北摂の里山

2009.Apr.29

4月もあっという間に最終週を迎え、来週からは5月。これから3ヶ月間は、カミキリ屋にとって最も心躍る季節。心の迷いを振り切って、短いシーズンを追いかけるのだ。

前回の梅田のサロンで、クリストフコトラカミキリの発生情報を教わった。このカミキリに出会ったのは、7年前のちょうどこの時期。大学入学直後で虫屋になりかけだったあの頃、山梨県のとある伐採地で、最後に見つけた素早いトラカミキリが本種だった。それが決め手となって、カミキリ屋の道を歩むことになったのである。虫屋として8年目のシーズンを迎えるにあたり、初心を今一度、確認しておきたい。二日酔いで体調が思わしくない中、いつも通りの時間に自宅を出て、電車に揺られて北摂の山を目指す。


なかなか消えない頭痛と、今までにないふくらはぎのだるさに、先週のマダニによる感染症を疑いながらも、最寄駅に到着。ここからポイントまでは約3km、あいにくバスは2時間待ち。奥多摩での採集を思えば、目と鼻の先のような距離なので、ゆっくり歩いていけば現地につく頃には体調も回復していることだろう。

新興住宅地を抜けると、すぐに田園地帯に突入。草刈りや畝立てをする人々を見ながら、新緑の中の舗装道路を歩いていく。

水田は耕起を始めたところで、まだ水は入っていない。背後に広がる里山は広葉樹の若葉がまばゆいばかり。こういう景色の中に身を置くだけでも、日常のことはすべて忘れられる。

しばらく進むと、小規模な伐採地が目にとまる。

ソダはたくさんあるようだ。教わったポイントにはまだまだ遠いが、時間もまだ早いし寄り道してみようか。斜面の前を通る道を指でたどって、入り口を探してみる。結構、距離がありそうだ。

その時、1台の車が止まり、クラクションが鳴る。運転席を見てみると、梅田のサロンでよくお見かけする方であった。(確かNさんだと思うのですが、顔と名前が一致していない・・・)ご好意に甘えて、現地を案内していただくことに。

5分もたたないうちに、ポイントへ到着。

山の斜面がきれいに伐採されている。

直径60cmほどもある台場クヌギの幹。前回はここにたくさん飛来したという。

まだ時間がやや早いそうなので、周辺のソダなどを見て回る。


ホタルカミキリ

これも7年前のこの時期に初めて見た。材に湧いてることが多いが、この時は1匹だけ。


キスジコガネ

これも7年前に初めて見て、2年前に府中市内で再会、同年夏に奥多摩でも再会。

他にはシモフリコメツキの仲間が飛んでたりするので採集しながら待つが、本命は一向に姿を現さない。

「晴れていても全然採れないことも多い。採れる時はまとまって採れる」

うーむ、山梨県とは状況がだいぶ違うようだ・・・。

しばらく斜面を徘徊しているうちに、もう一組のカミキリ屋さんが登場。もうひとつの伐採地でなんとか1匹採ったというクリストフコトラをいただいてしまった。

2年ぶりの再会はポリ袋越しとなった。

こちらへ来ても状況が変わらないということで、立ち話。私は関西の虫事情はまったくわからないので聞いてるだけであったが、人気のある種類は採るのが大変だということはよくわかった。

時々、周辺を巡回しにいくものの、虫の数がとにかく少ない。さらに問題なのが、体調が一向に回復せず、むしろ悪化していく・・・。


ゴマフカミキリ

実はあまり縁がない種類で、ナガゴマフの方がはるかによく出会う。

このまま待っていてもあまり状況は変わりそうにないので、もうひとつの伐採地を見てみることに。


立派な台場クヌギ

このあたり一帯はオオクワガタで一躍有名になった場所。たくさん採れたのも今は昔、残ったものを考えると心が痛い。

さきほどの場所に比べてやや気温が低いが、周りは林に囲まれていて雰囲気は良い。でも、材を徘徊するのはアリばかり。


シラケトラカミキリ

これもほとんど縁がない(生涯4個体目くらいか・・・)。

他にはネジロカミキリを採ったくらい。やっぱりダメかと思って下ってきたら、上の方から

「おったよ」

材に飛んできたそうで、これもありがたくいただいてしまった。やはり地元の方にはかなわない・・・。

再び最初の伐採地に戻り、そばの石に腰掛けて、虫話をしながらクヌギを見守る。

しかし、クリストフが飛んでくることは最後までなかった。

その後、サロンでよく名前が挙がる採集地のひとつを案内してもらう。こんなところにアレがいてあんな植物に集まるとは、東日本ではまず考えられない。他所ではなかなか採れない甲虫もいるそうなので、晩夏に訪れることにしよう。

体調不良の状態だと、疲労の蓄積も信じられないほど速い。15時前ではあるが、もう帰途につくことに。最寄り駅まで送っていただいて、駅に入る頃には放心状態。感染症の疑いがますます現実味を帯びてきたが、各駅停車に乗って寝ながら帰ったらすぐに回復した。睡眠不足、体温調節の失敗、姿勢の悪さが重なっていただけのようだ。ひとまず、大型連休の予定が飛ぶことはなさそう。

自宅に帰る前に、ちょっと寄り道。

先週は異常なしだったが、今日は見事に先端がしおれている。

昨年も気づいてはいたが、すでに発生終了後だった。


キクスイカミキリ

今年は、ベストタイミング。


残念ながら自力でクリストフコトラカミキリに出会うことはできなかったが、有名な採集地を実際に見ることができ、関西の虫事情の一端を垣間見ることができた。貴重な休日の一日を使って案内してくださり、どうもありがとうございました。

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