2009.Mar.9
オサムシというと、森林との結びつきが強い甲虫というイメージがある。北海道から九州まで分布するクロナガオサムシ類は広葉樹林に生息するし、ヤコンオサムシやエゾカタビロオサムシといった草地性の種類であっても、生息地のすぐ近くには林があることが多い。
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セアカオサムシという名前は、甲虫屋さんにとっては「ちょっとイイ虫」である。河川敷に広がる背の低い草地や、山地にできた広大な草原といった、オサムシのイメージからは少し離れた環境に好んで生息する。北海道から九州まで分布は広いものの、北海道を除くと生息地は局地的である。
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雨の多い日本では、草地は森林へ変わろうとする。それを食い止めるのが、河川の氾濫であり、放牧・野焼きといった人為である。こうした力が作用し続けているうちはセアカオサムシは安泰であるが、ダム建設や、農業形態の変化により、植生遷移を食い止める力が弱くなると、セアカオサムシもいずれそこから姿を消していく運命にある。
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関西ではセアカオサムシの生息地はいくつか知られているが、その中でもっとも有名な場所が今回の目的地。幾度となく繰り返されてきた氾濫により形作られた広大な河川敷が、セアカオサムシのみならず数多くの草地性昆虫をはぐくんできた。この冬に河川敷のヤナギ林が皆伐されたという衝撃的情報も得ていたが、それも含めて、セアカオサムシが住む環境というものをこの目で見てみたい。あわよくば、越冬中のセアカオサムシを掘り当てたい。そんな気持ちで、朝早くから電車に乗って京都を目指した。ダメでもマイマイカブリくらいは採れるだろう。
午前8時半、河川敷に降り立つ。事前に見ていた航空写真とのあまりのギャップに、しばし呆然とする。
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一見すると河川敷によくある草原のようにみえるが、点在する切り株が、つい最近までここはヤナギ林であったことを物語る。
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この一帯で残っていたのは、このヤマナシ1本のみ。ヤナギも、エノキも、クワも、ことごとく切り株になっていた。
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いつまでも呆然としてもいられないので、気持ちを切り替えて探索を開始。まずは、切り株の中からこれはと思うものを選んでナタを入れる。
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すぐに、大きな食痕が現れる。状況から見て、ウスバカミキリだろう。
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根元の方に向かって削ると、幼虫の顔が出てきた。ここまで来れば、採ったも同然。
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枯れ草を噛み付かせて、釣り上げる。この切り株では、ウスバカミキリ幼虫が大漁であった。
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別の食痕をたどると、アオゴミムシの集団が現れる。河川敷の朽木割りで、本種が出なかったことはないくらいの常連。
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さらに周辺を削っていくと、ゴマフカミキリ系の幼虫が出現。ナガゴマフ、カタシロゴマフ、ゴマフ、どれに化けるかはお楽しみ。
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ウスバカミキリ幼虫を釣り上げていく中で、1匹だけ顔が違う幼虫がいることに気づく。
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並べてみると一目瞭然。
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広葉樹食いのこれだけ大きい幼虫だと、ウスバ、ノコギリ、ミヤマ、ゴマダラ、シロスジくらいしかいないだろう。顔は完全にフトカミキリ亜科なので、ウスバ、ノコギリ、ミヤマは外れる。シロスジならば成虫越冬なので除外、ゴマダラカミキリということになる。これも持ち帰って、結果を待つことにして、切り株採集をひとまず切り上げる。
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今日の目的はセアカオサムシということで、崖を探す。まずは、水辺ギリギリのところを攻めてみることにしよう。
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先週の多摩川と同じく、道具はこのスコップのみ。
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コガシラアオゴミムシ
河川敷ではおなじみの種類。
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カワチマルクビゴミムシ
これも河川敷でおなじみ。
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しばらく崖を削っていくが、ほとんど虫が出てこない。やはり水辺に近すぎるのか。早々と見切りをつけて、別の場所を探すことにする。
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次に目をつけたのが、橋脚の根元。洪水時の水流で、えぐられることが多いのである。
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冬虫夏草にやられたゴミムシ
オサムシタケというのは有名だが、ゴミムシタケというものは聞いたことがない。
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もう1つ出てきた。こちらはより細かい菌糸?が密に生えている。
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スジアオゴミムシ
赤い前胸に一瞬ドキっとした。粘土質の崖掘りではおなじみの種類である。
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そして、今日初めてのオサムシが根の間から出現。
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ヤコンオサムシ
林に隣接する畑や草地といった比較的開けた環境を好むらしい。まだ採集数が少ないので、とてもうれしい。
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ある程度崩したところで、別の場所へ移動する。
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次に来たのが、この窪地。重機の跡はないことから、もともとあった地形のようだ。土がむき出しになってて掘りやすい場所から攻めていく。
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コガシラアオゴミムシ
体のわりに大きい部屋を作るようだ。
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スジアオゴミムシ
ゴミムシは掘り出した後にすぐ動くことが多いのに対し、オサムシはじっとしていることが多い気がする。
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ヤコンオサムシ
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とにかく、たくさん出てくる。色に多少の変異があって、黒系と緑系が半々くらい。
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1匹だけ、銅色の個体が出てきた。
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トカゲが出てきたところで、次の場所へ移動する。
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次は、水辺から3mほど離れた場所にある小さな段差。すぐ隣にはヨシが生えている。
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コガシラアオゴミムシ
この体でこの部屋はちょっと広すぎるのでは・・・・。
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フタモンクビナガゴミムシ
形も模様もなかなか面白い種類。
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オサムシタケ(寄主はヤコンオサムシ)
ヤコンオサムシもそこそこ出てきたが、寄生されていたのは1つだけ。これが出てきたところで、別の場所へ移動する。
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今度は、少し高い崖。水辺からの距離はさきほどの段差と変わらない。
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リュックを置いて、スコップで掘りはじめたその時、
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何やら、赤い影が・・・。
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探索開始から2時間、初挑戦でついにセアカオサムシを掘り当ててしまった。
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0.5秒ほどして脳の映像処理が完全に終了した段階で、現実は甘くないことを知る。
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アカシマサシガメ
遠目で見れば、似ていなくもないか・・・。
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前胸の赤いスジアオゴミムシは見慣れているのですぐ見破れるが、アカシマサシガメは土中からあまり発見されないので、びっくりした。
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さらに場所を変えつつ探索を続けるが、出てくる虫には変わり映えがしない。唯一の成果とすれば、このヤナギを物色していたときのこと。
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マイマイカブリ
根元の土を崩していたらいつの間にか下に落ちていた。ずいぶんと小さい個体である。狙いのセアカオサムシがなかなか採れないので、せめてマイマイカブリをもう少し採っておこうと思い、崖の上の段丘に登ってみることに。
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草一本ない、広場。
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その先に広がる、草地とヤナキの切り株。ヤナギの部分枯れや洞などあるはずもなく、朽木すらほとんど見あたらない。
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エノキの切り株
すでに誰かが削ったようで、クワガタ幼虫の食痕がよく見える。
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かなりの高密度で幼虫が入っていた。
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ヒラタクワガタ♂
東京都府中市では最大級の個体が簡単に採れるとは、さすが西日本。
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ここでふと、重要なことを思い出す。
「セアカオサムシって、草原に住むオサムシだったよな・・・・」
今、自分が探索しているのは、この秋まではヤナギ林だった。探すべき場所は、ここではない。昨夜調べた航空写真の記憶を頼りに、時間がない中で思い切って場所を移動することにする。
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30分ほど歩いて、草原らしき場所に到着。明らかに人手が加わって、植生遷移がおさえられているようだ。
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川と草地の間には、やや急な崖がある。枯れ草をかきわけ、良さそうな場所を見つけては削っていく。
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ケラの幼虫
なかなか可愛らしい。
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キボシアオゴミムシ
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ホソヒョウタンゴミムシ
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草地らしきゴミムシが採れ、ヤコンオサムシも少ないながら出てきたものの、肝心のセアカオサムシはついに出てくることはなかった。
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帰り道、啓蟄を過ぎた河川敷には、虫の影も少ないながら見られた。
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イタドリハムシ
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モンキチョウ
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ルリシジミ
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春は、ささやかながら始まっている。
今回はセアカオサムシ狙いとしてはやや見当ハズレの場所を探していたようでしたが、ヤコンオサムシの越冬環境をしっかり把握できたことが収穫です。セアカは活動期のトラップ採集で狙うのが一般的なようですが、時間があればもう一度くらいは挑戦してみたいです。