夏の日差しとコナラの木

2009.Jun.14

6月は1年のうちでもっとも時間の流れが速い。いよいよ始まったと思ったら、あっという間に中旬になってしまった。夏至へ向けて昼間がどんどん長くなっていく中、先週に引き続き、いつもの里山へ。

今日の目的は、先週に引き続きトゲアリの巣を巡回することと、初めて遭遇したオオムツボシタマムシをこの手に収めること。研究室時代と同じように、現実の代償として何でも採れる気がする今のうちに・・・。前日、摩耶山山頂から登山口まで30分(コーヒー休憩含む)で駆け下りた反動で両足と両肩に筋肉痛を抱えながらも、早起きして電車に乗り込んだ。


8時、最寄のバス停に降り立つ。見渡す限り早苗がたなびく水田を抜けて、林の入り口を目指す。

木漏れ日と木陰のコントラストが美しい小道を歩いていく。

クヌギの樹液ポイントに到着。

じっと耳を澄ますと、クヌギの息づかいが聞こえる。先週よりも樹液の噴出量が増えてきているようだ。


スジクワガタ♂

気配に気づいたのか、慌てて隠れようとしていた。なかなか大きい個体。

クヌギの前でしばし林の声に耳を傾けていると、目の前に黒い飛翔物体が現れる。甲虫で、触角が長いのが見えたので、左手で反射的につかむ。


ベニバハナカミキリ♀

目視で探して見つけたことは多々あるが、向こうから飛んできたのは初めて。この前、神戸市中央区で見つけた♂と違い、あまり黒くない。このクヌギは材部が広くむき出しになっていて朽ち方も良いので、引き寄せられたのか。

先週オオムツボシタマムシが飛来したコナラ伐採木は、まだ日陰。昼過ぎには日が当たるはずなので、その頃に戻ってこよう。まずは、トゲアリの巣をチェックするため先に進む。


第1ポイント

トゲアリ健在、某アリノスアブ気配なし。


第2ポイント

同じく、気配なし。


プチ棚田

先週と同じおじさんがいたので、挨拶して奥へ進む。


第3ポイント

やはり、気配なし。

以上でトゲアリの巣の巡回は終了。

まだコナラ伐採木に日が当たるまでは時間があるので、時間つぶし。クリの花はまだ咲いてないので、根元にある伐採木置き場をチェック。


ゴマフカミキリ♂


ミドリカミキリ♀

いるのは、先週と同じ顔ぶれのみ。

ライバルのカナヘビが現れたところで、チェック終了。

伐採木置き場の上には、ノグルミが生えていて、花が咲いている。そろそろ、あの白いカミキリも活動している頃なので、長竿を伸ばして掬ってみる。


タカサゴシロカミキリ♀

掬った衝撃で驚いて飛び立ったところをネットイン。材ではうんざりするほど出てきたが、野外で採るとまた新鮮だ。

さらに調子に乗って、開花寸前のクリの花穂を掬ってみる。


キスジトラカミキリ♂

気の早い個体が網に入った。なぜか好きなので、どこで採っても必ず持ち帰ることにしている。

こんなふうに採集していると、さっきのおじさんがポンプを押して登ってきた。

「狙いの虫はようけ採れたか」

しばらくお話をしてみると、このプチ棚田の3分の1を耕作しているとのこと。灌漑用水はため池が頼りだが、今年は雨量が少なくて困っているという。一番奥にある隠しため池から水を引き出すため、登ってきたそうだ。


底が見えつつあるため池

ウシガエルのオタマジャクシがひしめいていた。水が増えれば少し楽になることだろう。

この後、スイカズラをチェックしたがニセリンゴカミキリの追加は得られず、アブラチャンの葉に止まったヒメコスカシバを撮影するも網に入れる前に逃げられる。だいぶ日が高くなってきたので、クヌギの木陰に避難することにする。

ここは風通しが良いので、ほっと一息つける。荷物を置いて、樹液に集まる虫たちを観察してみよう。


モンスズメバチ

樹液を夢中でなめている。


ハチモドキハナアブ♂

相変わらず個体数は多いが、♂がほとんど。


ヨツボシケシキスイ♀

それほど個体数は多くない。

まだ10時、虫が集まるのには早いのだろうか。このまま待ってても退屈なので、先週目星をつけておいた場所へ移動する。

小道の脇にひっそりと咲くユリの花。名前はわからないが、なんだかとても美しく見えた。

目星をつけておいた、ため池。縦5m、横15mくらいと非常に狭く、底はかなり浅いのだが、このエリアにあるため池の中でも抜群の雰囲気が漂う。

水面は、ヒシとヒルムシロで覆われる。

水面をじっと見ていると、メダカの学校もみられる。


ヨツボシトンボ♂

最初に見た瞬間、「種の保存法」で採集禁止となっている、幻のベッコウトンボかと思った。(神戸市内でも1990年代までは生息していたという。)

先週は撮影だけにしておいたので、今回は標本用に1♂だけ持ち帰る。

さらに進むと、水田が出現。畦際にはヘラオモダカやセリなどが生えていて、水生昆虫の隠れ家になっている。


コオニヤンマ♂

林縁の小道を飛んでいたところをネットイン。実は、自己初採集である。

頭部には1対の突起があり、「子鬼」のように見える。


ナキイナゴ♂(羽化直後)

草むらではナキイナゴが盛んに鳴いているのが聞こえる。この個体も、明日になればその輪に加わることだろう。

さて、時間つぶしはこれくらいにして、またクヌギに戻ることにしよう。

時間は11時、コナラ伐採木はもう少しで全面に日が当たる。伐採木と樹液を適度な時間間隔を置きながら往復し、時を待つ。


シラホシハナムグリ

樹液に群がっているのは、すべてシラホシ。

シロテンハナムグリ

林縁を飛翔していた。樹液よりも花の方が良いのか・・・。


ウバタマムシ♂

クヌギの葉に飛来した時は、オオムツボシタマムシかと身構えた。でも、あまりにも大きすぎた。


ヒオドシチョウ

かなり強気で、飛翔中ならスズメバチにも空中戦を挑んでいた。でも、着陸するとおとなしくなってスズメバチに席を譲っていた。


ヒカゲチョウ

人の気配に敏感で、遠くで動いただけでも慌てふためいていた。

そして、その時はついにやってきた。コナラ伐採木は、全面に夏の日差しが降り注ぐ。時間は12時ちょうど。さあ、これからが勝負。

先週の経験からすると、オオムツボシタマムシはかなり気配に敏感で、動きも極めて俊敏である。チャンスが来たら、一瞬の判断で網を振り抜かなければならない。

まずは腕ならしに、飛翔中のエグリトラカミキリとクロナガタマムシをネットイン。撮影用に網の中から取り出して、カメラを構えようとした、その瞬間であった。

コナラ伐採木の上で大きな影が動くのを、周辺視野が捉えた。瞬時に周辺視野から中心視野へ切り替えると、楕円形の大きな甲虫が先週とまったく同じ位置を歩いている。

エグリトラカミキリとクロナガタマムシを投げ捨て、長竿の柄を両手で握る。ほぼ同時に、その大きな影が青く光り、翅を広げて離陸した。先週は私から遠ざかるように枝先へ飛んでいってしまったが、今は、まさに私をめがけて飛んでくるではないか。

予想外の展開に驚いた次の瞬間、その影は私の目の前1mにまで迫っていた。このままでは、私の背後に回り込んで逃げられてしまう。このチャンス、逃すわけにはいかない。

網の枠は、今はちょうど左わき腹にある。私の目の前で方向転換のため戸惑っている一瞬のスキに、腰を思い切りひねって、左から右へ、網を振り抜いた。


オオムツボシタマムシ

体長20mmほどにもなる、ムツボシタマムシ類の中で日本最大種。その圧倒的な存在感を、今、この手に。関西には有名ポイントはあるらしいけど、自分で見つけた場所で出会った方がはるかに達成感がある。

その後、追加を狙って、切り株に腰掛けてじっくりと待つ。


チビクワガタ

切り株のそばの地面を歩いていた。今日は他にも樹幹や樹液で3個体ほど見た。


ウバタマコメツキ

タマムシらしき飛翔姿勢のまま突然目の前に現れたのでネットインしたが、同じ飛び方をするコメツキムシであった。

やがて、雲が広がり太陽は隠れてしまう。樹液に集まる虫が急に減ったので、雨が降る前兆と判断して帰途につく。たった一度のチャンスをものにできたのだから、悔いはない。

平地の水田に戻ってくると、さっきのおじさんが水尻(排水口)の調整をしていた。あちこちに水田をお持ちのようで、管理が大変なのだろうなあ。また来週も、よろしくお願いします。

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