鳳凰山

2009.July.26-29

「馬鹿と煙は高いところが好き」というが、虫屋も同じく高いところに憧れる。

針葉樹林帯、森林限界、お花畑、岩場、・・・・

厳しい環境に適応して生き続ける虫たちが、短い夏の間にあふれ返る。

そんな夢のような世界に、足腰の立つうちに、自由に動ける今のうちに、どうしても行っておきたい。

虫の世界に遊ぼうと心に誓った6,7,8月も、残りあとわずか。

懸案だった試験も終わり、心の迷いも一時的ながら完全に振り切った。

夏休みの前半の予定は、かねてから計画していた南アルプス鳳凰山への登山。

奥多摩では見られない森林限界やお花畑を夢に描きながら、

いざ、天空の世界へ。


7月26日(日)

16kgの荷物を背負い、日付が変わる頃に山梨県入り。

アカアシオオアオカミキリのポイントを探すも道が変わってて見つからず、

適当な場所を選んで寝袋にくるまって眠りにつく。

朝になり、最寄り駅となる韮崎駅へ向かう。

7時10分、第1便のバスに乗り、登山口を目指す。

砂利道を揺られること40分、御座石鉱泉に到着。

標高は1080mもある。

時間は午前8時、登山者名簿に記帳して、いざ出発。

登り始めは奥多摩と雰囲気が似ている。

傾斜はそれほどでもないのだが、重い荷物を背負っているため

登り始めてたった1分で汗が噴き出す。

下山時にチェックするため、良さそうな立ち枯れに目星をつける。

しばらくして、登山道が霧に包まれる。

雲の中に突入したようだ。

奥多摩で慣れているので恐れることはない。

扇子で顔付近に風を送りながら歩き続けるが、

のどの渇きと荷物の重さに耐えかねて何度も休憩してしまう。

11時ちょうど、中間点となる燕頭山に到着。

標高は2105m、東京都最高峰の雲取山よりも高い。

急な登りはここで終了、あとは尾根沿いに平坦な道が延々と続く。

周囲は針葉樹林帯となり、林内には良い香りが漂う。

途中、1本の立ち枯れを見てみると、虫影を発見。

長竿の先でつついて落としてみる。

ヒメマルクビヒラタカミキリ

良く似たオオマルクビヒラタカミキリよりも明らかにツヤがある。

実は初採集となるので、疲れが少しだけだが吹き飛ぶ。

このまま採集モードに入りそうになったが必死に抑えて、先を目指して進む。

この直後だっただろうか。

登山道にはみ出た草に隠れていた「針葉樹の切り株」で右ひざを強打してしまう。

平坦な道に対する油断が、最後まで尾を引くことになろうとは、まだ知るよしもない。

やがて、林内に木漏れ日が差し込むようになる。

雲の上に出たようだ。

ダケカンバの若い林が出現。

右ひざの痛みがこの頃になるとかなり深刻になってきたが、

小屋はもうすぐそこだ。

 

13時8分、鳳凰小屋に到着。

標高2382m、標高差1300mを5時間で登り切ったことになる。

荷物を置くと、目の前をオレンジ色の虫が横切る。

甲虫ということは瞬時に判断できたので、素手で叩き落す。

クシヒゲツツシンクイ

初めて見るツツシンクイ科の甲虫であった。

これは幸先が良い。

毒ビンを取り出して収納していると、背後から声が聞こえた。

「おお、虫屋さんかい?」

振り返ると、この小屋のオーナーである細田氏が立っていた。

甲虫屋として知る人ぞ知る有名な方である。

3泊4日の日程で採集に来たことを告げると、

さっそくイケダイのポイントを案内していただけることに。

右ひざの痛みも忘れて、後をついていく。

イケダイとは、ホソムネシラホシヒゲナガコバネカミキリのこと。

和名が非常に長いので、学名(Molorchus ikedai )で呼ばれることが多い。

南アルプスに分布しているが、その姿を見られるのは非常に局地的である。

これが、その御姿。

交尾中の個体もいる。

さらには羽化脱出中の個体も。

これだけ多くの個体が確実に見られるのは、世界中でここだけだろう。

一緒にいたナガクチキも、高山性の珍種に違いない。

大きさはこのくらい。

コジマ、コボトケ、オダといったヒゲナガコバネカミキリ類よりも明らかに大きい。

さて、採集もそこそこにして、宿泊の手続きをして荷物を小屋へ搬入。

3泊もするということで、良いスペースに泊まれることに。

痛む右足をひきずりながら階段を登り、荷物を置いて身軽になってから再び外へ。

青空が広がり、採集日和ではあるのだが、

体の状態を考えると、残念ながら稜線まで登るのはとても不可能。

この時点では、歩くことすらままならない状態にまで悪化していた。

それでも、小屋の周辺で何とか採集できないかと思い、

右足をかばいながら歩き回る。

ショウマの一種

草花の中でも集虫力の高い部類に入る。

小屋の周囲に点々と生えているので、じっくり見て回ることにする。

カラカネハナカミキリ

個体数は多い。

クモマハナカミキリ

奥多摩で見るのと同じタイプ。

ニセフタオビヒメハナカミキリ

奥多摩だと集まる花がシカに食われて消滅寸前でなかなか見られないが、

ここでは無数にいる。

クロハナカミキリ

これもそこそこの個体数がいる。

クロスズメバチの一種(♂)

花のそばで休んでいるのは、ほとんど♂。

秋に出てくるイメージがあったが、もう出ているとは驚き。

ミヤマカミキリモドキ

残念ながら路上でつぶれていた。

高山帯に行かないと見られない大型のカミキリモドキ。

15時頃、少し足が回復してきた気がするので、

オーナーの秘伝ポイントへ向かう。

「ツカモトイのポイント」

ツカモトイとは、タカネヒメハナカミキリのこと。

これも和名が長いので、学名(Pidonia tsukamotoi)で呼ばれる。

亜高山帯の針葉樹林に生息するが、普通のPidoniaと異なり花にはまず来ない。

かつては相当な稀種であったが、オーナーらにより採集方法が発見・発表されて、

オスはなんとか採集できるようになったが、メスは未だに稀種のままである。

オスは採集できるとはいっても、かなりの努力を必要とする。

生息微環境をイメージしながら、痛む足をかばいつつ、ビーティングを繰り返すのみ。

ツチイロビロウドムシ

アカハネムシの仲間で、なかなか渋い。

ヒメアオツヤハダコメツキ

細身で特徴的な形をしており、緑色の金属光沢が美しい。

シリアゲムシの一種

よく見るシリアゲムシよりも翅が短いが、これで正常な個体である。

結局、ツカモトイは網に落ちてこなかった。

オーナーによると早朝の方が確率が高いそうなので、

オサムシ・ゴミムシ狙いのトラップだけ仕掛けて早々と引き上げてきた。

夜間採集のため灯火を持ってきてはいるが、

体力回復を優先するため、今晩は寝ることにする。

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