奥多摩:花の心、人知らず

2009.May.16

奥多摩で5月といえば、新緑の季節であり、花の季節である。若葉には多くのハムシ、オトシブミ、ゾウムシが集まり、カエデ、ウワミズザクラ、ウツギ類、ガクウツギ、ミズキなど、カミキリムシが集まる花が、麓から山頂へと順番に咲いていく。梅雨で天候不順が続く6月よりも、活気に満ちあふれた月である。

こんな楽しい5月が、実はもっとも調査不足だったりする。研究室時代にちょうど繁忙期であったことがその大きな理由。社会人になってようやく解き放たれた昨年はその穴を埋めるべく、横浜で行われていた新人研修のついでに3回も通った。

今年は研修がないためずっと神戸にいることになるが、大型連休中に一度奥多摩に戻ったら、また行きたくなってしまった。天気予報では雨となっていたが、独自の天気予報では「日中は曇りで踏みとどまり、夕方に雨となる」。気温が低いのが不安材料ではあるが、昨年掬ったウワミズザクラの大木なら大丈夫だろう。


仕事が終わってすぐに帰宅し、新幹線と電車を乗り継いで、金曜から土曜に変わる頃、奥多摩駅に到着。


キンイロキリガ

灯火めぐりよりも体力温存を優先して、この魅力的な模様の鱗翅目だけ撮影して就寝。

翌朝、5時半起床。いつもの灯火ポイントへ蛾像収集に行くが、期待に反して常連ばかりだった始発バスに乗って、いつもの場所を目指す。

前回は満開だった八重桜も、すでに散っていた。10日という月日の速さを感じる瞬間である。


谷の様子

トチノキが2本生えていて例年なら1週間の差で開花するのだが、今年はほぼ同時に咲いている。珍しいこともあるものだ(実は、この後の出来事を暗示しているとは知るよしもない)。

気温は9.5℃ (7:15)。空は薄曇りで、じっとしていると肌寒い。幸い、雨はしばらく降らないようだ。

ここまで来てしまったからには、先へ進むしかない。ウワミズザクラの大木を目指して、林道をひたすら歩く。今日こそは、苦手のヒゲナガコバネカミキリ類を野外で見たい。

途中、あの場所に立ち止まり、7年前の出来事を思い出す。

いつもと同じように、何かをつぶやいてから歩き出した。

あの頃に比べて、林道にはフェンスがやたらと増えた。そのせいで、ハナカミキリが集まる花が激減してしまったのだ。通行者の安全確保のためなのだろうが、過去には倒木が貫通してたり、崖が丸ごと崩れ落ちていたこともある。林道なんだから、常識ある人ならそれくらい覚悟して通行するものだが・・・。

それでも、植物は案外たくましい。伐採されてフェンスで覆われても、突き破って花を咲かせる。


ウツギ

どちらかといえばハナバチ類に人気。


ガクウツギ

ピドニア類に絶大な人気がある。

でも、今日はウワミズザクラ大木に到達するまでは掬わない。長竿も組み立てず、ひたすら歩く。

やがて、ウワミズザクラの大木が見えてきた。でも、なんだか様子が違う・・・。

なんと、すでに花が散っていた。そんな、バカな・・・。残っているのは茶色くなった花穂のみ。

参考までに、昨年5月17日はこんな感じ。

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あの時は満開だったのに・・・・。

遠く神戸の地から天気はバッチリ読めたのに、花の心は読めなかった。すっかり意気消沈して、林道の先へと進む。上の方で咲き残っている株があることを期待して。

途中、小規模な土場を発見。樹種はミズナラとツガで、かなり新しい。でも、この時期はまだまだ。来月以降に期待。それよりも、注目したのは脇に生えているヤマハンノキ。

ひこばえが1本だけ伸びている。

この食べ方、見たことあるぞ・・・。


ミドリシジミ幼虫

やはり、予想通り。奥多摩の山奥にもいるとは知らなかった。

さらに、少し上にある枝をたぐり寄せて調べると、巣を発見。

ここにも、弱齢幼虫がいた。ひとまず、奥多摩自己初の虫が採れたことで、一安心。花を求めて、林道をさらに進む。

しばらく進むと、開けた場所にちょっと良さそうな木を発見。


チドリノキ

この花と葉からは連想しにくいが、これでもカエデの仲間である。

長竿に網を取り付けて、さっそく掬ってみるが、虫がほとんど入らない。花もほぼ終わっているので仕方が無いか。

さらに進むと、樹冠から飛び出たカエデを発見。

花は盛りを過ぎてるが、虫は飛んでるのでまあまあ良さそう。

掬ってみると、甲虫がわりと入った。


クビナガムシ

これがもっとも個体数多い。


ピックニセハムシハナカミキリ

カエデ掬いの常連。


ナガバヒメハナカミキリ♀


フタオビヒメハナカミキリ

ピドニア類は曇天であれば様々な花で常連となる。

そうこうしているうちに、特に良い花も見つからないまま林道の終点に到着。車で行けるのはここまでだが、よく見ると徒歩道がついている。特にアテもないので、この先に何があるか見てみよう。

以前に一度足を踏み入れた際には、進むほど崩壊していくのですぐ引き返した。今回は踏み跡がいつになく明瞭で、歩いても崩れない。

崩壊地らしく、ヤマハンノキの幼木が群生する。


ルリハムシ

若葉に無数にいた。

しばらく進むと、山肌に沿って帯状に平らな場所が続くようになる。おそらく、昔はここにも林道が伸びていたのだろう。

やがて、広場に到着。ここが本当の林道終点なのだろう。

終点から少し歩くと、沢に出る。

石を積み上げた堰があるところを見ると、昔ここでワサビ栽培をしていた人がいたのかもしれない。この先に進んでも特にやることはないので、引き返す。

途中、適当にスウィーピングをしながら林道跡まで戻る。


ドロハマキチョッキリ

高尾山周辺の個体は藍色だが、奥多摩では緑色になるらしい。

林道まで戻ってきた。天気は確実に下り坂のようだ。

ズボンにマダニがいたので爪で潰す。ヤブこぎしてないのに付着するとは、かなりの密度で生息しているのだろう。

単に林道を引き返すだけではもったいないので、ビーティングとスウィーピングを適度にやっていくことにする。

適度に粘りつつ、雨が降らないうちに集落まで戻ろう。

枯枝を叩き、花を掬って歩いていくが、全部を紹介していては時間が足りない。めぼしい成果があったところだけを紹介。

枯葉にしては妙だなと思い、ひっくり返す・・・。


テングアツバ

この枯葉模様、実に見事。

斜面下に見えるミズナラ若木。なんとなく気になったので降りてみる。

日陰の部分に、見覚えのある巣を発見。


オオミドリシジミ幼虫

こんなところにも分布しているとは驚き。

登りの時は気づかなかったカエデの一種

花はそろそろ散りそうだが、一応掬ってみる。


ナガバヒメハナカミキリ♂


キベリクロヒメハナカミキリ♂


ヒナルリハナカミキリ♂

案外、良い花だったようだ。


キブシ

以前、ここの枯枝を持ち帰ったらトワダムモンメダカカミキリが出た。本当はコジマヒゲナガコバネカミキリが欲しかったのだが・・・。

さて、今日はどうだろうか。網を構え、塩ビ管で一撃。

何かが落ちた。


コジマヒゲナガコバネカミキリ♀

ようやく、奥多摩でも見つけることができた。

最後に、登りの時は敢えてスルーしたミツバウツギ。コジマを見つけた勢いで、コボトケも見つけてしまおう。

マルハナバチが来ているので集中力はそこそこあるのかも。

まずは林道上からビーティングネットを構えて、叩く。


ヒラタハナムグリ

今日初めて見た。


ウスモンオトシブミ

いると必ず採るオトシブミである。

続いて、段差を降りて下からも叩く。


コボトケヒゲナガコバネカミキリ♀

これは定石通り。奥多摩野外初。

マダニまで落ちてきたのにはビックリ。もう、奥多摩は林道沿いでも安心して歩けない。

舗装道路に戻ってきたのが、15時。すでに小雨が降り始めていた。

気温は12℃。ウワミズザクラさえ咲いてたら・・・。

前回わりと虫がいた舗装道路沿いのウワミズザクラを見に行ってみた。

すでに花は散っていて、茶色い花穂が残るのみ。ということは、この株と林道の大木が同時に開花したということか。谷のトチノキと同じく、異なる時期に咲くはずなのが、今年はほぼ同時に咲いてしまうとは、おかしな天候である。

集落に入る頃には、本降りとなる。ミズキが満開だったが、林道沿いではもう少し先のことになる。

奥多摩に通い始めて8年目、天気はある程度読めるようにはなったが、花の心はまだまだ読めない。


今回は目当てのウワミズザクラがすでに散っていて、当初の予定が大幅に狂ってしまったけど、ミドリシジミやオオミドリシジミの幼虫を見つけたり、コジマヒゲナガコバネカミキリをようやく見つけたりして、それなりに収穫はあったので、まあ、いいか。

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