岩湧山:雨中のトラップ採集

2010.May 19, 23

大阪府河内長野市にある、標高897mの山、イワワキサン。山頂付近に広がる「キトラ」と呼ばれる茅場が有名であるが、オサムシ屋とカミキリ屋にとっても、全国区の名前である。

イワワキオサムシ(原名亜種)
Carabus iwawakianus iwawaki anus

イワワキセダカコブヤハズカミキリ
Parechthistatus gibber shibatai

両者のType locality(模式産地)がこの山であり、かつてこの地で採集された個体がHolotype(模式標本)に指定されている。

Type localityだからといって特に個体数が豊富というわけではないのだが、(亜)種の基準となる個体群を手に入れるということは、虫屋の目標のひとつ。そんなわけで、就職で関西に漂着した昆研の後輩2名とともに、トラップ採集へ。


2010 May 19 (トラップ設置)

トラップに仕込むネタは、穀物酢と蛹粉を選択。必要な資材を前日までに買いそろえ、出発。平日ということで、参加者は私のみ。

事前にペプチドグリカンAから情報を得ていた谷に入る。あいにくの天気で雨カッパ着用の完全装備で、奥へと進む。

しばらくして、なかなか雰囲気が良さそうなエリアに出たところで、作業開始。鍬を手に持ち、トラップ製造機に変身して、林内を徘徊する。3ヶ所を選んで、計75個を探しやすいように規則的に配置。エサを仕込んだ後、獣被害を最小限にするために唐辛子粉をふりかける。

設置完了後、来た道を引き返しつつ、気になる場所をチェックして、少しだけ採集。

沢筋に横たわる、コナラの木。登山道からは死角だったが、なんとなく引き寄せられた。この状況、今回の狙いの虫がいるに違いない。

樹皮を剥がすと、狙い通りに幼虫を発見。


イワワキセダカコブヤハズカミキリ幼虫

“天下御免の向こう傷”、間違いない。遠く離れた奥多摩の地にも分布するこの亜種は、ここが模式産地。トラップ回収の際にはこの倒木の1年前をイメージして探索し、ぜひとも成虫の姿を拝みたいところ。

斜面にある、キノコで覆われたコナラの倒木。


セダカテントウダマシ

なかなか良いデザインだったので、逃げられないよう慎重に採集。帰宅後に調べてみたら、紀伊半島特産種らしい。

谷の入り口付近に咲く、ヤブデマリ。ピドニア採集には良い物件として知られている。


チャイロヒメハナカミキリ


フタオビヒメハナカミキリ

お馴染みの種類しか見当たらず、ちょっと残念。

谷を出て、もう1カ所に25個を設置してから帰途につく。4ヶ所で、合計100個のコップを埋めたのだから、

バス停まであと半分というところで、大きい甲虫の姿を前方に発見。


オオオサムシ

交通事故に遭ったオオゾウムシを食べるのに夢中。青色の輝きが美しかったが、光量と技術が不足していてうまく撮影できず。この天気・気温でも活動しているということで、回収日が楽しみだ。


2010 May 23(トラップ回収)

今日も、あいにくの雨。昆研後輩のペプドグリカンA氏とキムキム氏とバス停で合流し、近況報告や虫屋話をしながら、目的地を目指す。

3名とも完全装備で、林の中を進んでいく。このような修行採集にペプチドグリカンA氏は慣れているが、キムキム氏はおそらく初めてなのだろう、足元がちょっと心配。この天気なのでセダカ探索は諦め、トラップを回収して早めに撤収しよう。

第1ポイント、植林と広葉樹林の境目の斜面。荷物を置き、トラップ配置の規則性を説明して、各自コップを回収。

広葉樹林側には、3列×5個の計15個。エサは穀物酢。

雨で希釈されてしまったらしく、虫はあまり入ってない。

植林側には2列×5個の計10個。エサは蛹粉。

こちらはそこそこ入っていた。主な甲虫は、イワワキオサムシ、ヤマトオサムシ、センチコガネ、ヨツボシモンシデムシ。

第2ポイント、広葉樹林が残る尾根筋。1列×25個、エサは蛹粉。3名で進みながら回収。

獣道が近いので、立て続けに5個も獣に引き抜かれた場所も。

「まさに自作自演のゴミ拾い~(笑)」 by ペプチドグリカンA

それでも、被害に遭わなかったコップにはそこそこオサムシが落ちている。>顔ぶれは変わらず、イワワキとヤマト。

こんな珍客もいたりする。沢まで結構あるというのに、よくぞ登ってきたものだ。

第3ポイント、クヌギが多い平坦な広葉樹林。5列×5個、計25個。エサは蛹粉。

ここがもっとも個体数が多かった。今までの顔ぶれにアキタクロナガオサムシが加わる。

残るは1ヶ所、25個のみ。その前に、ちょっとだけ寄り道。

前回、セダカ幼虫を削りだしたコナラ倒木。二人に解説しながら狙いを定め、ナタを一発。

セダカの幼虫はこうやって採集するのだ。

舗装道路に戻り、最後のポイントへ向かう。

途中、ペプチドグリカンA氏が路上徘徊するオオオサムシを発見。防御物質の噴出に注意するようアドバイスを受けつつも、何のためらいもなく素手でつかんだ強者のものとなった。

「うわっ、くっさ~」by キムキム

最後の第4ポイント、広葉樹林の枯れ沢沿いの斜面。1列×25個、左右ジグザグに配置。エサは蛹粉。

顔ぶれは特に変わらなかったので画像は省略。

すべてのトラップを回収したところで、仕分け作業。

左から、アキタクロナガ、ヤマト、イワワキ。これにオオオサムシを加えて、今日はヤコンを除く4種が採集できた。

翅を開いて昇天した個体で、オサムシの特徴を確認。矢印部分の淡色の糸のようなものが、退化した後翅。学園祭で毎年展示される、定番の虫ネタである。

芳香を放つ使用済みコップを川で洗い、ビニール袋で二重に密閉。これでなんとか電車には乗れるはず・・・。

学生時代と変わらぬ修行採集ができるのも、部室で同じ時間を過ごし、同じものを追いかけたからこそ。就職後も縁あって関西で再び一緒になったことだし、これに懲りず、またどこかへ採集に行きましょう。


持ち帰ったイワワキセダカ幼虫は、菌糸カップに投入。そのまま6月が過ぎ、7月に入って間もなくのことだった。

蛹化して、だいぶ色づいているところを発見。

その数日後、無事に成虫となって姿を現した。羽化した3個体は、すべて♀。来年は♂を求めて、もう一度訪れてみよう。

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