冬の里山散策その2

2009.Feb.15

まだ2月中旬というのに、突如として異常な暖かさが訪れた。14日土曜、神戸では最高気温18.9℃で初夏の陽気、静岡では25℃を超える夏日を記録したらしい。フィールドに出るには絶好の天気であったにもかかわらず、疲労回復を言い訳にして部屋にひきこもり、独り暮らしの寂しさに襲われていた自分が情けない。「同じように孤独を味わうならば、人がいる街中よりも山奥や里山の奥のように、人がいないところの方がいい。」今日15日もまだこの暖かさは残るようなので、体力作りも兼ねて、いつもの里山の未踏地を歩いてみることにした。


午前9時、いつもの里山に到着。川沿いに広がる広大な田園地帯と、雑木林。

ゆっくりとした時が流れるこの場所に来れば、同年代のカップルが仲良く歩く姿を見て心が痛むこともないけれど、現状を打開するきっかけを得ることもまず期待できない。結局は悪循環に陥っていることを気づいてはいるのだが、ひとたびフィールドに降り立てば、そんなことは関係ない。草木のささやきを聞きながら、物言わぬ虫の声に耳を傾ける。大学時代からずっと続けてきたことを、今日もやるだけ。

今日は南向きの谷戸を進んでいく。土壁を持つ立派な蔵が、まだまだ現役。

谷戸の途中には複数のため池がある。コンクリート護岸であまり雰囲気は良くないが、魚さえ放流されていなければ水生昆虫の越冬には適していそう。

当初、目星をつけていた道は鎖で封印されていたので、谷戸の奥へ進める道を求めて東西方向に移動を繰り返し、なんとか入り口を発見。最近舗装された道のようで、伐採木が脇に放置されている。これは、この夏のお楽しみ。


折れかかっているコナラの木

なんとなく気になったので、近寄って物色する。


ユミアシゴミムシダマシ

朽ちた部分に潜んでいた。成虫越冬するとは知らなかった。

しばらく同じような景色が続いた後、大きなため池にぶつかったところで道は途切れる。遠目には良い感じにみえるのだが、近くの木にルアーがひっかかっていたのを発見して落胆する。とある貴重なトンボが生息していたかもしれないのに・・・。

さて、このまま来た道を引き返すのは面白くない。地図を広げて現在位置を確認すると、尾根を越えればすぐ道に出ることが判明。

獣道を頼りに、林の中を登っていく。

途中で見つけた、ソヨゴの立ち枯れ。羽脱孔の主は、おそらくアオマダラタマムシ。蛹室内で成虫越冬するはずなので、ちょっと削ってみる。

しかし、意外に固くて、刃こぼれしたナタでは手がだせない。軟らかい部分を崩すと、脱出に失敗した個体が風化寸前で姿を現した。やっぱり夏に野外で採る方が簡単なので、諦めて先に進む。

5分ほどで尾根を越え、道に合流する。乾燥気味の尾根道を進んでいくが、特にめぼしいポイントは見つからない。ふと左側に目をやると、尾根道と平行して走るもう1本の道が見えた。隠されたもう1本の道、これは怪しい。2本の道が最大限近づいたところで、斜面を下ってみる。


隠された道

少なくとも、尾根筋の乾燥した道よりは雰囲気が良さそうに思える。オサムシ狙いのコップを埋めるならここがいいかもしれない。

しばらくすると、沢に接近し、急に開けた場所に出た。どうやらこの道は、用水路らしい。この先で道が途切れており、取水用の樋が木陰に見える。

ヤブニッケイの小さな株が生えていたので目をやると、葉脈に沿った食痕がびっしり。これはヒメリンゴカミキリの仕業だろう。

まもなく、幼虫の穿孔サインも発見。リンゴカミキリのような斜めの裁断跡ではなく、浅いV字型の切り口をしている。

ここを割ってみれば、きっと幼虫が入っているはず。

しかし、出てきたのはなんと蛹。この暖かさで急成長してしまったのか?

その理由はすぐに判明。昨年夏、蛹化直後になんらかの原因で死亡したらしい。触ってみてもまだ軟らかかったのは驚きであった。

その後、別の枝でようやく幼虫を発見。まだ小さいので、うまく育つかどうか。

その後、尾根筋の道に戻ってなおも進むと、看板と登山口を発見。そんなに高くない山なので、頂上まで行ってみることにする。

心肺能力が筋力に追いつかず、かなり苦しい思いをしながら登り続ける。こんな丘のようなところでこの調子なら、奥多摩では遭難してしまう・・・。ヒノキ植林、二次林、竹林を抜けて、なんとか山頂のお寺に到着。昔は城もあったらしい。

寺の屋根では、ヒオドシチョウが日光浴をしていた。これだけ暖かくなれば、びっくりして動き出すのも無理はない。

あまり見るべきポイントもなかったので、すぐに下山を開始。登りとは逆で、今度は筋力が心肺能力に追いつかない。駆け下りていくスピードも遅いし、ブレーキをかけると自分の体がとても重く感じる。麓につく頃には、太ももが痛み出していた。たかだか標高差200mほどなのに・・・。

しばらくは来た道を引き返した後、交差点で別の道へ。

このままほとんど何も採らずにいるのはつまらないので、ちょっとだけオサ掘りをしてみる。

日陰の、木の根が露出しているところをスコップで削る。


マヤサンオサムシ

だんだん越冬場所がわかってきたかもしれない。


マヤサンオサムシ(黒緑色型)

初めて見る色で、ちょっとうれしい。

出たのはこの2♀だけ。スコップで掘り続けると手が痛くなるので、出なくなったらすぐにやる気がなくなる。

他にも良い場所がないか探して歩くうちに、林の中の道は終わり、田園地帯に出た。


日光浴するヤギ

昨年はこの脇にあるミカンの木でゴマダラカミキリを採集した場所だが、まさか現役のヤギ小屋だったとは知らなかった。


ノコギリカメムシ

この暖かさで動き出してしまったようだ。他にもナナホシテントウ、クロウリハムシなどが出歩いていた。

しばらくフラフラと歩き回っていたが、最後に材をひとつ持って帰ろうと思い立ち、目星をつけていたポイントへ向かう。

アベマキを伐採した際に巻き添えになったノグルミ。新鮮なアベマキ伐採木にクビアカトラカミキリが湧いていた初夏には、このぶらさがっている枝も新鮮な枯枝だったに違いない。ノグルミといえば、タカサゴシロカミキリ。もっと海寄りの地域にも記録があるので、ここにいないはずがない。

樹皮がはがれた部分はキツツキに攻撃されている。材部への進入孔はたくさんあるが、羽化脱出孔は見当たらない。

樹皮がついている部分も同様。これは期待が持てそうだ。

以前、京都北部で採集した材と似たような食痕


幼虫

さて、期待通りに化けるだろうか。

材を切り分け、3分の1ほど袋に詰めて、残りはそのまま放置。もうこれで満足したので、少々早いが午後2時に帰途についた。


狙いの虫がないまま、未踏エリアを歩くのは気が楽ではあるけれど、シーズン前のこの時期ではもの足りない感じもする。次回は、何かしら狙いの虫を決めて歩くことにしよう。

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