2009.Oct.11
日本一美しいカメムシといわれる、ニシキキンカメムシ。奥多摩は模式産地であるとともに、分布東限となっている。国内では九州、四国、本州に点々と生息地が知られており、ほぼ毎年のように観察されている場所も存在するようだが、奥多摩での採集例はというと、
原記載(Esaki, 1935)、堀口(1997)、八木下(2003)
過去75年でわずかに3例しかないのである。
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そんなニシキキンカメムシとの最初の出会いは、今から2年前の11月のこと。越冬場所を求めて徘徊中に、不幸にも交通事故に遭った幼虫であった。翌年の11月には今まで知られていないツゲの群落を発見し、今年の5月には羽化直後の新鮮な羽化殻を複数見つけるに至った。幻とまで言われたカメムシが、現在もなお生き続けているのである。
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繁殖場所が判明したからには、適切なタイミングで訪れれば生きた個体に遭遇できるはず。越冬明けの幼虫が羽化して飛び去るまでの期間は相当短いらしく、しかもツゲに戻ってくるとは限らないようなので、ツゲ群落にいる越冬前の幼虫を探すのが最も確実であろう。奥多摩の斜面徘徊に耐える強靭な足腰を持つだけでなく不思議な引きの強さを持つ昆研の後輩ペプチドグリカンA氏と連絡を取り、錦の輝きを夢見て、いざ奥多摩へ。
飲み会明けの土曜日の昼前、荷物を準備して神戸を出発。片道6時間半かかるので、どうしても前夜から現地入りしておかねばならない。
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15時40分、青梅駅で乗り換え待ち。これから向かう先には怪しい雲が広がっている。
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16時30分、奥多摩駅に到着。路面は濡れており、地元の人の話では昼に雷雨だったそうだ。
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バスの発車時刻までに食糧調達へ。駅前にある行きつけの店は開店だけでなく閉店も奥多摩で一番早いので、すぐ近くにある行きつけのスーパーで食糧を買い込む。ニシキキンカメムシが見事採れた際に食べる赤飯おにぎりも忘れずに。
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17時30分、バスの終着点に到着。谷底から霧が立ち上り、最奥の集落は闇に包まれていく。
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灯火ポイントに到着する頃には、かなり暗くなっていた。
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気温は10℃ (17:44)。この時期としては少し低い。天気予報ではこの後に雨が降るらしいので、荷物を置いて、さっそく灯火を見に行こう。
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自動販売機はすでに秋模様で、温かい飲み物が復活している。まだ時間が早いこともあり、虫の飛来は少ない。
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それでも丹念に探してみると、見慣れない直翅目がとまっていた。動きは鈍いのでゆっくりと撮影し、採集して持ち帰ることに(帰宅後にムツセモンササキリモドキと判明)
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そうこうしているうちに、雨が降り出す。荷物を置いた場所まではちょっと遠いので、とりあえず軒先に避難。薄着で来てしまったので一刻も早く上着を取りに戻りたいが、無理をして雨に濡れると余計に体力を消耗してしまう。いきなり降りだしたのだから、そう長くは降らないはず。何事も焦らず時を待つ辛抱強さが必要なのだという、奥多摩の神様のメッセージと受け止め、ひたすら待つ。
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待つこと50分、雨がピタリと止んだ。急ぎ足で荷物のところまで戻り、昆研パーカー2008版を着る。
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気温は10℃ (19:03)。思ったより気温が低下していない。空を見上げると、山の合間に星がまたたいている。さあ、これからが灯火採集の本番だ。
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数ある灯火を順番に見ていくと小さい虫が飛び始め、徐々に大きな虫も飛び回るようになっていく。
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オビアツバ
意外と小さく、ベニシジミくらい。
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ガガンボモドキの一種
今までも灯火に来ていたのかもしれないが、全く気づいていなかった。
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キマダラオオナミシャク
ナミシャクの中では大型で、ヒメアカタテハくらい。
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ヒメヤママユ
秋が深まっていくことを実感する。
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そして、今晩の一番のお気に入りはこちら。
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電信柱にひっそりと止まっていた。その渋い姿から、カトカラ(Catocala)ではないかと気づく。
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地面に落としてみると、黄色い後翅が見えた。今までほとんど出会ったことがないので、珍種の期待を抱きつつ持ち帰ることに。
(帰宅後、ゴマシオキシタバというブナ帯に多い種と判明)
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時刻は21時を回り、気温は8℃に低下。虫の飛来も一気に減ったので、そろそろ潮時。寝袋を広げ、明日に備えて眠りについた。
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