陸の青い輝き

2009.July.11

今週は梅雨らしいジメジメした日々が続いたが、もう少しで梅雨前線も北に上がり、夏も本番を迎える。6月終わりにすべての悩みを振り切って夏を迎えたはずなのだが、7月序盤が終わったところで、再び心が不安定な状態に・・・。今まで無意識に避けてきた「過去の自分との対峙」にようやく取り組み、目の前の壁を乗り越えようとしているからなのかもしれないが、そんな時こそ、平日は天気悪くても週末に都合良く天気が回復するもの。神戸に来て2年目、来年はどこに転勤になるかわからないが、初心を振り返るためにも、いま一度あの虫に会いに行ってみよう。今年は昼間に雨が降ることが多く、湿気が苦手な彼女たちには辛い年だろうが、たぶん、今年もそのかわいらしい姿を見せてくれることだろう。


行き先は昨年と同じ場所で、今年春に幼虫も確認している。興味ありそうな同僚にも声をかけたが都合がつかず、今年も一人で訪れることに。連日の疲れから起床がやや遅くなったが、身支度を整えて出発。出始めのクマゼミの控えめな合唱を聞きながら、駅に向かって自転車を走らせる。

電車に揺られること30分、昨年と同じ駅に降り立つ。駅を降りてすぐの林縁が、最初の探索ポイント。といっても、キベリハムシではない。


ムクノキとエノキの伐採木

春に訪れた時に目星をつけておいたもの。あの後、さらに剪定されたようで、新しい枝もそこそこある。

眼を凝らして青葉を見つめると、葉脈に沿った食痕がかすかにある。密かに期待していたオオシロカミキリのものかもしれない。だが、食痕はこれだけ。昼間はムクノキやケヤキの葉裏で食事中のはずだが、長竿を伸ばして何度掬っても、白いカミキリムシの姿はなかった。

探索前の寄り道はこのくらいにして、湿度100%近い林内を歩いていく。

しばらくして、舗装道路に出たところで、探索開始。頭の中の地図にプロットされているサネカズラを順番に見回っていく。

まずは、この柵。今年春に見つけたポイントである。

あの時は幼虫がわりと見られたので期待していたが、今日は成虫の姿はなし。まだこの先にもいくつかポイントがあるので、先へ進む。

第1ポイント。昨年、最初にサネカズラを見つけたので、こう呼んでいる。急斜面で足場は非常に悪く、足を滑らせれば川床に叩きつけられる。

キベリハムシが好みそうな微環境に生えているので、期待が持てる。荷物を置いてじっくり探してみると、成虫のものと思われる真新しい食痕が見つかった。

そして、伸びたりしゃがんだりして視点を変えながら探していくと、・・・

さっそく、発見。

昨年はまともな写真が撮れなかったので、今年はぜひとも納得いく形でカメラに収めたい。できるだけ近寄って撮影を試みるが、足場の悪さ・光量不足・カメラ固定力不足により、これが限界。撮影を諦めて、記念に採集してタッパーへ収納。この先にある足場が良いポイントへ望みを託す。

第2ポイントは後回しにして、足場が良い第3ポイントを目指す。しばらく舗装道路を歩くと、ポイントが見えてきた。

昨年サネカズラという植物をしっかりと頭に焼き付けたので、今は道路からでも簡単に確認できる。

そして、日本一大きいハムシも、その大きさゆえに簡単に見つかる。

道路を降りてみると、2匹が同じ株に静止していた。手前の1匹に気を取られて奥の個体の存在に気づかなかったとは、まだまだ甘い。

突然、崖の上から降りてきた人間に気づいても、逃げる気配はない。新天地で目立った天敵もいないためか、堂々とした立ち居振る舞いである。

これからじっくり撮影しようと思って、荷物を崖のそばに置く。ちょっと高めの位置にいるので、カメラの固定にはちょっと気をつかう。太陽の向きを考えて位置取りを考え、場所を移動しようと思って周りを見た瞬間、・・・

もう1匹、ちょっと離れた葉の上にいるのを発見。こんなに近寄ってても気配に気づかないとは、自分はまだまだ甘い。

この個体が一番撮影しやすいと思ったので、しばらく付き合ってもらうことに。

木漏れ日を浴びて、鮮やかに輝く。

同、縦バージョン。

下から見上げると、腹が大きく膨らんでいるのがわかる。

十分に撮影した後、1匹だけ採集。

危険を感じると、不快臭を放つ黄色い液体を噴出する。まるでテントウムシのようだ。

さて、今日の一番の目的は達成したので、あとは適当に周辺を散策。


河川敷の草地

周囲は小規模なアキニレ林となっている。


ツマグロイナゴ♂

黄色い体で、翅の先が黒いのが特徴。


ツマグロイナゴ♀

和名のような姿ではない。


ヘリグロリンゴカミキリ♀

草の間を敏速に飛んでいた。発生末期なのか、触角がすでに欠けていた。

草地をとりまくアキニレ林から漂ってくる発酵臭に釣られて、片っ端から覗きこんでみる。


モンスズメバチ

かなり小型のワーカー(働き蜂)だった。


カナブンとアオカナブン


クロコノマチョウとカナブン


チャイロスズメバチ

なぜかこのハチはどこでも縁がある。もうワーカーが出現しているようだ。

さらに、舗装道路沿いのアキニレの木では、・・・

オオムラサキも来ていた。こんなところで出会えるとは思ってもいなかった。

最後に、舗装道路沿いの斜面で、鳴く虫を探す。

まわりは木々に囲まれていて、せわしない鳴声があちこちから聞こえてくる。音が聞こえる場所をじっと眺めていると、その正体が浮き上がってくるのだ。


ヤブキリの一種(♀)

♂は鳴く時に翅が動くので見つけやすいが、♀でも頻繁に移動するのでその時を逃さなければ案外見つかる。場所を見定めたら、長竿を伸ばして一気に振り抜くだけ。


緑色タイプ


淡褐色タイプ


脚黒タイプ

すべて個体変異。脚黒タイプが一番カッコイイ。

肉食性なので、大アゴの力も強い。下手につかむと噛まれて、コクワガタの♂よりはるかに痛い。

そこそこ採集したところで、帰途についた。

最後に、もう一度最初の伐採木置き場を見たが、ナガゴマフカミキリしかいなかった。ここは、そのうち夜に来ることにしよう。


神戸に来て2年目の夏、今年もキベリハムシの姿を拝むことができた。遠い異国から連れてこられて、苦手な梅雨をうまく乗り越えて1世紀以上も子孫をつなぎ、日本最大のハムシとして市民権を獲得(それまでの最大はオオルリハムシ)。転勤で2~3年ほどしか定着できない私からすれば羨ましい限りである。そんな、かわいさとたくましさを併せ持つその姿を、来年また見に来るかもしれない。小笠原諸島以外の勤務地であれば、物理的に不可能ではないのだから。

林内での撮影では、どうしても写し取れなかった、この青い輝き。故郷の中国大陸でも、何万匹という同胞が青空の下で輝いているのだろう。

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