2009.Dec.12
先週の紀伊半島での修行で心の迷いがほぼ消え去ったのと同時に、ルリクワガタ類の材割り採集の面白さを思い出してしまった。思い起こせば、初めてルリクワガタ類材採集をしたのは2003年早春の奥多摩。当時は日本産ルリクワガタ属は4種+4亜種、外部形態で識別可能という、今から考えれば実に明解な状況であった。
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その後、2007~2008年の分類学的再検討で状況は一変、2009年現在で日本産ルリクワガタ属は10種+5亜種となる。和名改称騒動や種・亜種の分類根拠への疑問など、いろいろ話題となった出来事として歴史に残ることだろう。
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さて、今の自分の射程圏内にいる種類は次のとおり(青字は既採集)。
ルリ、キンキコルリ、シコクコルリ、ニシコルリ、キイニセコルリ、シコクニセコルリ
残るは3種、ぜひとも異動前にできるだけ見つけておきたいところである。
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ただ、雪が積もっていると採集意欲が急激に失われてしまうので、ニシコルリはひとまず置いておき、徳島県に狙いを定めた。狙うは、シコクコルリクワガタ、シコクニセコルリクワガタである。
今回の目的地は、シコクコルリクワガタの最も有名な公式記録地点。当初の予定では金曜夜に四国上陸を果たし、レンタカーで山麓まで行くはずだった。だが、突発的業務に対応している間に高速バスの発車時刻は過ぎてしまった。昨年のオオトラカミキリと同様、有名産地を目指すとこうなることが多い。車中泊よりも体力が回復できて都合が良い上に、あの時と同じ状況が揃ったことで狙い通り採集できるはずだと開き直り、翌日土曜日の始発バスに乗り、12時間遅れで四国上陸を果たす。
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軽快に車を走らせること1時間半、今回の目的地に到着。
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雪こそ積もっていないが、完全に冬枯れの景色が広がる。
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時間も限られているのでさっさと身支度を整え、林道を歩いてポイントを探る。
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林道脇の小さな枯れ沢から、斜面にとりつく。ひとまず、生息を確かめるため朽木を1本拾ってみる。
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地面と接していた面に産卵マークを発見。
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削ってみると幼虫も出現。シコクコルリかシコクニセコルリかは判別できないが、とりあえず生息を確認できたので、本格的に探索開始。
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奥多摩に似て不気味なほど下草がない斜面だが、樹種はミズナラではなくカバノキ科が主体で、細い木がかなり多いところがだいぶ異なる。おそらく風通しが緩やかで乾燥もそれほどきつくなく、ルリクワガタ類の生息には適していると見受けられる。
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良い具合に朽ちている材もかなり多い。
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裏返すと、たいてい産卵マークがついている。
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「枯枝の多くが良好な朽木へと変わる環境」というものは確かに存在し、それを地形図や現地視察で見極めることがルリクワガタ採集の面白さでもある。
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これだけ良好な材が多ければ成虫採集も簡単だろうと思い、斜面を”面で攻めるように”徘徊して朽木を拾って削っていくが、実際はそう簡単ではなかった。
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出てくるのは、幼虫ばかり。
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オオトラフハナムグリ類の幼虫も稀に出現。ここのはヒロシマオオトラフハナムグリになるらしい。飼育は簡単なので持ち帰ることにする。
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甲虫で科不明の幼虫
アオカミキリモドキ? アオハムシダマシ? よくわからないので、これも持ち帰り。
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あとは、産卵マークがびっしりの材を削っていくとコメツキムシ幼虫だけが出てくることも。コルリクワガタ類が多い環境ということは、天敵もお見通しということか。
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あまりにも幼虫ばかり出てくるので、少し考えてみる。
「この斜面では温度が足りず、秋には成虫になれないのでは?」
もしそうならば、もう少しだけ日当たりの良い斜面に移動した方が良さそうだ。林道を目指して斜面を下りながらも、目についた材を削っていく。
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林道まであと一歩というところの材を何気なく削った時のことだった。ナタで剥がした材部の下に、明らかに蛹室らしき空間が見えた。
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衝撃で部屋の主は飛んでいってしまったようだ。よく見ると羽化殻の残骸らしきものもあり、成虫がいた可能性が高い。直前のナタ動作を思い出し、飛ぶ方向をイメージしながら周辺視野を一気に解放する。
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蛹室から15cmほど離れた場所で虫影の反応があった。
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腹部が橙色で、後胸腹板もうっすらと赤い、ということは、シコクコルリクワガタ♀。探索開始から1時間10分、ようやく本日初の成虫にお目にかかれた。
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ちなみに、材はこんな感じ。今まで削っていたものと大差ないのだが、成虫が出てきたということは、やはり場所による温度の差があるということなのだろうか。
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とりあえず林道に戻り、今度は少し日当たりが良い斜面に登る。ところが、これは時間の無駄だった。
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見つけた産卵マークは、わずか1個。林床はかなり乾燥していて、材もパサパサに乾いたものばかり。早々と見切りをつけて一気に林道へと戻る。
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先ほどの斜面に戻っても、結果はおそらく先ほどと変わらない。もうひとつの狙いであるシコクニセコルリクワガタを探すには、もう少し標高を上げる必要があるようだ。そこで、第1探索ポイントのすぐ脇にある水の流れる沢筋を登ってみることにする。
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適当なところで脇道にそれて、朽木を拾っていく。
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コケむした朽木の端には、産卵マークがびっしり。今度は成虫を飛ばさないように、ナタで慎重に削っていく。
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成虫が出てきた。今度もメスだ。さっそく、裏返してみる。
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これも後胸腹板が赤みを帯びている。シコクコルリクワガタ、本日2匹目。
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さらに材を削っていくが、成虫も幼虫もまったく出てこない。もしかしてと思っていたら、案の定コメツキムシ幼虫が出現。いったい、何匹食べたのだろうか・・・。
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シコクコルリが出てきたということは、もっと標高を上げなければならない。沢沿いの道に戻り、さらに奥へと進む。
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沢が二手に分かれたところで道から外れ、枯れ沢を登っていく。ルリクワガタ類の気配があちこちから漂ってくるようなエリアである。
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適当な倒木を割ってみると、ツノクロツヤムシが眠っていた。8月の特命の四国上陸以来、4ヶ月ぶりの再会となる。これは、もしかしたら良い兆候なのかもしれない。
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探索再開から間もなく、絶好の状態の材を発見。すでに産卵マークが見えているが、見えなくとも削るべき材だ。はやる気持ちをおさえ、慎重にナタを入れる。
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3発目で、成虫を割り当てる。
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オスの場合、腹面での簡易識別は通用しない(色彩がだいぶ違うらしいが、この時点ではそれを知らない)。コルリとニセコルリ、どちらだろうか・・・。
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前胸前角の形状、上翅の横じわのきめこまかさ、これはまさしく、シコクニセコルリクワガタ♂
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探索開始から2時間半、ようやく2種目に出会うことができた。一時はどうなることかと思ったが、粘った甲斐があった。
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さらに、材の残りを慎重に削っていく。
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メスが出現。漆黒の後胸腹板は、シコクニセコルリクワガタである。
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続いて、シコクコルリクワガタ♂が裏返しで出現。
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色が良く出ていないが、これもシコクニセコルリクワガタ。この材はコメツキムシ幼虫の捕食を免れた個体が多いようだ。
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この勢いで、もっと個体数を稼ごうと、さらに沢沿いを徘徊する。
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だが、出てくるのは幼虫ばかり。探し方がいまひとつつかめていないのだろうか・・・。
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クチキウマの一種
地域ごとに種分化しているので、迷わず持ち帰り。四国だから「シコククチキウマ」だろうと思っていたが、何種類かに細分化されていることを帰宅後に知る。
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この後、だいぶ探したものの成虫の追加は得られず。帰途につく時間も迫ってきたので、車の方へ戻る。
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最後に、林道より下の沢で少しだけ探索。狙いは、まだ見ぬシコクコルリクワガタのオスだ。
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ところが、朽木はあるものの朽ち具合はいまひとつで、産卵マークすらほとんどみかけない。
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唯一見つけた材にも、幼虫がわずかしか入っていなかった。時間ももうギリギリなので、飼育にかけてみるしかないか・・・。
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せっかく四国まで来たので、カミキリ材も1本くらい持ち帰ろうと思い、沢沿いに落ちていたキノコに覆われたカンバ類の枯枝を拾う。
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樹皮を触って、怪しい場所を削ってみると幼虫が出現。体長1cmくらいの小さな個体である。フトカミキリ亜科ということは一目瞭然だが、その先は不明。紙テープで補修して、大事に持ち帰る。
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6時間余りに及ぶ探索を終え、16時20分に林道を後にする。空は雲に覆われ霧雨が降り始めていたが、もう後は帰るだけなので心配ない。狙いのシコクコルリとシコクニセコルリが採れた満足感とともに、夕暮れが迫る徳島市内へと車を走らせていった。
有名産地ということで昨年と同じく12時間の足止めを食ったが、狙っていた2種のルリクワガタ類が見つかって満足である。シコクニセコルリクワガタは雌雄とも得ることができたが、シコクコルリクワガタは残念ながらメスだけしか割り出せなかった。持ち帰った幼虫が無事に成長してくれることを願うばかりである。
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