秋風に舞う大陸の蛍

2009.Sep.19-23


2日目 9月20日

8時、起床。青空に浮かぶ雲は、大陸からの風で次々と運ばれていく。

今日は昆研の先輩であるH氏にフィールドを案内してもらう予定だ。それは島へ旅立つ少し前のこと、久々に氏から連絡があり、偶然にも同時期に帰省でこの島に滞在するということなので、現役時代にはできなかった採集行が急遽実現することになったのだ。

約束の8時半頃、待ち合わせ場所にH氏が現れる。車に同乗させてもらい、登山口へと向かう。

砂利道を進んで行くと、その先には登山口があり、国内有数の照葉樹林が広がっているという。

もはや指定席となっているという駐車スペースに車を停め、さっそく登山開始。

登り始めてすぐ、イスノキやスダジイの巨木が次々と出迎える。9歳の年齢差があるものの、脚力はわずかにH氏が上回る。初めて見る環境を体感しつつも、遅れを取らぬよう淡々と歩いていく。

自然更新による倒木はあちこちにあるのだが、二人ともそれには眼もくれない。

やがて照葉樹林が途切れ、植林地帯を突き進む。

しばらくすると、再び照葉樹林に戻る。ここで、採集開始。狙うものは、アレしかない。同じカミキリ屋同士、密かなライバル心を胸に、二手に分かれる。

狙うは、こんな感じの枯葉。まだ秋が深まっていないため、物件の数は少ない。

叩き網を忍ばせ、一撃。


コゲチャサビカミキリ

実は、野外では初遭遇だったりする。だが、狙いはこれではない。

枯葉を求めて徘徊するが、思うように見つからず。探索に夢中になるあまり、日光浴中のツシママムシを知らずに踏みつけて、瞬時に飛び退いてかろうじて難を逃れる。どうも乾燥気味なので、湿度を求めてちょっと眼先を変える。

林床に横たわる、アオキの新しい枯枝。あまり良さそうには見えないが、この付近では最優良物件。叩き網を回しこんで、叩く。

いかにも美味しくなさそうな枯葉が散らばったが、明らかに違う落下音も聞こえていた。


ツシマセダカコブヤハズカミキリ♀

対馬に来て、なんとか採りたいと思っていたカミキリムシ。まさか、こんなに早くに出会えるとは・・・。関西の厳しい環境のセダカを見慣れていたので、異様に大きく感じる。

H氏の状況はどうかと思って集合場所に戻ってみると、やはり同じくらいの個体を既に得ていた。さすが、「昆研の奥多摩四天王」の上に立つ存在。

互角の結果にひと安心したところで、せっかくなので山頂を目指す。

11時半、山頂に到着。右手を見ると、水平線の手前に複雑な形をした海岸線が広がる。

左手には、昨夜アキマドボタルを見た場所があんなに小さく見える。

そして、正面を見下ろすと、植林に挟まれた照葉樹林が広がる。緑の色合いの違いにより、両者の境界は歴然としている。特別保護地区でなければ、あの山麓部の林は失われていたのかもしれない。

H氏のご実家からのお弁当をいただいた後、次なる場所へ向けて山を降りる。

次の場所は、先ほどとはまったく違う伐採跡地。最近になって、特殊な昆虫が記録されているという。

その姿は見られなかったが、同じ島内でも環境が全く異なることを実感。

このエリアでは久しく目撃例がないらしいが、地道な調査は続いている。自動撮影されないように写真を撮ってから、次の場所へ向かう。

車を走らせ、とある岬へ。確か、迷蝶の記録が多い場所だったか。

だが、今回興味を持ったのはそれではない。

最近その存在が明らかになった、怪しいスカシバガ。その蛹殻、かもしれない。

虫エイ採集は未経験というH氏の前で実演。さて、何が羽化してくることやら。

夕方、H氏のご実家へ。ご両親にも温かく迎えていただき、夕ご飯をごちそうに。体力を回復したところで、灯火めぐりへ。H氏はご両親と過ごすということなので、ここでお別れ。今日一日、どうもありがとうございました。

別れ際、H氏から1枚の音楽CDを渡された。現役時代、昆研で夏合宿に行った時のものだという。音楽には興味がない私だが、車で出発する際にさっそくかけてみた。

1990年代後半の青春が詰まっていた・・・。

さて、灯火めぐり。

H氏に教わったエリアに車で向かう途中、異様に明るい自販機を発見。速度を落として近づくと、丸い影がいくつも転がっているのが眼に止まった。

「あの大きさ、もしかしたら、アレかもしれない」


ヒメダイコクコガネ♂


ヒメダイコクコガネ♀

これも、日本では対馬だけに分布する大陸由来の糞虫。

オスにはこのような立派な角がある。

トラップ採集を考えていたのだが、もうその必要はなくなった。

H氏にさっそく報告すると、H家の網戸にも1匹飛来しているという。今夜はちょうど、本種が活発に飛び回る条件が揃ったのだろう。

時折この自販機に戻ってきて飛来個体を追加しつつ、灯火めぐりを継続。


ヤママユガ

九州のものと同亜種に分類されているので、若干違うように見えるのは気のせいかもしれない。


ツシマヒラタクワガタ♀

対馬の亜種はオスの大アゴが長くなることで有名だが、メスでは残念ながら違いがわからない・・・。


ツシマカブリモドキ

自販機の脇を歩いて通り過ぎようとしたところを見逃さず手づかみ。トラップでたくさん得る予定だったが、とりあえずキープ。(のちにこの判断が重要だったことは、まだ知る由もない)

ヒメダイコクコガネの飛来が終息したところで、いつもの寝場所に移動。H氏の母君に教わったアキマドボタル♀の採集のコツは、また明日実践することにしよう。

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