初めての北の大地

2010.Jul. 26-31


5日目 30日(金)

6時、起床。見慣れぬ風景なのは、昨夜のうちに石狩川の河口まで移動していたから。

砂浜まで出て、石狩湾を臨む。あいにくの天気で、水平線はほとんど見えなかった。

丸一日を採集に費やせるのも、今日が最後。コンビニで朝食を食べた後、トラップ回収のため山に向かう。多少天気が悪くとも、温存した体力で目一杯動くのだ。

7時20分、登山口に到着。あたりは霧に包まれているが、空は明るい。これは、晴れる前兆だ。

7時55分、霧はすっかり晴れた。

気温は、23℃。さて、行くとしよう。

2日目と同じ道を、周辺視野全開で歩いていく。

10mほど歩いたところで、虫影を捉える。


アカガネカミキリ

体力温存した分、調子はかなり良い。


アカハナカミキリ

花にはカミキリムシも飛んできている。この調子なら、お花畑はきっとこの前以上の賑わいは間違いなし。

だが、そう甘くはなかった。白い霧が、山からどんどん降りてくる。

視界30m、完全に覆われてしまった。道端の花にも、虫の姿はほとんどない。鈴の音を最大限にしながら、黙々と登っていく。


ヤナギランのお花畑

「花は盛りに、月は隈無きをのみ見るものかは」

霧の中で見るのも、なかなか幻想的だ。


ヒメシジミ

カミキリムシより身軽らしく、個体数は多い。

8時40分、山頂付近に到着。前回よりも圧倒的に短い時間で登り切った。

気温は低いが湿度は100%、雲の粒子が体中にまとわりつく。

山頂まで行かずに、舗装道路を歩いて下山する。この辺りから、雨が降り始める。

前回見たヤマアジサイを覚えていたので、今日もチェック。


ヨツスジハナカミキリ


クロハナカミキリ


マルガタハナカミキリ

雨でも意外といるものだ。


キタセスジヒメハナカミキリ♂

これだけしっかりと採集し、先へ進む。

今日の一番の目的は、トラップ回収。

まずは、標高の高い第1ポイント

連日の雨で、水深は10cm近くに。

水を除去すると、甲虫の姿が見えてきた。


ヒラタシデムシ

最も個体数が多い。


イシカリクロナガオサムシ

オサムシの中で最優占種。


ヒメクロオサムシ

ようやく、北海道特産種。1個体のみ。


エゾマイマイカブリ?の幼虫

成虫と同じく、怪しい光沢がある。

他には、ハネカクシとゴミムシが少々。かすかに期待していたアイヌキンオサムシは得られず。時期も遅いし、人に言えないくらい少ない設置数では当たり前か。

しばらく下ったところにある、第2ポイント。

ここも、コップには水がたっぷり。


イシカリクロナガオサムシ

第1ポイントよりも個体数が多い。


オオキンナガゴミムシ

角度によっては虹色の金属光沢あり。


トドマツカミキリ

前回の発見といい、地表を徘徊する習性があるのだろうか・・・。

あとは登山口付近までトラップはない。雨が降り続ける中、ビーティングをしながらゆっくりと下山する。


アカガネカミキリ

さすが本場、個体数はかなり多い。かつて日光で苦戦したのが嘘のようだ。

途中からすべてリリースするほど落ちてくる。


ハガタキリバ

枯葉に隠れて夜を待っている鱗翅目が、ビーティングではよく見つかる。


プライヤシリアゲ

これは昼に飛ぶので、単なる雨宿り。


モジツノゼミ

耳のような突起が特徴的。


ドイカミキリ

実は、自己初採集だったりする。

登山口まであと少しという頃に、空が少し明るくなる。

下草には、チョウの姿。


ベニヒカゲ

本州だと高山まで行かないと見られないが、ここでは低山で見られる。

登山口付近の第3ポイントに到着。ここは少し多めにトラップを仕掛けておいた。

1つだけ獣被害を受けたが、あとは無事だった。


ヒメクロオサムシ(左)とエゾアカガネオサムシ(右)

次々とコップの中身をチェックしていくが、顔ぶれはこれまでと変わらない。

林内に近い場所に仕掛けたコップに、ようやく新顔を見つける。


エゾマイマイカブリ

2個体だけだったが、トラップでも採集できて良かった。

そして、最後のコップ。

今までとは全く異なる輝きが、そこにあった。


オオルリオサムシ

北海道特産の美麗オサムシ。今回の遠征で、もっとも採りたかった虫のひとつ。

見る角度によって色合いが変化する。

腹面には、怪しい輝きがある。

この1匹だけで、来た甲斐があった。でも、ちょっとだけ欲を出して、トラップを増設。一晩でどれくらい入るかわからないが、可能性に賭けてみよう。

車に戻った直後、大雨が降り出す。いきなり降り出した雨は、意外と早く止むものなので、待機。

20分後、雨が止んだので車外へ。ビーティングネットだけ持って、最後の悪あがき。

ビーティングは、ただやみくもに叩くだけの偶然に頼った採集と思われがちだが、その極意は、「叩く前に良く観察すること」にある。実践し続けることで、虫が潜む微環境を見抜く能力が養われていき、目視発見能力を高めることにもつながるのだ。


シラホシカミキリ

下草で雨宿り中。

枯枝も叩く前によく見て、虫影を探す。


キッコウモンケシカミキリ

雨が上がるとすぐに活動するらしい。


コエゾゼミ

エゾゼミよりも高標高地に生息する。

目視で何もいないと思ってから、叩く。何か虫が落ちてきたら、まだまだ眼力が足りない証拠。


キスジトラカミキリ

普通種だがわりと好きな種類。


トゲバカミキリ

集中力を欠いた状態では目視発見は困難。


エゾサビカミキリ

同じく、樹皮に溶け込むような渋い姿。


イタヤカミキリ

実は、初の自力採集になる。

一通り叩いたところで、再び雨が降ってきた。路上を徘徊するミヤマクワガタを避難させて、車に戻って下山。

下界に戻ると、山は雲に包まれていた。平地は意外と天気が良いので、もう山に行くのは止めよう。

例の土場。昨日と比べて虫の数は少ない。

ここで、北海道特産の大型カミキリムシの姿を確認したのだが、カメラを取って戻ってきたら消えていた。どこかに隠れているはずと20分ほど探すも、見つからず。なぜ、先に手を出さなかったのか・・・。

すっかり意気消沈してしまい、蓄積した疲労を少しでも緩和するべく、温泉がある方向へ車を走らせる。

温泉に近づいてきた頃、脇道に木が積まれていることに気づき、ちょっと寄り道。


新しい土場

針葉樹を期待していたのだが、ほとんどが広葉樹。


ハンノアオカミキリ

あちこちでキラキラと輝いている。見られるのはすべてメスで、多くが産卵行動をとっていた。


シラホシカミキリ

これが産卵していることからもわかるように、木は新鮮。


シナカミキリ

奥多摩以外では初めて見た。

寄り道の後、温泉に入り、車内で夜を待つ。

ネコとともに夕食を食べ、最後の灯火採集へ。


例のポイント

本日は、羽アリの飛行日。長雨がようやく途切れて、一斉に飛び立ったらしい。これは期待できるかもと、一瞬思った。

しかし、気温は20℃。これでは、大型甲虫の飛来は厳しいか・・・。


オオゾウムシ

この日見つかった、最大の甲虫。最後の灯火でも、ダメか・・・。

日付が変わる前に、例の土場へ赴き採集指令を果たす。本当は、昼間に逃げられたカミキリムシが狙いだったが、見つからず。寝る前にToki氏に結果報告をしたところ、こんな助言が。

「・・・・・・・は昼行性だよー」

そうだったのか・・・。

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