神戸のベニバハナカミキリ

2009.May.23

関東地方では現在、ベニバハナカミキリ探しの時期。ケヤキ、ムクノキ、カエデなどの樹洞に依存するこの特殊なカミキリムシを、市街地の社寺、学校、公園など古くからの木が残された場所で探す。東京都23区内産は江戸前ベニバと称されるなど、密かなブームとなっている。

一方、関西ではベニバハナカミキリの話題はあまり聞かない。古くから人が住み着いて開発されてきた地域ということもあり、市街地で簡単に採集できるような状況ではないのかもしれない。日本産カミキリ大図鑑によれば西日本の個体は暗色化するそうなので、関西にいるうちに一度は見てみたいところである。

昨年8月、神戸の街を自転車で徘徊していた時に、こんな場所を見つけた。

携帯での撮影なので画質が悪いが、手前の木に樹洞が確認できるだろうか。内部の腐り方は実家周辺や大学周辺にある発生木と同じで、見慣れた羽化脱出孔もいくつか空いていた。

あれから9ヶ月、もう成虫が発生している頃だろう。昼過ぎに河川敷のトラップ設置から戻ってきてそのまま自転車に乗って、あの場所へと向かった。


15時40分、現場に到着。樹種はイロハカエデ。荷物を置くと、どこからともなく蚊が寄ってくる。そういえば昨年も蚊の猛攻撃を受けたのを思い出した。

中の様子はこんな感じ。程よく乾燥していて、外側は白くなっている。幹周りに静止している個体がいないか確かめた後、中を覗く。

真新しい羽化脱出孔もあり、発生しているのは確実。しかし、ライトで一通り照らしてみるが成虫の姿は見当たらない。

こうなったら、あちらの方からご登場願うことにしよう。方法はいくつかあるのだが、虫よけスプレーはどうも好きになれない。タバコに至っては喘息持ちの私には「死の薬」なので使えない。実家で使った線香も、今は持ち合わせていない。ということで、もっとも原始的かつ低負荷な方法として、枯葉を拾ってライターで着火して煙を樹洞に送り込んでみる。しかし、何もでてこない。今日は留守なのかもしれない。

このあたりには古い木がまとまって残っているので、探せば他にも樹洞が見つかるかもしれない。そう思って、あたりを見渡してみると・・・・、

奥に生えている木に注目。

樹洞らしきものがみえる。

木の正面に回りこんでみる。1が、さきほどの位置から見えた樹洞。しかし、2の位置にある腐朽部の方が良さそうな雰囲気。ただ、根元から4mほどの位置にあるので木登りをしなければならない。

ササを掻き分けて斜面を登るのは面倒なので、ちょっと遠回りして斜面の上に回り込む。横に伸びた枝に飛び移り、2の樹洞を目指す。

30秒ほどで、2の腐朽部の背後に到着。体勢を整えて、幹の左側からゆっくりと顔を出して、覗き込む。

その時の視界(イメージ図、左が地面側)

黒い影が静止していて、それがベニバハナカミキリということは瞬時に認識できた。しかし、あまりにも黒かったのですでに力尽きているのかと思った。

1秒後、鼻息がかかってしまい、驚いて歩き始めた。急いで手を伸ばして指で進路をふさぎ、穴に潜らないように誘導する。腐朽部から樹皮に移ってきたところで手で押さえつけ、慎重に体をつまむ。このまま樹上で写真撮影も考えたが、逃げられては元も子もない。リュックからタッパーを取り出して収納しようとしたところで、手をすり抜ける。ギリギリのところでなんとか取り押さえ、慎重にフタとミの間から投入する。これで、もう大丈夫。

木を降りる前に、リュックからカメラを取り出して腐朽部を撮影。

これが全体像。長さは30cmほど。

新旧それぞれの羽化脱出孔もあった。しばらくはこの部分で発生を繰り返すのだろう。

とりあえず、1匹採れたので今日はもう帰ることにしよう。


ベニバハナカミキリ♂

兵庫県神戸市中央区産(帰宅後に撮影)

完全黒化とまではいかないが、だいぶ黒い。

inserted by FC2 system