金剛山:下見編

2010.Apr.17

大阪府と奈良県の境に位置する、金剛山。オサムシ屋さんであれば知らない人はいないという有名な山である。それは、あるオサムシが生息しているから。

ドウキョウオサムシ(コンゴウオサムシ) Carabus uenoi (Ishikawa,1960)

世界中で、この金剛山と大和葛城山の高所にしか生息していないことと、特殊化した交尾器は、オサムシの進化を考える上で非常に興味深いものであるらしい。

近場に引っ越してきたので、甲虫屋のはしくれとしてその姿を拝んでおきたいところ。冬場のオサ掘りではまずお目にかかれないということなので、夏のトラップ採集で出会うという計画を立てている。生息範囲は狭いそうなので、現地の環境を知ることが重要。地形図や登山案内を見て目星はつけるが、細かいところは良くわからない。ということで、まずは下見へ。


8時過ぎ、河内長野駅に到着してアキラさんと約1ヶ月ぶりに再会。特別参加者1名とともに、バスに乗ってロープウェーを目指す。

終点に到着。周囲は見渡す限りの植林で、植栽のサクラがちょうど見頃を迎えている。

バス停から15分ほど歩いて、金剛山ロープウェー千早駅に到着。発車を待つ間、待ちきれないアキラさんが脇道で少し掘るが、昆虫はツチカメムシとハネカクシしか出なかった。

ロープウェーに乗り込み、一気に山頂付近へ。

6分ほどで、ロープウェイ金剛山駅に到着。山の上はやや雲がかかっていて展望はそれほど良くない。

気温はこのとおり。かなり寒い。

じっとしていても冷えるだけなので、雲に包まれた散策路を山頂方向へ。植生を見て夏の環境を想像しながら、ペースを考えて歩みを進めていく。

植林というと虫屋の視点からは良い印象がないのだが、整然とした林は時として幻想的な光景を見せることもある。

しばらく歩くと、林にブナが混ざるようになる。オサムシだけでなく、カミキリ屋の視点から見ても面白そうだ。

道沿いには一見良さそうな崖も散見され、アキラさんは掘りたくてウズウズしているのが感じられる。実際、過去の採集者の痕跡も道沿いで見られるのだが、こんな有名観光地でのオサ掘りは厳に慎むべきだろう。個体群への影響の有無という問題とは別に、虫屋さん全体の社会的地位を守るために。

しばらく歩くと、小道が見えたのでそちらへ進む。環境としてはかなり良さそうで、夏場は大いに期待できそう。

アキラさんが「カタクリがある」というので足元を見ると、初めて見る薄紫色の蕾が目に留まった。名前だけは知っていたが、実は姿さえ良く知らなかった。

さらに歩いて、山頂の一歩手前に到達。真の山頂は神域で立ち入り禁止となっている。

山頂を離れると、「ブナ林」の看板が現れる。

ブナの背後には、大和葛城山が一望できる。事前情報の通り山頂付近は草原で、それ以外はほぼ植林。この眺めではとても採集に行く気になれないが、裏側はどうなのだろうか。

休憩中、ササ藪に落ちてた枝が気になったので拾ってみると、そこにはルリクワガタ類の産卵マーク (・) が。

アキラさんにナイフで削ってもらうと、幼虫が出現。とりあえず、材ごと持ち帰って飼育することに。

山頂からさらに遠ざかり、ミズナラ林へ。どこかで朽木でも崩せないかと探すが、手頃なものが見当たらない。

枯れ沢は昨日の雨で水が流れている。まあ、今回は下見ということで採集意欲はほぼゼロなのだが、こうも採集ポイントが目に留まらないというのは珍しい。台湾で虫運を使い果たしてしまったか。

そう思った直後、背後からアキラさんの雄たけびが聞こえる。

「マイマイ出てきた~」

ということで戻ってみると、倒木の中に黒い虫が鎮座していた。

「マイマイじゃなくてクロナガですね。オオクロナガかな。」

マヤサンオサムシを毎日見ているアキラさんには、初めて見るオオクロナガはあまりにも巨大すぎたようである。

追加を狙うアキラさんを見て、私も少しだけ本気を出して斜面を早足で下っていくが、やがて植林になってしまい、ポイントも見つけられないまま引き返す。

アキラさんも追加は得られなかったようで、その近くの倒木に手を出す。


デバヒラタムシ

乾燥した赤腐れ材に大量に潜んでいることが多い。経験上、その材はオサムシ採集にはあまり良くないのだが・・・。

そろそろ昼になるのでロープウェーに戻るつもりで歩みを進めるが、アキラさんは道の途中でも粘ってあちこち探している。追いつくのを待っていると、またも雄たけびが聞こえた。

斜面を降りていくと、その手にはまたもオオクロナガが乗っていた。

この硬そうな倒木の一部を破壊したら出てきたという。

先ほどの個体はメス、今度はオスである。前回とは違って、今回は自力採集で1ペアが揃い、興奮は最高潮。

追加を狙ってさらに掘っていく。

だが、出てきたのはオオトラフコガネ類の幼虫。ここのはキイオオトラフコガネになるのだろうか。とりあえず、飼育して成虫を見てみないとわからない。この他にクワガタ幼虫も出てきたが、黒斑が現れていたので成虫になるかどうかはその個体の生命力の強さ次第。

もう掘っても無駄だろうという結論に達したところで、昼食のためロープウェー方面へ戻っていく。

今回の昼食は、なんと手作りのお弁当。暖かい芝生に座りながら、美味しくいただきました。早起きして作るのは大変だったことだろう。本当にありがとう。

下見はここまでにして、あとは麓で少しだけオサ掘り。ロープウェー金剛山駅へ向かい、歩いていく。

日当たりの良い斜面では、カタクリが開花。これにあのチョウが止まっていれば絵になるが、まだ早いのだろう。

麓に降りて、適当な林道や沢に入って掘ってみる。予定では、ヤコンやオオオサくらいは出てくるはずだったのだが、私のオサ掘りセンスの無さを披露するだけであった。


オオトラフハナムグリ類の幼虫

本日、自力で割り出した唯一の昆虫となった。もう少し早く見切りをつければ良かったものを・・・・。

とりあえず、今回はあくまでも下見。本番は夏。これに懲りず、また一緒に採集に行きましょう。

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