広島遠征:初夏の伐採地

2009.May.9

長かった大型連休も、いよいよこの土日で終わり。奥多摩1泊2日採集によってかなり体力を消耗し、木曜・金曜の尋常でない業務量のために体力回復がだいぶ遅れている。でも、ここはもうひと踏ん張りするべきところ。

西日本では大型連休の頃に数々の魅力的な虫が出現するというので、交通の便が良い神戸にいる間にあちこち行っておかねばならないのだ。今回は広島で長年活動を続けているムシムシQさんのご好意により県内のフィールドを案内していただけることになった。一日中たっぷりと採集に費やすのでいろいろなところを回る予定だが、その中でも赤いカミキリムシ2種の生息環境をこの眼で見るのが一番楽しみである。


採集時間を最大限確保するべく、今回は夜行バスで移動することを選択。金曜深夜、三宮バスターミナルから広島行きのバスに乗り込む。移動中に体力回復をはかるつもりだったが、同乗者のいびきが想像以上に大きく、眠れぬ夜を過ごす。

朝6時、西条駅に到着。2年前の3月、学会発表で訪れて以来である。まもなくムシムシQさんが現れ、挨拶もそこそこに車に乗り込む。下道をひた走り、東へ進む。

2時間弱で、本日の採集エリアに到着。谷津田と雑木林あるいは植林の繰り返しが続く、どこか懐かしい風景。その雑木林も、瀬戸内側のようなアカマツ主体の乾燥した林ではなく、コナラやナラガシワなど落葉広葉樹がメインとなっている。赤いカミキリムシの故郷は、こんな環境なのか・・・。

今回のメインは伐採地であるが、その前にちょっと寄り道して、ニシキキンカメムシの生息地を見に行く。


石灰岩とツゲ

奥多摩と違って、低い株が多い。

すでに成虫が羽化して分散してしまっているようだが、ほんの数週間前にはここにも幼虫が登っていたのだろう。


生息地からの展望

いつもの奥多摩の景色と、あまりにも良く似ている。あの断崖絶壁の上にもツゲがあって、ニシキキンカメムシがいるのだろう。

生息地の環境を頭に焼き付けた後は、いよいよ本日のメインフィールドへ。

本日のメインフィールド、伐採地に到着。伐採されたのは1年前で、だいぶ下草が伸びている。入り口に車を停め、網を装備して奥へと進む。狙いは、モンクロベニカミキリ、ムモンベニカミキリ、ジュウモンジニセリンゴカミキリ。


コナラのひこばえ

目立つ樹種は、クリ、コナラ、ナラガシワ。

若葉の上にはモンクロベニが、葉裏にはジュウモンジニセリンゴがいるはず。ムモンベニは、気温が上がれば飛翔中の個体が見られるかもしれないとのこと。モンクロベニ、ムモンベニとも以前材で頂いたことがあるのだが、やはり野外でどんな風にいるのかを見てみたいもの。まだ伐採地の入り口から中心部へと向かう途中ではあるが、周辺視野を全開にして、赤い影を探しながら歩く。

歩き始めて3分後、さっそく赤い影が見えた。


モンクロベニカミキリ♀

乗っている葉はエサにならないウワミズザクラだが、きっとここで夜を明かしたのだろう。緑の葉に赤い体という目立つ配色にも関わらず、上翅に浮かぶシルクハットが高級感を漂わせている。

撮影後、手にとってみた。まだ気温が低いので逃げられることはないとわかっていても、やはり緊張してしまう。こんな素晴らしい虫を毎年見ることができるムシムシQさんがうらやましい。

丘を登って、尾根筋に出る。こちらの方が日当たりが良くて葉の展開が進んでいるようだ。さあ、コナラのひこばえを次々と巡回していくことにしよう。


ひこばえに隠れる個体

今度は♂だ。

やや高い位置にいる♂


コバノガマズミとコアオハナムグリ

日が高くなるにつれて気温がグングン上がっていく。

気温の上昇とともに、モンクロベニも活動が活発になり、隠れていた個体が葉の上に姿を現す。

太陽に背中を向けて体を温め、活動に備える。

同時に、他の赤い虫たちも活動を始めて、カミキリ屋の目を惑わす。


アカハネムシ


ヤマナラシとドロノキハムシ

いずれもモンクロベニより一回り以上小さいのだが、周辺視野に映ると非常に紛らわしい。

また、伐採地ということで障壁は何もないように見えるが、実はそうではない。


クマイチゴの茎


タラノキ

他にもサルトリイバラやノイバラなど、トゲを持つ植物もいたる所に生えている。移動する際には、これらの植物と戦わなければならないのだ。

さらに、さえぎるものがない伐採地では、温度が急激に上昇していき、まるで真夏のような陽気になっていく。爽やかな晴天の下で、水分がどんどん失われていくのだ。

それでも、赤い虫のために、すべてを忘れて伐採地を駆け巡る。


コナラの若葉を後食中の♂

近づいても驚く気配を見せなかったが、採集した別の個体を近づけたら急に慌てて逃げようとした。おそらく、捕まった個体が発する「におい」に反応しているのだろう。


ひこばえの上で交尾する個体

もう十分な数を採ったので、これは撮影のみ。無事に子孫を残して、来年以降も姿を見せてほしい。

モンクロベニはもう十分見ることができたので、今度はムモンベニを狙って場所を移動することに。


道路脇の小規模な伐採地

そんなに古くはなさそうだが・・・・。


アカコメツキの一種


ツシマムツボシタマムシ

これはたくさんいた。

しかし、ムモンベニの姿はなし。秋に見た時は入り口をちょっと探しただけで幼虫の穿孔サインがあったそうだが、今回見る限り、中の方はそれほどでもないそうだ。長年通っていても場所の見極めはなかなか難しい虫なのだろう。ということで、すぐに移動することに。

次は、この伐採地。山と山の間の部分が奥まで伐採されている。前回は入り口を見ただけで、今回は初めて足を踏み入れるという。

クリ、コナラなどの広葉樹がたくさん積まれている。こんなところにムモンベニが飛んでくるのを網で掬うか、枝先を歩いて産卵場所を探しているところを採るらしい。ひとまず、日当たりの良い材置き場をくまなく見ていくことにする。


ゴマフカミキリ


ナカジロサビカミキリ


ホタルカミキリ

奥まで見てみたが、どうも暑すぎて虫の数が極端に少ない。日向はあまり良くないのか・・・。

私が灼熱の太陽に照らされる材を見ている間、ムシムシQさんは切り残された林の縁をゆっくりと歩いていた。そして、私よりもたくさんのカミキリムシを見つけていた。伐採地の奥から引き上げてくる私を見て、

ムシムシQ「トラカミキリがそこそこおるね」

こっちには全然いなかったのに・・・・。

例えば、こんな枝。根元で折れてぶらさがっていて、直射日光は当たっていない。じっと見ていると、上からチョコチョコと降りてくる。


トウキョウトラカミキリ

産卵場所を探しているようだ。


ヨツボシチビヒラタカミキリ

これも産卵場所を探しているのだろうか・・・。

他にも、シラケトラカミキリが飛来し、産卵場所を探して歩き回っていた。

「折れてぶらさがってて、生に近い方がいいみたいだね」

やはりベテランの方は目のつけどころが違う。

正午を過ぎ、灼熱の暑さによって集中力が失われてきたので、涼しい場所へ移動して体力を回復することに。

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