奥多摩:新緑の季節

2009.May.4

青梅の里山探索から中一日で、今度は奥多摩へ。思い返せば1年前のちょうど同じ日にも、奥多摩へ戻ってきていた。大学1年から始まった奥多摩通いも今年で8年目になるが、狙いの虫はまだたくさんある。体力的にも精神的にも自由に動き回れるうちに、少しでも多く出会っておきたいものだ。

今回の目的は3つ。

1.ヒゲナガコバネカミキリ類とセスジヒメハナカミキリ

記録はあるものの、今まで不思議と縁がなかった種類。昨年は場所の選択を誤り、結局出会うことはできなかった。今回はその反省を踏まえての再挑戦となる。

2.イボタガ

早春に出現する、格調高い模様をもつ大型蛾。残念ながら、東京の平地で遭遇することは現在ではかなり難しい。これを採るためだけに、今回は1泊して灯火採集に挑戦する。

3.ニシキキンカメムシ

奥多摩は本種の分布東限であり、かつ模式産地でもある。採集記録は成虫で2例(原記載含む)、幼虫で1例が知られているのみ。半年前の秋にはようやく幼虫の生息場所をつきとめた。そろそろ越冬明けの個体が羽化するために木に登る時期のはず。

さあ、1年前から置いたままにしてある「魂のかけら」を取り込んで、新緑で輝く奥多摩の春を、思う存分楽しむことにしよう。


早朝、実家を出て始発電車に乗り、奥多摩駅を目指す。立川から奥多摩までの電車に乗り、眠りから覚めた頃に奥多摩駅に到着。

いつ来ても変わらぬ、趣のある駅舎

いつもならバスが出るまで1時間弱の待ち時間があるが、大型連休中は必ず電車到着とほぼ同時に臨時バスが出るのだ。

ということで、今回はおなじみの蛾像収集をせずに、駅舎の写真だけ撮って、すぐにバスに乗り込む。窓から見える景色で季節推移を確認すると、だいたい昨年と同じくらいのようだ。

バス停から歩いて、林道を目指す。途中で「萬寿の水」を一口飲むことも忘れない。集落では、八重桜がちょうど満開となっている。

集落を抜けると、まばゆいばかりの新緑が目に飛び込んでくる。外灯にイボタガが居残っている可能性もあるので注意して歩くが、蛾そのものがほとんど見当たらない。

代わりに、周辺視野で地面に何かがつぶれているのを発見。近づいてみると、なんとマイマイカブリではないか。ニシキキンカメ幼虫のように「車に踏み潰されるほどたくさんいる」のだろうが、まだ一度もここでは見たことがなかった。これもいずれ生きている姿を見たいものだ。


谷の様子

すっかり新緑の季節になり、トチノキは蕾が大きくなっている。

気温は15℃ (9:00)。この時期としてはまあまあの気温だ。

季節推移を確認したところで、今日の採集スケジュールを考える。空は薄曇りだがやがて晴れてきそうなので、午前中は花掬いでカミキリムシを採ることにしよう。ニシキキンカメムシは午後に見ることに。

まずは、川沿いの斜面にあるカエデ並木から。花は盛りを過ぎたようで、ちょっと頼りないがとにかく掬ってみる。

盛りを過ぎていると、ちょっと掬っただけで花がたくさん網に入る。


ヒナルリハナカミキリ


キバネニセハムシハナカミキリ


ヒメクロトラカミキリ

毎年おなじみの顔ぶれは真っ先に入るのだが、その先が続かない。さらに、虫の飛来状況もあまり良くないようで、初回以降は虫の入りが悪くなる。

このままここで掬っていても面白くないので、場所を移動することにする。ただ、昨年のように林道をひたすら歩くことは単なる時間の浪費になる。ここは、昨年通過して後悔したウワミズザクラへ行くことにしよう。

舗装道路脇に咲くウワミズザクラ。昨年と同じく花の盛りで、虫が飛び回っているのが見える。さっそく、荷物を置いて長竿を繰り出す。

明らかに、先ほどとは手ごたえが違う。


ムラサキツヤハナムグリ


アオハナムグリ


ヒラタハナムグリ


ミドリオオキスイ

昨年、この花を素通りしたのがいかにもったいないことだったか思い知らされる。

さらに、そのすぐ近くに満開のカエデが咲いてることに気づき、ウワミズザクラに虫が戻る間に掬ってみることに。


ナガバヒメハナカミキリ♀


ニセヨコモンヒメハナカミキリ♀


ピックニセハムシハナカミキリ

花を掬っている間にも、観光客がそばを横切り、車も次々と往来する。家族連れ、学生グループ、若者カップル、老夫婦、・・・・。どんなに奇異の目で見られても、変人扱いされてからかわれても、悲しさも、怒りも、不思議とこみ上げてこない。この奥多摩の地に降り立てば、純粋に自然との対話に集中できるようだ。

やがて、薄雲の間から太陽が顔を出す。


ミヤマカラスアゲハ

気温の上昇とともに、チョウの活動も活発になっていく。

このままの調子で行けば、花掬いの黄金時間にはきっとヒゲナガコバネカミキリ類も訪れるに違いない。

しかし、厄介なことに昼前なのに風が吹き始め、だんだん強くなる。いつもは昼過ぎから吹くのだが、天気の変わり目ということで早い時間から空気が動き始めているのだろう。

ガードレールに静止するトガリバアカネトラカミキリ。虫も風が出てくるとなかなか飛び立たないのだろう。凪(なぎ)の訪れを待って花を掬ってみるが、虫の数は極めて少ない。

正午を過ぎると、風はずっと吹き続けて凪の時間がほとんどなくなった。もうこれ以上、ここで粘っていても仕方が無いだろう。

そろそろニシキキンカメムシを探しに行こうかと思ったが、ふと、1本の大きなカエデの木の存在を思い出した。

集落を一望できる位置に生えていて、何年か前に一度だけ掬ったことがある。あの時はキバネニセハムシハナカミキリがやたら網に入った記憶があるが、畑と森の境界という、明るく開けた場所に生えていることから、原生林よりも二次林に多いとされるセスジヒメハナカミキリが好みそう。ということで、来た道を引き返して、そのカエデの元へ向かう。

・・

林縁に生える大きなカエデ。花は盛りをやや過ぎたくらいだが、川沿いの斜面に生えたカエデよりははるかに良い。午前中からここに張り付いて掬うのも良かったかなと思いつつ、長竿を伸ばして軽く掬う。


キンケトラカミキリ

花掬いでは初めて見た。


トゲヒゲトラカミキリ

植林のそばではいくらでも湧いている。

続いて、残りの部分を掬っていく。

網の中を覗き込むと、ピドニア(ヒメハナカミキリ属)が歩いているのが真っ先に目に入った。今まで奥多摩で採集したことがあるどのピドニアとも、斑紋が違う。これは、そうだ、あれだ、間違いない・・・。


セスジヒメハナカミキリ♂

8年目にして、ようやく見つけることができた。林道の花掬いでコトヒメハナやトサヒメハナと一緒に採れた記録があるけれど、やっぱり人の手が入った場所で探す方が順当なのだろう。

さらに追加を狙って網を振り続けると・・・。

やった、今度は♀が入った。でも、かつて野外調査地で得たセスジヒメハナの♀とはだいぶ斑紋が違うような・・・。

(帰宅後に調べてみると、トサヒメハナ♀だった。本来の生息環境とは違うはずだが・・・。)

その後もしばらく間隔をおいて凪の時を狙って掬ってみたが、追加は得られなかった。

風はますます強くなるので、もう花掬いはおしまい。いよいよ、ニシキキンカメムシを探しに行くことにしよう。


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