ユーカリの木の下で

2010.May 2

ユーカリといって連想するものといえば、なんといってもコアラである。オーストラリアから初めて日本に来たのは、1984年のこと。当時、どれほどの子供たちが動物園で歓声をあげたことだろうか。当時1歳だった私には、当然ながら記憶すらないのだが。

コアラに遅れること24年、ある甲虫が日本で初めて確認された。

Trachymela sloanei

日本在来のカメノコハムシ類を連想させるこの虫、コアラと同じくオーストラリア原産で、2008年に大阪府寝屋川市産の個体が初めて記録された。現在はユーカリハムシという和名が与えられており、大阪以外にも京都、東京、千葉で確認されている。

とりあえず今日の狙いは、そのユーカリハムシ。でも、季節の移ろいを感じながら平地をのんびり散策して、心も体もリフレッシュするのが、本当の目的。


12時半、目的地である某公園に到着。昼食を食べ、園内の散策を開始。

爽やかな青空と、若葉がまぶしい。

フジの花も満開で、初夏の到来を実感する。

四季おりおりの花が楽しめる一角では、ツツジが見頃。


吸蜜に訪れたクマバチ

体が大きいので威圧感があるが、実はとてもおとなしい。

スモモは花が終わって実が膨らみつつある。

林床にはシャガの花が満開。シャガかヒメシャガか判別できなかったが、看板はシャガとなっていた。

そうこうしているうちに、事前に情報を得ていたユーカリの木を発見。独特の葉と枝ぶりで、ひときわ高くそびえ立つ。

ハムシとしては珍しい夜行性という、ユーカリハムシ。昼間は樹皮裏に隠れているのを探すのが定番なのだが、近寄ってみると、樹皮はほとんど残っていない。

わずかに残った樹皮裏には、クチキムシ。この後、無数に姿を見ることになる。

浮いた樹皮が無い時は、根元を探すべし。同様な生態を持つスギカミキリと同じ方法を試す。無数のダンゴムシ、ヤスデ、アリ、クモ、ナメクジにもめげず、枯葉をかきわける。

とりあえず、確実にこの場所に生息してるらしい。

さて、周囲を見渡してみると、他にもユーカリの木が生えている。

だが、樹皮などほとんど見当たらない。これは、相当苦戦を強いられそうだ・・・。

公園ならではの隠れ場所も、もちろんチェックする。


オオクチキムシ

だが、ユーカリハムシの姿はない。

しばらく探して、上翅+腹部を発見。このまま徐々にパーツだけ揃うのか。


マルカメムシ

この状況では、もっとも紛らわしい。

40分ほど探索して、一休み。いるとわかっていても、なかなか見つからないものだ。

一服したところで、探索再会。梢を見上げると、前年のものと思われる食痕も結構ある。

幹に眼を移すと、赤い派手な虫。ヨコヅナサシガメの羽化直後個体。これから徐々に漆黒の体に変わっていく。

続いて、根元をかき分けると

ようやく発見、と思ったのも0.5秒だけ。残念ながら前胸と頭部がなく、すでに力尽きた個体であった。

こちらは翅だけ。


ユーカリハムシの食痕

生息は確実なんだけどな・・・。

すべての木を見終わったところで、場所を移動。花壇ではパンジーを始め各種の花が満開。その背後のコデマリとヒトツバタゴは満開にも関わらず人々の注目を浴びていなかった。

日向ぼっこしていたネコがこちらを見つめていたが、カメラを向けたら恥ずかしがってしまった。

第2ポイントに到着。さきほどよりも開けていて、人も多い。そして何より、樹皮がほとんどない。葉に残る食痕は、先ほどの場所よりも多いのだが・・・。

人目を気にしつつ、根元をほじくるが、対象外の虫ばかり。もう、今日は散策だけで満足だと、思い始める。

そんな中、これぞという木を見つけた。

上を見上げると、食痕も多い。

樹皮をそっと剥がすと、何かいる。

ユーカリハムシ、ついに発見。だが、どうも様子がおかしい。翅が開いているのは羽化不全かもと期待したが、つついても全く反応を示さなかった。どうやら樹皮の上から押しつぶされてしまったらしい。

とりあえず、隠れている雰囲気はつかむことができた。残りの樹皮に、せめてもう1匹いてくれないものか・・・。

最後の望みをかけ、樹皮に手を伸ばす。

今度は、生きた個体が樹皮裏に隠れていた。ロウ物質かホコリかは定かではないが、表面が白っぽかった。

大木というイメージが強かったが、こんな細い木にもいるとは。

そして、2匹目のユーカリハムシもすぐに発見された。

樹皮下ではなく、目の前の幹を歩いていたらしい。私の周辺視野では捉えられなかったというのに・・・。

落ち着きなく歩き回るので、しばらく観察することに。

時刻は16時、夜行性のはずだがフライングで動き始めたのか。

どうやら隠れ場所を探しているようだが、その動きが実にどんくさい(注:のろまである)。

どう考えても潜れない隙間にチャレンジしたり、絶好の隙間を見逃したり。触ってもすぐには落下しないし、夜行性でなければすぐに鳥の餌食だろう。

あまりにも時間がかかりそうだったので、最適な場所へワープさせる。しばらく危険を感じてじっとしていたが、やがて隠れ場所を求めて歩きだした。

どうやらここで落ち着いたらしい。

好き嫌いが激しいらしいが、これが好みの種類らしい。時間もちょうど良い頃なので、公園を後にした。


今までは大型連休というと遠征することが多かったが、今までと違った緩やかな時を過ごし、体力も気力も回復することができた。ユーカリハムシは生息の雰囲気だけでも見られればと思っていたが、最後にその姿を見ることができて良かった。存在を認識されて4シーズン目となる2010年、分布や食性変化の有無など、今後とも目が離せない虫のひとつとなるだろう。

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