名産地なので採れて当たり前なのだが、それより大事な生息環境の把握はバッチリできたと思う。コブ探しの能力も昨年に比べて確実に向上したはずなので、まだ見ぬ各地のコブにも、この経験を生かして出会いたい。

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