人工島:カミキリムシの影

2009.Feb.8

摩耶山から南に5km、神戸港に浮かぶ島がある。六甲山地の土を埋め立てて作られた人工の島、ポートアイランド。1981年に北半分が完成してから現在まで、船の玄関口としての役割を果たしている。港湾施設、集合住宅、先端医療施設、大学キャンパス、広大な更地など、高度に人工的な空間が島の大部分を占めている。

島の中のオアシスとして存在する、いくつかの緑地公園。人々に安らぎを与える目的で作られた空間であるが、樹木草本、土壌があれば、昆虫も必ず存在する。この島は海外との接点でもあることから、非常に興味深い。今回は下見も兼ねて、材採集へ。


午前11時半、ポートライナーに乗って海を越える。よく晴れた日曜日、六甲山系も遠くまで見渡せる。

島の地面はほとんどがアスファルトに覆われ、土があるのはほとんどが街路樹の根元。

埋め立て完了後の更地から、高度に都市化された街へ。漫画に描かれる近未来都市を思わせる。

そんな景色を眼下に眺めながら、公園の入り口に到着。

時折吹く風が冷たいものの、日向にいればとても暖かい。さて、のどかな休日を楽しむ一般の人々に紛れて、下見を始めよう。


公園の利用案内

普通の公園であれば、必ず次のようなことが決まり文句として書かれている。

「虫や草花をとらないようにしましょう」

だが、ここの看板にはそんなことは書かれていない。管理担当者が「こんな人工島に虫などいない」と考えているからだろうか。

しかし、そんなことはない。


クマゼミの抜け殻


イラガ類の繭(ヒロヘリアオイラガ?)

一般人にもわかる虫の生息痕跡はすぐにみつかった。さて、今回の目的であるカミキリムシはどうだろうか。

すぐに目がとまったのが、このフジ棚。薄紫色の花を楽しむための定番の施設であるが、枯枝が常に発生するのでなかなか有望なのである。例えば、兵庫県内が東限であるチャゴマフカミキリ(移入種)も街中の公園のフジ棚から採集される例が多い。

視線を下に落とし、落ち枝を拾い上げ、ポキッと折ってみる。

表面には羽化脱出孔、折れ口には食痕。さっそく、カミキリムシの生息痕跡を発見。

素手で解体を進めると、幼虫の姿を発見フトカミキリ亜科ということはわかったが、それ以上は羽化脱出までのお楽しみ。

続いて拾った枯枝には、大きめの孔。チャゴマフカミキリがここにも生息しているのだろうか。

さらに、細い枯枝も無視できない。鉛筆ほどの太さの枝にもちゃんと幼虫が入っている。

落ちている枯れ枝にはほとんど食痕がある。ものすごい密度で生息しているようだ。

一方、隣に生えてるクスノキの枯枝にはほとんど食痕が見当たらない。

黙々と枯れ枝を拾ってポキポキする人間を、不思議そうにみつめるハト。エサをねだって当分まとわりついてきたが、やがて諦めて去っていった。

40分ほどで枝拾いは飽きたので、移動することにする。

公園内にはサクラも植えられている。リンゴカミキリの幼虫を探して枝先を眺めてまわるが、斜めカットはみつけることができなかった。

かわりに、このマメ科の木で別のカミキリを発見。

樹皮下に走る、見覚えのある食痕。

繊維状の木屑で材部への進入孔に栓をしている。ヒメカミキリ属(Cercium)の幼虫の特徴だ。テツイロヒメ、ヒゲナガヒメ、ヨコヤマヒメあたりだろうか。大事に持ち帰ることにする。

その後、公園内を一通り徘徊して樹木相を記憶する。クスノキ、タブノキ、ヤマモモ、ヤブツバキ、ウバメガシなど、暖地の樹木が目立つ。

林内には放置された倒木もそこそこ見られたが、めぼしい成果はなかったので今回は省略。

風が強くなってきたので、14時前に公園を離れる。

仕事現場を遠くに眺めながら、人工島を後にした。


人工の林でありながら、意外とカミキリムシの影が濃いことが確認できた。立ち枯れや、生木の部分枯れなどもあったので、初夏になったら仕事帰りに寄り道して夜間巡回をするのが楽しみである。

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