2010.Apr.24
摂津国から和泉国に移り住んで3週間余りが過ぎた。新居の周辺は見渡す限り住宅地と田畑が混在する平野となっていて、クヌギやコナラに代表される雑木林ですらほとんど残されていない。神社の林は規模が小さいし、公園はあまりに人工的で、魅力を感じない。
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身近な場所でのフィールドを探すため、空から眺めてみると、住宅地の中に、まるで浮島のように緑が残されているのが見えた。この地を知る数名の方の話やネット上での情報を総合してみると、まあそれなりに通ってみる価値がありそうな印象である。
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ただし、新しいフィールドになるかどうかは実際に歩いてみないとわからない。天気と体調もなんとか回復したところで、まずは現地を訪れて、自分の感覚と一致する環境なのかを確かめてみることにした。
8時半に自転車で出発して、9時ちょうどに目的地に到着。入口には広大なため池が広がっている。
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水面に浮かびながら様子をうかがうカメ。摂津国では在来種と会ったが、ここでは外来種か・・・。
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ため池に沿って小道があるので、それをたどることにする。ゆっくりと歩きながら、どんな樹種が生えているのかを把握していく。
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しばらく進むと、コナラが多く生えているところに出る。
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シロスジカミキリの羽化脱出孔
里山の定番の光景である。
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ミヤマカミキリの穿孔痕
これも定番の光景。夏が楽しみだ。
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里山といえば、平地性ゼフィルス(ミドリシジミ類)。幼虫がいないかどうか、ひこばえを調べてみる。
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これは、違う。ヤママユガ類だろうか。
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割と大きめの毛虫。話題の外来種なのではないかと思い、目についた個体をすべて採集。
(しかし、帰宅後に普通種のクワゴマダラヒトリと判明。)
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他には、葉を頑丈につづっている幼虫がいたくらい。オオミドリシジミの探し方は昨年習得したのだが、ついに見つからなかった。成虫の発生時期は6月、果たしてこのエリアで見られるのだろうか。
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コナラひこばえの探索がひととおり終わったところで、日が差して気温が上がってきた。カミキリムシ狙いの花掬いもしてみたいので、目星をつけた場所まで引き返す。
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池の対岸に、白い花が咲いているのが見えるだろうか。
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今まで見たことないが、ウワミズザクラに似て良さそうな感じ。
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池の周囲に沿って進み、釣り人の道を利用して木のそばまで近寄る。
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ウワミズザクラとは明らかに違うが、名前が思い浮かばない。まだ満開ではないようで虫もあまり飛んでおらず、望みは極めて薄い。でも、せっかくここまで来たので、とりあえず掬ってみよう。長竿に網を取り付け、アカマツ倒木によじ登って足場を固め、風が止んだタイミングを逃さずに、一気に掬う。さあ、何が入っているだろうか。
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オオユスリカ
今まで見たことない大きなユスリカ。
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ツマキアオジョウカイモドキ
どんな貧弱な花にも訪れる、けなげな甲虫。
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ヒメクロトラカミキリ
こちらも、訪花性カミキリムシの中ではもっとも守備範囲が広く、他種が近寄らないような花からでも得られる万能選手。国内では今年初めてみる野外活動中のカミキリムシである。条件が良い花ならひと掬いで無数に得られるのだが、この花ではわずか2個体のみ。
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掬う直前の印象のとおり、網にはほとんど虫が入らなかった。虫が集まっていない理由は跡付けでいろいろ浮かぶが、花を選ぶ前に見抜けるかどうかが虫屋として重要な能力。まだまだ、経験が足りない。
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来た道を引き返し、小道をさらに奥へと進んでいく。
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このエリアはアカマツが比較的多く生えていて、倒木にはマツノマダラカミキリの生息痕跡がよく見つかる。
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この楕円形の小さめの羽化脱出孔は、おそらくクロタマムシ。まだ自力で採集したことがないので、初夏になったら探してみたい。
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道を歩きながら、めぼしい立ち枯れを見つけては樹皮をそっとはがしていく。
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アシマダラアカサシガメ
良く見るアカシマサシガメとは雰囲気が違ったので迷わず採集。帰宅後に調べてみて、種名が判明した。ちなみに、「日本原色カメムシ図鑑」には未掲載。
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ニジゴミムシダマシ
活動期には夜間に朽木の上を徘徊しているのをよく見かける。虹色に輝く体にカメラのレンズが写りこまないように撮影するのは意外と難しい。
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ツヤナガヒラタホソカタムシ
本の出版で話題になったホソカタムシの仲間だが、実は今回が初採集。次は東京でも探してみることにしよう。
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さらに歩いていくと、再びあの花を発見。ちょうど日も差していて、風が当りにくい位置に生えている。
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先ほどよりも開花状況は良い。虫の姿は見えないが、さきほどと違って甘い香りが漂ってきている。これは期待できそうと思いながら、長竿で掬ってみる。
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ヒラタハナムグリ
体長7mmほどだが、春先のシーズン開幕時にはとても大きく見える。好みの花はそれほど広くないらしい。
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ヒメクロトラカミキリ
先ほどよりも個体数がずっと多く、大型の個体も入る。良く似たズマルトラカミキリではないかと1匹ずつ確認していくが、本種だけであった。
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ナミハナムグリ
平地に春の訪れを告げるハナムグリ。フサフサの毛に覆われているのは寒さ対策。この種が来るということは、花としては割と良いはず。
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時間をあけて何回か掬ってみるが、虫の飛来状況はいまいち。もう少し気温が上がってくれれば良いのだが・・・・。
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とりあえず、今回は下見がメインなので粘ることはやめて、先へ進むことにする。
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復元された湿地
保全活動が行われていて、立ち入り禁止。
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湿地の一角ではサギが獲物を狙っている。撮影の少し前に獲物を捕えていたが、何が生息しているのだろうか。
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湿地の近くには、スゲ類が花盛り。スゲハムシがいないか探したが、見つからなかった。
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湿地を後にしてなおも歩くと、再びコナラが多い小道に出る。適度に手が入り、なかなか雰囲気は良い。
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ちょっと奥に目をやると、小規模な段差がある。オサ掘りには微妙な時期ではあるが、とりあえず手鍬を取り出して掘ってみる。
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土は適度な状態で、根の入り方も良さそう。しかし、出てくるのは大量のトビズムカデのみ。
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ヒメスズメバチ女王
もう少ししたら冬眠から覚めて、巣作りのため飛び立つのだろう。
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適当に場所を移動しながら掘っていくが、相変わらずムカデが多い。変わったことといえば、アリの巣を掘り当てたくらい。ムカデもスズメバチも眠ってるのでオサムシもまだ潜っていると思う、見つからないのは自分のオサ掘りセンスがないからに違いない・・・。
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そう思いながら掘り続けていると、崩した土の中に見慣れぬ影が現れた。
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この斑紋は、ヨツボシゴミムシの仲間。でも、今まで見たことない色鮮やかな紋だ。そして、何より、明らかに既採集種よりも大きい。
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オオヨツボシゴミムシ
数あるゴミムシの中で「美麗、大型、珍品」の三要素を兼ね備えたもののひとつ。東京にも生息していて、記録がある多摩川河川敷を探したこともある。いずれ出会いたいと思っていたが、こんなところで遭遇するとは。これだけで、今日は来た甲斐があった。
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参考までに、潜んでいた場所はこんなところ。隣接する部分とはちょっと違うような、そうでもないような・・・。
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この後、天気が悪化する兆候が顕著になってきたので、見落としたポイントがないかどうか確かめながら引き返す。
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カナメモチの若枝に残るルリカミキリの穿孔サイン。生息個体数はそれほど多くなさそうで、民家の生け垣を探した方が早いかも。
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クリの枯枝に残るクリタマムシの羽化脱出孔。脱出できなかった死骸があったので本種とわかった。
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12時半、最初のため池まで戻ってきたところで、雨が降り出す。完全に外れた天気予報を恨みながら、帰途についた。
帰宅後、あの花の名前を調べるため、「山渓カラー名鑑 日本の樹木」を開いてみる。
花は、こんな感じ。葉は互生。花弁が5枚でバラ科と見当をつけてページをめくるが、リンボクともバクチノキとも合わない(そもそも花期が合わない)。
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片っぱしからページをめくっていき、ようやく正体がわかった。
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初めて認識する樹木であった。花期以外に見分けられる自信は、まだ無い。
今回初めて訪れてわずか半日ほど歩いてみただけであるが、事前のイメージ通りそこそこ面白そうな場所であるという印象を持った。里山に居てしかるべきもののいくつかは欠落しているかもしれないが、その代わりに他とは一味違った種類も見られるようである。家から極めて近いので、季節を変えて何度か訪れてみることにしよう。